ギュスターヴ・モロー美術館
系派、絵画の枠を越えた魂の衝撃〜モローが及ぼしたもの〜
サロメ、一角獣、ケンタウロス、詩人。モローが描く神話や聖書の世界は、愛や死、理性と情念など、誰でもがもつ心の奥底の問題に訴えかけてきます。それはまるで魔法のように見た者の創造性をインスパイアーせずにはおきません。
世紀末の文学者を熱狂させた、カリスマ的存在。
40歳頃のモロー
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フロイトなどの心理学者さえも神話に潜在する普遍性に気づく以前に、絵画でその奥深い探求を表現したモローに、パリ世紀末の詩人、小説家、批評家は驚喜し絶賛を浴びせました。小説「さかしま」でモロー芸術を知らしめたユイスマンス、デカダン文学の代表作「失われた時を求めて」の著者マルセル・プルーストなど、文学に計り知れない影響を与えたモロー。 アカデミスムにも自然主義にも属さない彼の芸術は、小説家エミール・ゾラによって、物語を通じて芸術や人間の生の奥深いテーマを表現する「象徴主義」と名づけらました。じつは文学的といわれることに生涯抵抗を示したモロー、その意に反し崇高な芸術性は分野を越えたインスピレーションを放ったのです。
マティスやルオーに与えた、作風を超えた芸術思想。
54歳でのサロン出典を最後にひとり創作の世界にこもっていたモローは、66歳にして友人の後任として国立美術学校のアトリエ主任教授の任につきます。そこから巣立ったのはのちのフォービズムの巨匠となるマティスをはじめ、ルオー、マルケといった20世紀に名を残す画家たち。しかしそこに彼の芸術的系譜は見あたりません。「私は橋です。君らの何人かがそれを通っていくでしょう」あまりに独創的な世界を築きながら、絵画の多様性こそが芸術であることを説いたモロー。日曜日ごとに現在のモロー美術館である邸宅に数人の教え子や、若手芸術家を招き、芸術家としていかに生きるべきかを生身で示しました。その彼を愛弟子の誰もが慕い、生涯にわたり感謝の念を抱きつづけたといいます。ルオーはその学舎ともいえる、モロー美術館の初代館長を務めています。
モローが編んだ夢のすべてに浸る〜ギュスターヴ・モロー美術館〜
成功前から準備していた邸宅とアトリエの個人美術館。
4階 アトリエ
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モローは、建築家である父ルイと、ピアノを得意とした母ポリーヌの間に生まれ、古典芸術や神話の広い素養を吸収しながら絵画の道へ進みました。はじめて感銘を受けたのはロマン主義の巨匠ドラクロワ。そしてその色濃い影響を脱却すべくでかけたイタリア留学で、模写を重ねたラファエロなどの古典主義の画家たち。歴史画に新しい息吹を吹き込むことを模索し、画家として成功を収めたのは25歳のデビュー以来10年ぶりのサロン出展となる1863年のこと。前にも後にも系譜をもたない孤高の画家モローは、「芸術家としてどうあったか、夢想していた境地がどんなものであったか」を残すために作品世界をひとつにまとめる構想を、早くもその成功の前年に描いたクロッキーの片隅にメモしています。1852年画壇デビューの年に家族と移り住んだラ・ロッシュフーコー街の家とアトリエをその展示場所と定めたのは、死の3年前である1895年のことでした。現在美術館の3階、4階にあたる二つの大展示室が増築された後、親友であるアンリ・リュップの尽力により国に寄贈された邸宅は、作品の展示位置から調度品にいたるまで、画家生前のままに留め置くように、との遺言に従う形で、1903年に世界で初めての個人美術館として開館しました。
最も大胆かつ興味深いモロー作品を所蔵。
2階の寝室
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熱狂的支持者をもち死後すぐに開館を迎えたモロー美術館。ところが歴史画という古典的題材、指導者としての評判が逆風となり、20世紀の半分はほとんど忘れ去られていた場所でもありました。再び脚光を浴びたのは1961年パリでの個展がきっかけ。はじめて訪れた人は、所せましと壁一面に飾られたモローの膨大な作品に驚きます。1200点にもおよぶ油彩、水彩、カルトン、約5000点の素描は、「オイディプスとスフィンクス」「出現」など作品の習作から完成にいたる全行程を見ることができます。しかもそれらがモロー自身の指示した部屋、配置に何ひとつ逆らわず展示され、モローの編んだ世界観にたっぷりと包まれる特別な時間が過ごせる空間となっています。多くの未完の作品からは、他の美術館では見られないモローの秘めたるほとばしりに触れることができます。
一世紀の封印を解いて公開されたモローの書斎
1階 書斎
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1階の玄関から急な階段を上って左手すぐ、モローがその昔モンテスキュー伯爵をはじめ親しい友人を迎えたように、「キャビネ・ド・レセプション」と呼ばれる書斎が出迎えてくれます。2003年、開館100周年を記念して公開された特別な一室です。20代にイタリア留学やルーヴル美術館で描いた模写や、油絵、水彩画、父から譲り受けたアンティーク、豊かな蔵書は、癌の病をおして亡くなる直前にモロー自身が整えたというもの。彼がまとめ置きたかったモロー芸術の根幹をなすものたちは、モロー美術館を探索する上でのキーワードを与えてくれます。特別な人だけが招かれたといわれるその部屋で、モローから直々に招かれ、邸宅を訪れたような気分をまずは存分に味わえます。
他では見られない大画面の作品に出会えるアトリエ
螺旋階段のある3階の大広間
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3・4階は、1895年に美術館のためにモローが設えた作品のための空間です。大広間では「求婚者達」など、モローがのちに拡大しさらに深い思想を描き込んだ4つの作品をはじめ、他美術館にはない大画面の作品を鑑賞できます。そして注目すべきは、モロー自らが増設した螺旋階段(からの眺め)。一段一段登るごとに絵画の上部へと観察することができ、モローの世界に囲まれた空間を一望するのは、まさにここでしか味わえない体験です。その階段を登ると、4階のアトリエにたどり着きます。モローの遺言に含まれなかった寄贈による晩年最後の完成作品とその改作である2つの「ジュピターとセメレー」などを見比べられたり、売却された作品には見あたらない主題のものを鑑賞できる幸福に出会えます。また可動展示板付きの家具には水彩画、淡水画、パステル画が収められ、モロー作品のほとんどの主題のいっそう自由な表現が楽しめます。
ひとりの画家の生涯のデッサンを包括できる世界唯一のミュゼ
4階 アトリエ 可動展示板付き家具
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画家自らが痕跡のすべてを残すことを意図したモロー美術館。すべての作品にまつわる全生涯のデッサンがひとつの場所で見られるのは世界でもここだけです。3階と4階の窓の下の戸棚には、約400枚もの素描を所蔵。画家として初期の素描や、作品最初の不明確できごちないデッサン、そして最終的な完成素描までが見て取れます。森を分け入るように、好きな作品の源となるデッサンを探し出すのは、ここモロー美術館ならではの神秘的な楽しみ。動物や、好んで訪れたエスタンプの風景、木々や花々のクロッキーなど、開放的な筆使いも意外な発見もあるでしょう。また1階C室では新古典主義に学んだ彼のルーツともいえる古代やルネサンスの丹念な模写も見ることができます。ドラクロワに心酔した「色彩」の画家ともいわれるモローの、「線」というもうひとつの魅力にたっぷり触れられます。
モローが大切にしていた品々が残るプライベートな空間
2階 居間
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かつて家族の住居だった2階のアパルトマンには、モローの思い出の品々がそのままに残されています。左手の食堂の食器棚には父のコレクションであった上質な陶器が飾られ、「ジュピターとセレメー」の色合いを想起させます。また寝室には両親から受け継いだアンピール様式のベッドが置かれ、イタリア留学時代を供に過ごしたドガによるモローの肖像画をはじめ、家族の肖像や思い出の品々が集められています。
美術館のためにモローが特注で作らせたガラスケースの中にはモロー家を物語る細密画や、写真、勲章などが飾られ、片隅には13歳で無くなったモローのたったひとりの妹のビロード製のスリッパが置かれています。居間は、モロー生涯のただひとりの恋人といわれるアレクサンドリーヌ・デュルの思い出の品を展示しています。彼女に贈った作品「愛の対話」などの12作品ほかモローに関する当時の新聞記事のスクラップなども見どころです。美術館すべてが画家の魂が宿った場所。まるでまだモローが生きているかのようなミュゼは、彼の芸術のすべてを肌で感じるもうひとつの作品です。
Muse´e Gustave Moreau
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PARIS MUSEUM PASS 利用可能施設
所在地:
14, rue de La Rochefoucauld, Paris
休館日:
火曜日、祝日
開館時間:
10 :00-12 :45
14 :00-17 :15
入館料:
一般:4ユーロ
日曜日、26歳未満は2.60ユーロ
第一日曜日、18歳未満は無料
<国内展覧会情報>
ギュスターヴ・モロー美術館の作品を公開するフランス「ギュスターヴ・モロー」展が東京渋谷文化村で開催中です。ぜひお見逃しなく。
MMFで出会えるモロー
インフォメーションセンター
モローコーナー
東京渋谷文化村「ギュスターヴ・モロー」展会期に合わせて、ギュスターヴ・モロー美術館のコレクション・アルバム(日本語、フランス語)、グラン・パレで行なわれた「Gustave Moreau」展(1998-99)図録、その他モロー関連の日本語書籍を閲覧用にご用意しております。
モロー美術館のコレクション・アルバム(2003年改訂版) はフランス・日本語版ともにご購入いただけます。
3Fギャラリー
「物語の森へ:古代ギリシャ・ローマの物語世界へ」展
2005.10.8-2005.12.10
 

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