▲リール中心部の美しい街並み

　リール宮殿美術館は、フランス革命勃発後の1792年に画家ルイ・ヴァトー（Louis Joseph Watteau）の指揮のもとに創設されました。初期のコレクションの中心は、リール市内の教会や修道院に飾られていた絵画や芸術アカデミーで展示された作品でした。コレクションが充実する契機となったのは、1801年に発布されたシャプタル（Jean Antoine Chaptal）の政令でした。この政令により、ルーヴルとヴェルサイユの美術コレクションの一部が、フランス国内の15の都市に割り当てられることとなり、リールはそのうちの１都市としてコレクションを受け入れることが決まったのです。こうして王室やパリの教会などが革命前に所有していた由緒ある美術作品の中から、46点の良質な絵画がリール宮殿美術館の新たなコレクションとして加わりました。そして、以降も美術館は複数のコレクショナーから絵画、デッサン、彫刻など、重要なコレクションの寄贈を受け続け、所蔵作品を増やしていきました。1850年に新市庁舎の最上階へと移った美術館は、隣接するパレ・リウール（Palais Rihour）内の古代博物館と後に統合され、時代、分野ともに幅広い内容のコレクションを有する美術館となるのです。

▲現在は観光案内所が入っているパレ・リウール。ファサードの彫刻が美しい

▲レピュブリック広場とパレ・デ・ボザール

▲新古典主義様式の豪華な外観を持つパレ・デ・ボザール

　コレクションはメセナによってさらに増え、やがて、新しい美術館が建設されることとなりました。現在の美術館の建物である、新古典主義様式の豪華な外観を持つパレ・デ・ボザールは、美術館のコレクションの展示を目的に新しく建設されたもので、1892年にリールの「美術の殿堂」として開館しました。

　開館から約100年を経た1991年から1997年にかけてリール宮殿美術館では大規模な改築工事が行われました。この時、新たに建設されたのが、現在ではパレ・デ・ボザールとともに、美術館のシンボルとなっているガラス張りの建物です。作品の保存と研究を目的としたこの建物の誕生により美術館の展示スペースは7,000m²から12,000m²へと、2倍近くに広げられました。

　このモダンな建物には、ひとつのコンセプトが隠されています。パレ・デ・ボザールは19世紀の建設当初、ふたつの建造物からなる予定でしたが、諸事情によりふたつ目の建物は建設されませんでした。20世紀に誕生した新たな建物は、そのガラス張りのファサードを鏡としてパレ・デ・ボザールの全体像を映し出します。かつて、幻と消えたふたつ目の建物が100年の時を経てその姿を現しているのです。

▲パレ・デ・ボザールをファサードに映す美術館の新しい建物

▲改築工事を機にパレ・デ・ボザールのエントランスに取り付けられたモダンな巨大シャンデリア。イタリアの建築家ガエタノ・ペッシェ（Gaetano Pesse）の作