小説家モーリス・ルブランの足跡をたどるエトルタ―「アルセーヌ・ルパンの家」

今年で開催時期と名称が変わって以来、第2回を迎えるフランスの読書祭り「ア・ヴ・ドゥ・リール!(À vous de lire ! )」。去年に引き続き、2011年5月26日(木)から29日(日)までの4日間、フランス各地で朗読会をはじめとしたさまざまなイベントが行われる予定です。そこで今月の「ミュゼあれこれ」では文学にまつわるスポットをご紹介します。今回取り上げるのは、フランス北部の街エトルタ(Étretat)にある小説家モーリス・ルブラン(Maurice Leblanc/1864-1941)の旧邸宅「アルセーヌ・ルパンの家」。イギリスのシャーロック・ホームズと並んで世界中で人気を誇る推理小説の主人公、怪盗ルパンの“秘密の隠れ家”へとご案内します。

芸術家を魅了したノルマンディーの街エトルタ

▲フランスを代表するリゾート地、エトルタ
© ATOUT FRANCE/R-Cast

 フランスのノルマンディー地方、英仏海峡に面した海沿いの街エトルタ。19世紀末からこの地は海水浴場、カジノ、ゴルフ場などのレジャー施設が整備され始め、リゾート地として発展しました。現在もフランス北部有数の観光都市として、毎年数百万人もの観光客が世界中から訪れています。

▲エトルタの街並み。右端の建物はカジノ

 そんなエトルタの象徴が、海沿いの切り立った白い岸壁です。「アヴァル(Aval)」、「マンヌポルト(Manneporte)」、「アモン(Amont)」と名付けられた3つの断崖は、それぞれ自然のアーチを持ち、異なる表情でエトルタの雄大な風景を生み出しています。また、緑の芝生に覆われた断崖を登れば、大海原や丘に囲まれた街の眺望が眼下に広がります。

▲エトルタのシンボルでもあるアヴァルの断崖のアーチ
© ATOUT FRANCE/Pascal Gréboval
▲岸壁上から見たエトルタの街とアモンの断崖

 エトルタの断崖の風景が有名なのは、クールベ(Gustave Courbet/1819-1877)、モネ(Claude Monet/1840-1926)、コロー(Jean-Baptiste Camille Corot/1796-1875)、ブーダン(Eugène-Louis Boudin/1824-1898)など、19世紀の多くの画家によってその風景が描かれたことが大きく影響しているといえるでしょう。とりわけクールベやモネによって描かれたアヴァルの断崖は、象の鼻のような形をした細いアーチが特徴で、エトルタの最も代表的な風景として人々に親しまれています。

▲クールベ《嵐の後のエトルタの断崖》1870年 
オルセー美術館蔵
©RMN (Musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski
▲モネ《エトルタの荒海》1868〜1869年 
オルセー美術館蔵
©Musée d'Orsay, Dist. RMN / Patrice Schmidt

 しかし、エトルタの自然に魅了されたのは画家だけではありませんでした。フロベール(Gustave Flaubert/1821-1880)、モーパッサン(Guy de Maupassant/1850-1893)、ジッド(André Paul Guillaume Gide/1869-1951)、そしてルブランなど、フランスの著名な作家たちは主に夏にエトルタを訪れては、海辺のさわやかな空気のもとで執筆活動を行っていました。市庁舎前から続くモーパッサン通りには、その名の通り、モーパッサンが毎年夏にやってきたという別荘(現在個人所有のため、見学は不可)や、ジッドが結婚式を挙げた素朴な教会、そして怪盗ルパンの生みの親であるルブランの邸宅が残っています。

▲ジッドが結婚式を挙げた教会

 中でもルブランは、エトルタの名声を不朽のものにした作家のひとりです。というのも、ルブランの書いたルパン・シリーズで最も人気のある作品のひとつ『奇巖城(きがんじょう)』は、このエトルタを舞台としているからです。さらにエトルタのルブランの旧邸宅は、現在「アルセーヌ・ルパンの家」として一般に公開されており、エトルタの見どころのひとつに数えられています。

ルパン・シリーズ初の長編作『奇巖城』

フランス・ノルマンディー地方の古い屋敷に盗賊が侵入し、秘書が殺されたが、おかしなことに盗まれたものはひとつもない。しかしこの事件を調べ始めた少年探偵イジドール・ボートルレは、屋敷に飾られた4枚の名画に目を留める。4枚の絵画は偽物ではないか――? 事件にまつわる謎を解くうちに、しだいに伝説的な怪盗紳士アルセーヌ・ルパンの影が見え隠れするのだが……。果たしてイジドールは暗号を解読して、ルパンを追い詰めることができるのか? フランス王家の財宝、太陽王ルイ14世が仕掛けた罠といった壮大なスケールで繰り広げられるルパン・シリーズ最大のヒット作。

 
Update : 2011.5.1
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アルセーヌ・ルパンの家

アルセーヌ・ルパンの家

  • 所在地
    15 rue Guy de Maupassant 76790 Étretat
  • Tel
    +33(0)2 35 10 59 53
  • Fax
    +33(0)2 35 28 47 60
  • URL
    http://www.arsene-lupin.com/
  • 開館時間
    4月1日〜9月30日:10:00-17:45
    10月1日〜3月31日: 土・日曜日の11:00-16:45
    *フランスの学校の休暇期間中は上記の開館時間で平日も開館
  • 休館日
    1月1日、12月25日
  • 入館料
    一般:6.75ユーロ
    6〜16歳:4.25ユーロ
    *入館料にはオーディオガイド代含む
  • アクセス
    パリSaint-Lazare駅からLe Havre駅まで電車で約2時間、Le HavreよりFécamp行きのバスでHôtel de Ville d'Étretat下車

MMFで出会えるアルセーヌ・ルパンの家

  • B1Fインフォメーション・センターでは、アルセーヌ・ルパンの家のカタログを閲覧いただけるほか、パンフレットをご用意しています。
 

*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。

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