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ラ・ピシーヌ、ルーベ工芸美術館
  MMFのwebサイトをご覧になっているみなさまに、パリから素敵な便りが届きました。差出人は、美術を心から愛するマダム・ド・モンタランベール。日々、美しいもの、真なるものを求める彼女は、四季折々に輝くミュゼの上質な愉しみ方を教えてくれます。フランスへ旅立つとき、このコーナーにお誘いが届いていたら、マダムの隠れ家のようなミュゼに足を伸ばしてみませんか。  
親愛なる日本のみなさまへ
今日は、わたくしと主人がベルギーを旅した折に、フランス北部の町・ルーベで訪れた『ラ・ピシーヌ、ルーベ工芸美術館』についてお話いたしましょう。このミュゼは、わたくしたちフランス人のあいだでも、とりわけ魅力的な美術館として知られています。
かつてこの町にあった美術館は、第二次世界大戦中に閉館されてしまいましたので、散逸していたコレクションを収めるために、新しい美術館を設立することになり、当時の市長アンドレ・ディリジャン氏とブルーノ・ゴーディション美術館長は、閉鎖されていた市営プールを、
▲ラ・ピシーヌの内部
Le grand bassin
Architectes : Albert Baert (1932) et Jean-Paul Philippon (2001)
Photo : Florian Kleinefenn
©"La Piscine" Musée d'Art et d'Industrie André Diligent - ROUBAIX
       

▲ピエール・ボナール『バーンハイム夫人の肖像』
Pierre Bonnard (1867-1947)
Portrait de Madame Bernheim, vers 1916
Huile sur toile
Dépôt du musée d'Orsay
Photo : Arnaud Loubry
©"La Piscine" Musée d'Art et d'Industrie André Diligent - ROUBAIX

美術館の建物として選んだのです。この独創的な発想もふたりにとっては、とても当然のなりゆきだったようです。と申しますのも、町の中心に位置する市営プールは立地の点からいっても申し分なく、かつてはルーベの人々の多くが社会的な階層を問わず訪れた施設だったからです。いうなれば、このプールは市民がお互いのきずなを深めることのできた、いこいの場だったのです。(ラ・ピシーヌとは、フランス語でプールの意味です。)

アールデコ様式の美しいプールは、建築家フィリッポン(彼はガエ・アウレンティ女史とともにパリのオルセー美術館を手がけました)の手によって、プールなればこその持ち味を存分に生かした美術館へと見事に生まれ変わりました。プールは水を湛えたまま残され、タイルの装飾は在りし日の姿に復元がなされました。また、シャワールームは展示室へと改造されたのです。

その後、ミュゼには数々のコレクションが収められ、19世紀および20世紀の工芸博物館としての一面も持つようになりました。絵画と彫刻のコレクションは、新しく建てられた2つの棟に収められていて、いくつかの彫刻作品はプールサイドに特等席を与えられています。彫刻をご覧になりながらプールに沿って進まれると、水面に映る光がきらきらと輝く様にうっとりさせられることでしょう。

         
この美術館を代表する名作のひとつに、カミーユ・クローデル(1864-1943)の大理石の彫刻『城に住む少女』(1896)がありますが、この作品にまつわるお話は、わたくしが先月お送りしたお手紙のなかでみなさまにお伝えしたものです。
     
美術品のコレクションは年代順に、またテーマ別の展示がなされていて、とても見学しやすくなっています。アカデミックな絵画やフランス北部の写実主義的な絵画の展示室のお隣りには、オリエンタリズム絵画の部屋があります。エミール・ベルナール(1868-1941)の『大麻を吸う女』(1990年)といった作品にみられるような、異国情緒溢れるテーマと眩いばかりの色づかいに、わたくしは深く魅せられました。
印象主義とフォーヴィスムの登場によって絵画は近代化への道を歩み始めますが、その特徴は女性や自然を題材にした作品によく現れます。この美術館では、ピエール・ボナール(1867-1947)が1916年頃に描いた『バーンハイム夫人の肖像画』や、エドゥアール・ヴュイヤール(1868-1940)による『庭園にいる子供たち』(1929年)などをご覧になれば、お分かりいただけることでしょう。

ラ・ピシーヌでは、ルーベの町に名声をもたらした毛織物産業にまつわる展示も見どころのひとつです。19世紀から今日に至るまでの生地見本や型紙、模型や下絵見本までもが集められたテキスタイル・コレクションは、とりわけ見事なものです。


▲パブロ・ピカソ『バッカス祭』
Pablo Picasso (1881-1973)
Grand vase Bacchanale (1950)
Terre cuite rouge gravée et peinte l'engobe,
Empreinte originale
Photo : Arnaud Loubry
©"La Piscine" Musée d'Art et d'Industrie Andr
é Diligent - ROUBAIX

         

▲生地の見本帳
Livre d'échantillons textiles
<rubans>(été1925)
Photo : Arnaud Loubry
©"La Piscine" Musée d'Art et d'Industrie André Diligent - ROUBAIX

また、ピカソやレジェの作品を含む19世紀および20世紀の陶磁器コレクションも素晴らしく、1913年のゲント万国博覧会(ベルギー)の折に、陶器作家のサンディエが創りあげたせっ器製の門は、プールサイドで堂々たる風格を湛えています。

そしてお忘れにならないでいただきたいのは、建築当初の室内装飾が残るレトロな佇まいのレストランでの“美味しい”ひと休み。美術館の中央にあるこのレストランのテラスに腰をかけ、美しい中庭を眺めながら、ルーベの町ご自慢のマダガスカル・バニラのワッフルを召し上がってみてはいかがですか。

         
ラ・ピシーヌはオルセー美術館と同じく、興味深い歴史や改修工事の成功、その所蔵品を通じて、素晴らしいミュゼとして知られるようになりました。ここは、まさに19世紀から20世紀初頭にかけてのフランス芸術の縮図といえるのかもしれません。

親愛をこめて。
     
アンヌ・ド・モンタランベール

  ▲ラ・ピシーヌ美術館の入口
Vue extéieure de l'entrée
Architecte Jean-Paul Philippon (2001)
Photo : Arnaud Loubry
©"La Piscine" Musée d'Art et d'Industrie André Diligent - ROUBAIX
  ▲プール沿いに並ぶ彫刻
Vue transversale du bassin
<La Piscine> Musée d'Art et d'Industrie André Diligent - Roubaix
Architectes : Albert Baert (1932) et Jean-Paul Philippon (2001)
Photo : Florian Kleinefenn
©"La Piscine" Musée d'Art et d'Industrie André Diligent - ROUBAIX
  ▲美術館の中庭とレストラン
Jardin intéeur
Photo : Arnaud Loubry
©"La Piscine" Musée d'Art et d'Industrie André Diligent - ROUBAIX
 

Musee Info 館内にてご自由に閲覧いただけます。
住所
 
23 rue de l’Espérance 59100 ROUBAIX
Tel
 
03 20 69 23 60
Fax
 
03 20 69 23 61
URL
 
http://museeroubaix.free.fr
アクセス
 
SNCF駅下車、徒歩5分(市庁舎方面へ)
開館時間
 
月〜木曜日11時から18時、
土・日曜日は13時から18時
入館料
 
5ユーロ、毎月第1日曜は常設展無料
バー&レストランおよびミュージアムショップ
(カタログ、美術書)併設。
ラ・ピシーヌ関連書籍
MMFのインフォメーション・センターでは、ラ・ピシーヌ工芸美術館の公式ガイドブック、フランスを代表する美術専門誌「L’Oeil」のラ・ピシーヌ特集号(英語)などの書籍をご覧いただけるほか、パンフレット(英語)をお持ち帰りいただけます。
 
  マダム・ド・モンタランベールについて

本名、アンヌ・ド・モンタランベール。
美術愛好家であり偉大な収集家の娘として、芸術に日常から触れ親しみ、豊かな感性が育まれる幼少時代を過ごす。ブルノ・デ・モンタランベール伯爵と結婚後、伯爵夫人となってからも、芸術を愛する家庭での伝統を受け継ぎ、ご主人と共に経験する海外滞在での見聞も加わり、常に芸術の世界とアート市場へ関心を寄せています。アンスティトゥート・エテュディ・デ・スペリア・デザール(IESA)卒業。
 
 
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