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フォルネ図書館
Chers Amis
10月中ごろといえば、フランスでは「Lire en fête(読書祭)」の季節。誰もがより書物に親しめるようにと、文化省後援のもと全国でさまざまなイベントが行われます。そこで、今月は皆さまを「Bibliothèque Forney(フォルネ図書館)」へとご案内いたしましょう。ここは、芸術、そして産業技術の専門図書館として知られています。
▲フランス式庭園の美しいフォルネ図書館。
© A. de Montalembert
フォルネ図書館があるのはパリ4区、フィギュイエ通りに建つ「サンス館」。パリ市内でもっとも古く趣のある「マレ地区」でのそぞろ歩きを楽しみつつ、図書館へと向かってください。狭い路地が縫うように走るセーヌ河沿いのこの一画は、まるで小さな村に迷い込んだかのような雰囲気で、すぐ裏手にはサン・ジェルヴェ・サン・プロテ教会がその美しい佇まいを見せています。
     
▲フィギュイエ通り沿いに建つ図書館。
© A. de Montalembert

途中、何軒ものアパルトマンとその中庭が複雑に入り組んで出来た「ヴィラージュ・サン・ポール」にさしかかります。骨董品店が連なるこの一画を抜ければ、そこはサンス館。パリでも数少ない中世の邸宅の遺構です。1475年から1519年、当時パリ司教区を管轄していたサンスの大司教の私邸として建てられ、その後にはフランス王アンリ4世の妻であった、王妃マルゴことマルグリット・ヴァロワが暮らしたこともあったそうです。

フィギュイエ通りに面したファサードと、円錐形の2つの小塔をもつこの館には、中世の城であるかのような堅牢な趣きがあります。かつてはこの小塔、そして「塔」の名にふさわしく螺旋階段を備えた四角い主塔からパリ市街を見渡し、館の安全を守っていたのでしょう。
         
館に入られたら、ゴシック様式の優美なポーチや繊細なアーケード装飾の施された玄関の丸天井、そして紋章で飾られた窓などもお見逃しにならないで下さいね。残念ながら、数世紀という時の流れとともに、内装はかなり痛んでしまったようですが、優雅な刳り型装飾が施された暖炉や主塔の螺旋階段は往時のままに残されています。

20世紀に入るとサンス館(なんと、当時はジャム工場となっていたのです!)は、フォルネ図書館の開館のために、中世の様式を残しつつ全面的な改修がなされました。なかでも素晴らしいのは、広い読書室に復元されたゴシック・フランボワイヤン様式の回廊。その壮麗なる佇まいには、この図書館を訪れる誰もが感嘆のため息をもらすほど。また、在りし日の姿を取り戻したフランス式庭園は、読書の合い間のちょっとした気分転換や散策にぴったりの心地よい空間です。
▲ニコラス・ケリン『サンス館1840年』
© Bibliothèque Forney/ Mairie de Paris
         
▲美しい回廊のある読書室。
© Bibliothèque Forney/ Mairie de Paris
図書館の名は篤志家サミュエル・エメ・フォルネにちなむもの。裕福な実業家だったフォルネは19世紀末、自らのコレクションと莫大な資金を職人の育成のためにパリ市へ寄贈したのです。こうして、産業技術を専門にした図書館が創設され、手工業に携わる人々が仕事に関する調べものをしたり、書物や資料を借りたりすることができるようになりました。現在、その蔵書の素晴らしさは、国内外で高い評価を受けています。

図書館には多くの専門書や研究書が所蔵されていますが、その蔵書の豊かさは大学図書館にも匹敵するほど。なかには装飾関連の著作のほか、日本の文様に関するとても素晴らしい近年の図録もあり、展覧会やサロン、美術館、オークションなどのカタログも揃えられています。
         
一方、プリント生地と織物見本の豊かなコレクションのほか、職人たちの手本となる品々(装飾金具や家具調度品)などの書籍以外の所蔵品もありますが、それはまさにこの図書館の宝といえましょう。テーマごとに分類されたポストカードは100万枚を超え、2万枚以上からなるポスター・コレクションはフランス第3の規模を誇ります。さらに、定期刊行物のコレクションには、国内外から集められた3,500タイトルが所蔵されています。
     

サンス館に居を構えた当初から、フォルネ図書館は国際交流の重要な拠点ともなってきました。蔵書はもちろん、上述したような図書館のコレクションが、インスピレーションと創造力、そして探求心の源として、世界中の芸術家やクリエイター、スタイリスト、学生たちを惹きつけているのです。

こうしたコレクションを利用して、定期的に企画展も開かれています。たとえば、2006年9月19日から12月30日までは、有給休暇に関する法律の制定70周年にちなんで、「バカンス: 1世紀のイメージ、幾千もの夢(1860-1960)」という企画展が催されています。

▲オーベルカンプ社製造のプリント生地『中国人と寺院』1776年頃。
© Bibliothèque Forney/ Mairie de Paris
  ▲エッフェル塔の職人を描いたポスター、1920年。
© Bibliothèque Forney/ Mairie de Paris
         
▲企画展「バカンス: 1世紀のイメージ、幾千もの夢(1860-1960)」より
ルネ・グリュオー『モンテ・カルロ・ビーチ、1960年』
© Coll. bibliothèque Forney / Mairie de Paris
フランスでのバカンスのあり方は、交通機関の進歩もあり、ここ数十年のあいだに大きく変わりました。今回の企画展は、図書館が所蔵するバカンスにまつわるポスターやポストカード、カタログ、パンフレット、観光ガイドなどを通じてその変遷を辿るというもの。
ベルエポックの時代、休暇が許されたのは特権階級の人々のみ。目的地は海水浴場や湯治場でした。第一次世界大戦後は、スポーツとスピードの時代で、人々はブロンズ色の肌に憧れ、コート・ダジュールでのバカンスが流行します。1936年に有給休暇法が制定されると、労働者もまた海辺へのバカンスに繰り出しました。そして60年代、キャンプ場やマイカーが普及し、誰もが観光旅行に出かけられる時代がやってきたのです。

展示されている品々には表れているのは、フランス人なら誰しもが抱くバカンスへのイメージ─海、青い空、笑顔の女性たち!─。この展覧会へいらっしゃれば、皆さまもきっと、夢のバカンスへと誘われることでしょう。

         

最後に、2007年1月から3月にかけて、ボストン国立図書館とパリ市立図書館が共同で企画したアレクサンドル・ヴァテマル(1798-1864)に関する展覧会が開かれることもお知らせしておきます。あまり知られてはいませんが、ヴァテマルは出版物の国際交換に関するシステムを初めて開発し、知識と文化の普及に貢献した非凡なる人物です。

親愛を込めて。

▲企画展「バカンス: 1世紀のイメージ、幾千もの夢(1860-1960)」より
水着ブランド「RASUEL」の1969年のポスター。
© Coll. bibliothèque Forney / Mairie de Paris

▲フォルネ図書館の入り口。
© A. de Montalembert
▲図書館の読書室。
© Bibliothèque Forney/ Mairie de Paris
▲フォルネ図書館の中庭。
© A. de Montalembert

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Musee Info 「Lire en fere(読書祭)」やフランス国内の図書館についてより詳しい情報をお求めの方は、以下のサイトをご参照ください(フランス語)。
住所
 
Hôtel de Sens
1, rue du Figuier
75004 Paris
Tel
 
01 42 78 14 60
Fax
 
01 42 78 22 59
URL
 
www.paris.fr/portail/Culture/
Portal.lut?page_id=465
アクセス
 
メトロ:ポン・マリー(Pont Marie)もしくはサン・ポール(Saint-Paul)下車
休館日
 
月曜日、日曜日
開館時間
 
13:30-19:00(火曜〜土曜日)
10月7日の「Nuit Blanche(ニュイ・ブランシュ)」の日はオールナイトで開館し、フランス人アーティスト、エマニュエル・レイノーのビデオ上映あり。
2006年9月5日〜2007年春まで、図書館は工事のため休館。(ただし、展示ホールはこの期間もオープン)
「Lire en fête(読書祭)」公式サイト:
http://www.lire-en-fete.culture.fr/
パリ市の図書館公式サイト:
http://www.paris-bibliotheques.org/
http://www.paris.fr/portail/Culture/
Portal.lut?page_id=145
国立図書館公式サイト:http://www.bnf.fr/
ポンピドー・センター図書館:
http://www.bpi.fr/
日本国内でフランス語の図書資料をお探しの際は以下のライブラリーがおすすめです。
MMFインフォメーション・センター
http://www.mmm-ginza.org/museum/special/backnumber
/0610/special01.html
(施設案内)
https://www.mmm-ginza.org/CGI/
shozou_db/shozou_db.cgi
(所蔵資料データベース)
東京日仏学院メディアテーク
http://www.institut.jp/services/
mediatheque/
MMFでは10月10〜30日まで「MMFの読書祭」を開催します。
 
  マダム・ド・モンタランベールについて

本名、アンヌ・ド・モンタランベール。
美術愛好家であり偉大な収集家の娘として、芸術に日常から触れ親しみ、豊かな感性が育まれる幼少時代を過ごす。ブルノ・デ・モンタランベール伯爵と結婚後、伯爵夫人となってからも、芸術を愛する家庭での伝統を受け継ぎ、ご主人と共に経験する海外滞在での見聞も加わり、常に芸術の世界とアート市場へ関心を寄せています。アンスティトゥート・エテュディ・デ・スペリア・デザール(IESA)卒業。
 
 
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