Francais 日本語 マイヨール美術館
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それではミュゼ探訪を始めるといたしましょうか。まずは、むき出しの梁と石壁の第1展示室へ。訪れた人は、マイヨールによる4つの壮大な彫刻に釘付けになるに違いありません。ひとつめは、戦時中に慰霊碑として制作された《川》(1938-1943)という圧倒的な大きさの作品です。仰向けに横たわり、おびえた表情をたたえて波に押し流されていく女性の姿は、世界戦争を前にした人間の強い恐怖を象徴しています。その後ろにあるのが、古代ギリシャの傑作を思い起こさせる《囚われのアクション》(1905)。自分を拘束するものから自由になろうとする非常に力強い女性が表現されています。その横に置かれた《3人のニンフたち》(1930)という作品群は、若さと美に対する賛歌です。ニンフたちの姿勢はなんとも優美で、この女性像がマイヨールの最も人気ある作品のひとつであることも頷けます。《苦悩》(1921-1923)という作品は、椅子に腰掛けて手に頭をもたせかけ、凍てついた表情を浮かべた女性像で、動乱に打ちひしがれた姿が表されています。


▲第1展示室。
© A. de Montalembert

▲《川》のための習作 1938年。
© Adagp, Paris 2009

▲《苦悩》1921-1923年。
© A. de Montalembert


▲《レダ》1900年。
© Adagp, Paris 2009

そのまま地上階をまわると、そこは世界ががらりと変わります。既製の物体をそのまま、あるいは若干手を加えただけのものをオブジェとして提示する「レディ・メイド」を発案したマルセル・デュシャンの世界です。デュシャンは想像力によって、日用品を本来の機能から逸脱させた芸術家です。展示されているかの有名な《泉》(1917)をご覧ください。逆さまにした磁器製の男性用小便器が、女性の上半身と腰を思い起こさせるではありませんか。

2階へ行かれましたら、コナラ材を使った18世紀のボワズリー(木彫細工)が美しいサロンへ入られる前に、優雅な手つきをした《マリー》(1931)をはじめとする、マイヨールの彫刻4点を展示した小さな展示室へいらしてください。そこからは、絵画とデッサンにあてられたサロンがいくつか続きます。《赤い服のディナ》(1940)という作品は、ドレスの赤と背景の緑の対照的な色調に、ゴーギャン(1848-1903)の影響が見られる秀作。その愛らしく美しいお顔──なんと穏やかな幸福感に満ちているのでしょう。マイヨールは、彫刻を始める前に、《座って水浴びをする女》(1938)や《裸の黄色い大男》(1943)などの作品に見られるように、サンギーヌ(赤れんが色のチョーク)を用いたデッサンや、パステル画を数多く描いていました。丸みを帯びた女性の体が、見事に強調されており、絵画の中にも、彫刻と同じ官能と力強さが表されていたことが分かります。

最後の展示室で見逃せないのが、《地中海》(1902-1905)です。肉体のフォルムを究極までに単純化したこの作品で、マイヨールは世に認められました。またこれは、思わずそっと触れたくなるような、なめらかですべすべした肉体を表す彫刻の元祖ともいえる作品です。裸婦の美しさからインスピレーションを受けて制作されながらも、その目的は、もはやモデルを正確に再現することになく、いくつものテーマを想起させるものとなっているのです。


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