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トランプ博物館 backnumber
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▲通りから見た博物館の外観。
©Ville d'Issy-les-Moulineaux
親愛なる日本の皆さまへ

今回わたくしが訪れたのは、パリからメトロのアクセスのよいイッシー=レ=ムリノー。パリ市の南郊という土地柄ならではの歴史を刻んできた町です。今なお開発の只中にあるこの町は、ビジネス・スポットとして注目を集め、多くの企業がセーヌ河畔のイル・サン=ジェルマン沿いに建ち並びます。イル・サン=ジェルマンは、お散歩にはぴったりの気持ちのよい場所。《象徴の塔》という、ジャン・デュビュッフェ(1901-1985)の名作が、圧倒的な存在感をたたえて聳え立ちます。



▲博物館が建つオーギュスト・ジェルヴェ通り。
©A. de Montalembert

市役所近くでわたくしは、素敵な博物館に出会いました。フランスで唯一のトランプ博物館。世界に7館あるカードをテーマにしたミュゼのひとつです(うちひとつは日本の福岡県大牟田市にあります)。この博物館は、その優れたミュゼオグラフィー(コレクションの展示方法)と、オリジナリティ溢れる建築空間によって、1999年には、ヨーロッパ博物館賞を受賞しました。学芸員のマダム・バルビエールは、誇らしげにこのことをお話しくださいました。

このトランプ博物館はまったく異なるふたつのパートで構成されていますが、全体としては見事にひとつの世界を創り出しています。ひとつは町の歴史を紹介するギャラリーで、<コンティ館>と呼ばれています。とてもユニークなこの古い建物は、17世紀から18世紀にかけて、重要な役割を果たしたコンティ公の名高い城の名残です。オーギュスト・ロダン(1840-1917)やアンリ・マティス(1869-1954)、ジャン・デュビュッフェといった芸術家とイッシーの町とのつながりが紹介されています。


▲博物館の<コンティ館>。
©A. de Montalembert

▲<コンティ館>の展示室。
©Ville d'Issy-les-Moulineaux


▲トランプの大展示室。
©Ville d'Issy-les-Moulineaux

もうひとつは、1997年に建てられた美しい現代建築で、トランプ博物館ならではの興味深いコレクションを収めるために、特別に設計されたものです。1930年に町へ寄贈された多数のトランプや、近年に入手した逸品の数々などからなるカード・コレクションは、およそ1万1000点にものぼります。中にはトランプが7500点以上、さまざまな国々のさまざまな年代の版画やデッサン、ポスターなど2100点以上が含まれています。また、カードとかかわりのあるさまざまな分野の芸術を見ることもできます。古い作品や現代の作品、カード遊びをする人たちの世界と彼らの小道具類、カードの製作技術、さらには装飾芸術や舞台芸術といった観点からも、カードを知ることができるのです。

木製の美しい階段をのぼり、2階建てのギャラリーへと足を踏み入れたわたくしは、展示室の明かりのほの暗さに驚かされました。カードの保護のために明かりが落とされているのです。それでも、透明な展示ケースが用いられているため、作品はとてもよく鑑賞することができます。ところどころにあるヴェールのように薄くて大きなスクリーンには、カードが次々と拡大されて映し出されていきます。スクリーンは透明なので、トランプのイメージを映すだけでなく、その向こう側の様子もきちんと見ることができるのです。ギャラリーの壁には、カードを引き立たせる妨げにならないよう、くすんだ色のフレスコで、カード遊びをする人たちの世界が描かれています。そのほか、クルクルと回転するカードの展示ケースもあります。なんと遊び心溢れる、心地よい空間なのでしょうか。


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