カルティエ現代美術財団 ヨーロッパ文明にとってのギリシア文明  薩摩雅登著(東京藝術大学大学美術館助教授)
パリ発信の注目の現代アートが東京に上陸
  パリで現代美術の擁護者として大規模なメセナ活動を展開するカルティエ現代美術財団。
1984年に設立して以来、多くの展覧会や財団からの注文制作によって、
世界中のアーティストに活躍の場を提供してきました。
今回4月22日から東京都現代美術館で開催中の「カルティエ現代美術財団 コレクション」展には、
32作家、60点の作品が一堂に会します。
同財団が、これほど多くの作品を一度に紹介することは、世界で初めての試みです。
そしてこの記念すべき展覧会の舞台は東京―。
22年におよぶ現代美術普及の歩みや今展覧会の見どころを通してカルティエ現代美術財団の魅力をお伝えします。

現代アートの擁護者カルティエ現代美術財団
▲出展作品を前に解説をするシャンデス氏。
 パリのラスパイユ大通りで、ひときわ目を引くガラス張りの建物。ガラス越しにアートが語りかけてくるようなこの空間が、カルティエ現代美術財団の本拠地です。財団が誕生したのは、今から22年前の1984年のこと。企業のメセナ活動の一環として、同時代のアーティストを擁護し、現代アートの普及と発展に貢献してきました。
「私たちの財団の方針は、個々のアーティストがもつ“創造性”を重要視すること。そのためコレクションの大半は、注文制作という形をとっています」。こう語るのは、財団のディレクター、エルベ・シャンデス(Hervé Chandès)氏。
財団で企画の指揮をとるシャンデス氏をはじめ、プロジェクトにかかわるメンバーは、有名無名を問わず自分たちの好奇心を揺さぶる作家に制作を“白紙委任”し、多くの才能あるアーティストに作品発表の場を提供してきました。こうした注文制作は、時として既成概念にとらわれない斬新な作品を生み出します。
   
 例えば、ロンドン在住のデザイナー、マーク・ニューソン(Marc Newson)が2004年、財団の展覧会のために制作した作品は、なんとジェット機でした。いつか飛行機を作りたいと夢見ていたというニューソンは語ります。「僕自身も飛行機産業に携わってきたけれど、いつの間にか飛行機は産業的になりすぎたと思うんだ。美術館という空間のなかに置いたとき、飛行機の“形”がどのような可能性を秘めているか試してみたかった。
▲ アレッシィなどのデザイナーとしても活躍しているマーク・ニューソン。後ろが『ケルヴィン40』。
Kelvin 40, 2003
© Marc Newson Ltd.
僕が作った『ケルヴィン40』は飛ぶことはできないけれど、乗ることはできるんだよ」。今回の展覧会にも出品されているニューソンの『ケルヴィン40』は、手仕事の技とハイテク技術を結びつけた夢の「コンセプト・ジェット」として、人々に芸術とは何かという疑問を投げかけます。アーティストの夢を叶え、さらにあらゆる分野から収集された“現代の創造”を提示すること―。これこそが、カルティエ現代美術財団の大きな特徴であり、世界中の現代アート愛好家を魅了する理由でもあるのです。
 
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“思いがけない遭遇”に満ちた観る者の想像力をかきたてる作品たち
▲ ライザ・ルー『裏庭』1995-1999年。ビーズをつなぐ気の遠くなるような作業は、ボランティアの手を借りて完成した。
Back Yard,1995-99
© Liza Lou
 「東京のアートシーンはとても活気にあふれています。これまでも私たちは日本人アーティストを積極的に紹介してきましたが、彼らからはいつもすばらしいセンスと情熱を感じることができます。そんなクリエイターを生み出す東京は、私たちのコレクションを広く知っていただくのに最適な場所だと思います」と、シャンデス氏は展覧会の舞台に東京を選んだ理由を話してくれました。カルティエが自信をもって東京で発信する、巨匠から若手までの意欲作の一部を次にご紹介しましょう。
 今回の展覧会は、東京で初公開の作品、さらに未公開の作品も多く含まれています。まず、東京都現代美術館のエントランスを抜けると、来館者はアレッサンドロ・メンディーニ(Alessandro Mendini)の『プルーストの安楽椅子』に迎えられます。鮮やかな色彩を配した高さ3mもの巨大な椅子との対面は、まさに“思いがけない遭遇”。この椅子に見送られるかのように、私たちは「魅惑と驚き」をテーマにした展示室へ自然と歩を進めていくことになります。
1階でひときわ目を引く作品の一つが、第1展示室を飾るライザ・ルー(Liza Lou)の『裏庭』です。何千ものビーズを使い、3年の歳月をかけて制作されたあまりにも美しく楽しい実物大の“庭”で、25万本もの芝草や芝刈り機、洗濯物までがすべてビーズで再現されています。テーブルの上にはサンドイッチや倒れた缶からこぼれ出したビール……。ありふれた日常の風景が、アーティストの感性というフィルターを通すことによって、みごとな美的空間に変容するさまを、まざまざと見せつけてくれます。
   
 さらに現代彫刻の分野ではすでに巨匠といわれるリチャード・アーシュワーガー(Richard Artschwager)の『クエスチョン・マーク/3つのピリオド』や、深い精神性をたたえたマルク・クチェリエ(Marc Couturier)の『あなたはここに』などは、精神的なオーラを放ち観客を瞑想の世界へと誘います。そして今展覧会の目玉の一つともいえる作品がロン・ミュエク(Ron Mueck)の『イン・ベッド』。
▲ リチャード・アーシュワーガー『クエスチョン・マーク/3つのピリオド』1994年
Question Mark and Three Periods,1994
© Richard Artschwager/Adagp,Paris,2006
▲ 幻想的な世界を創造するマルク・クチュリエ。自らの作品『あなたはここに』の前で熱っぽくその哲学を語る。
Vous êtes ici,1989
© Marc Couturier
この2月までパリで開催された展覧会も大成功のうちに幕を閉じましたが、彼の創造する世界は現代彫刻の概念を塗り替え、その驚くほどリアルな作品に人々は魅了されます。今回出品されている物思いにふける女性がベッドに横たわる作品は、4m近くもある巨大なもの。恐ろしくリアルに表された皺や血管、ほくろなどを見つめているうちに、観客は知らず知らずのうちにメランコリックな表情を浮かべる女性の「物語」を夢想し始めるのです。

  ▲ ロン・ミュエク『イン・ベッド』2005年
In Bed, 2005
© Ron Mueck
財団と日本人アーティストとの交流新たな才能を発掘し続けるカルティエの挑戦
▲ 森山大道『ポラロイド、ポラロイド』1997年。作品を構成する3,262枚のポラロイドは、わずか3日間で撮影されたという。
Polaroid Polaroid,1997
© Daido Moriyama
 カルティエ美術財団は、日本のアーティストをヨーロッパに広く紹介してきたことでも知られています。5月までパリで開催されていた横尾忠則展も大きな評判となりました。いまや世界的な現代アーティストとなった村上隆をいち早く海外で紹介したのもカルティエでしたし、三宅一生の世界を紹介したのもこの財団でした。今回の展覧会にも、もちろん日本人アーティストの作品が出品されています。写真家の森山大道、川内倫子、そして本展の出品作家のうちで最年少者である松井えり菜の作品です。
 今日、日本の写真界を語る上で欠かせない人物となった森山大道は、今回2点の作品を出品しています。そのなかの1点で、現在財団のコレクションとなっている『ポラロイド、ポラロイド』は、自身のアトリエを3,262枚のポラロイドで再現したインスタレーション。
 四方の壁をポラロイドで埋め尽くされた展示室に立つと、まるで森山のアトリエに迷い込んだかのような不思議な感覚にとらわれます。また何気ない日常をとらえることを得意とする川内倫子は、スライド・ショー『キュイ キュイ』を出品しています。自身の家族や家族に関連する場所の写真232点からなるスライド・ショーは、詩的で情緒的な彼女の作品世界をみごとに表現しています。
▲ 川内倫子『キュイ キュイ』1992-2005年。作品タイトルはすずめの鳴き声からとられた。
Cui Cui,1992-2005
© Rinko Kawauchi
▲ 2点の自画像『宇宙☆ユニヴァース』(2004年)と『えびちり大好き!』(2003年)の前で笑顔を見せる松井えり菜。
Uchû (My Universe), 2004
Ebichiri daisuki (I love Schrimp Chili), 2003
© Erina Matsui
 そして2年前、来日中のシャンデス氏に才能を見出され、昨年同財団で20代の作家を紹介する展覧会「夢を見る」に参加した松井えり菜は、弱冠22歳。しかし彼女はすでに力強く非常に個性的な作風を確立しています。今回出品されている2点の自画像は、油彩のカンヴァスにオルゴールを組み込んだ斬新なもの。儚さと強さが共存する不思議な作品からは、彼女の計り知れない可能性を感じることができるでしょう。
   
 ほかにも世界各国の街角を同時に映し出すレイモン・ドゥパルドン(Raymond Depardon)の映像作品や、キンシャサ在住の画家シェリ・サンバ(Chéri Samba)、映像作品をスクリーンから開放したトニー・アウスラー(Tony Oursler)などによる、想像力を刺激する作品が勢ぞろいした今回の展覧会。カルティエ現代美術財団と日本との新たな出会いが、多くの人々を虜にするはずです。
▲ アジス・アベバ、ベルリン、カイロ、モスクワ、リオデジャネイロ、上海、東京で撮影されたレイモン・ドゥパルドンの映像作品。
Raymond Depardon,7×3, An Exhibition of Films, 2004-2005
© Raymond Depardon−Magnum Photos
     
▲ 自画像『天上にも…』(2002年)の前のシェリ・サンバ。
Aussi...au plafond,2002
© Chéri Samba
▲トニー・アウスラー『ミラー・メイズ(死んだ目が生きている)』2003年
Mirror Maze (Dead Eyes Live), 2003
© Tony Oursler
片山 久子(写真)
カルティエ現代美術財団
所在地
  261,boulevard Raspail 75014 Paris
URL
  http://www.fondation.cartier.fr/
アクセス
  地下鉄ラスパイユ(Raspail)駅下車
開館時間
  12:00-20:00
休館日
  月曜日
入館料
6.5ユーロ
学生、25歳以下は4.5ユーロ
 
カルティエ現代美術財団コレクション展
会期
  2006.4.22-2006.7.2
会場
  東京都現代美術館
所在地
  東京都江東区三好4-1-1
(木場公園内)
開館時間
  10:00-18:00
(入場は閉館の30分前まで)
休館日
  月曜日
観覧料
一般:1,500円
学生:1,000円
中学生・高校生・65歳以上:500円
URL
  http://www.mot-art-museum.jp/
会期中、東京都現代美術館ではカルティエ現代美術財団コレクション展をもっと楽しむためのプログラムを開催しています。ボランティア・ガイドスタッフによるギャラリー・ツアーをはじめ、子どものための“アート・ピクニック”など、さまざまなプログラムを予定しています。
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MMFで出会えるカルティエコレクション
「カルティエ現代美術財団コレクション」展の公式カタログをMMFインフォメーション・センターにて閲覧いただけます。
 
 

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