マティス美術館 マルク・シャガール聖書のメッセージ美 ルノワール美術館
南仏コート・ダジュールのミュゼレポート
  紺碧の海、鮮やかな緑に彩られた南仏、コート・ダジュール。
この地はバカンスのメッカとして世界的に知られています。
南国特有のきらめく光、美しい自然は、旅人だけでなく、
昔からたくさんの芸術家を虜にし、彼らにちなんだ美術館も多く存在しています。
今月から3回にわたり、ニースを中心に、
この地を訪れたならぜひ足を運んでみたい美術館をレポートします。
第1回目は光あふれる南仏のイメージにふさわしい
マティス美術館へご案内しましょう。
▲マティス美術館の外観。 
 
華麗な17世紀のイタリア建築が美術館に
▲シミエのガロ・ローマン遺跡。 
 ニースの高台、シミエはローマ時代の遺跡が残る場所で、現在も遺跡の発掘や保存活動が行われています。イタリア風の庭園があり、緑が多いこの地は、真夏の暑い時期でも、海岸線よりも少し涼しいような気がします。庭園の中にある17世紀に建てられたジェノヴァ風邸宅が、目指すマティス美術館です。
 イタリアはトスカーナ地方の都市、シエナの土の色といわれる赤茶の外壁、黄色に彩られた窓……。木々の緑と空の青に映える館は、それ自体が素晴らしい景観を作り出しています。
 マティス(Henri Matisse)は1869年にフランスの北部、カトー・カンブレに生まれました。法律を学び、仕事も始めますが、21歳の時に盲腸を患い、病床で気晴らしに始めた絵に夢中になったのが、画家を志したきっかけとなります。パリを拠点にしていたマティスでしたが、旅を好む人で、1916年に初めてニースに滞在してからは定期的にこの地を訪れるようになります。1938年からは本格的に住居を移し、1954年に没したのもこの地でした。マティスが住んでいたのは美術館のすぐ近くにあるレジーナという高級アパート。世界の王族やセレブが滞在したベル・エポックの名門ホテルをアパートに改造したもので、現在も建物の優雅な趣きは失われていません。
▲マティスが啓発された古代彫刻。
 
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テーマ別に分かれている常設展示室
 美術館は約1,000点余りの作品や写真などを収蔵しており、邸宅内の常設展示場とその地下に新しく作られた企画展示場に分かれています。常設展示は描かれた時代とテーマによって構成されています。
 館の1階にある最初の部屋は、画家が絵を学び始めた頃の習作が並びます。2番目の部屋は若い頃の英国やコルシカ島への旅が作品に与えた影響、3番目は古典からの影響、4番目はグラフィズムとの関連……と続いていきます。この階ではマティスがその作風を確立する過程をおもに追っています。
 絵を学び始めた頃の作品は、暗い色彩を用いて描かれた先達の作品の模写などの古典的なものが多いのですが、年月と旅を経るに従って、その筆致や色彩がどんどん解き放たれていく様が分かります。
 絵と同時に彫刻も多く展示されており、それを見ると、彫刻の方が絵よりも早くアブストラクトに変化を遂げたように思われます。ふたつを比較しながら見ていくのも面白いでしょう。
 
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旅を通して得たマティスの霊感の源
 館の2階では、マティス作品のカラフルでおおらかな魅力と、そのインスピレーションの源に触れることができます。5番目の部屋は布と陶器に興味を持った北アフリカの旅、6番目は南半球の光を求めて出かけた太平洋のタヒチ、そして7番目の部屋では、そうした旅先の地での影響を、晩年に凝った「青」の世界、単純で大きなコンポジション、切り絵という3つのテーマを通して見せています。
 8番目はマティスの作品に描き込まれたオブジェの紹介。マティスは「いい役者はひとりで10の役柄を演じ分ける。いいオブジェはひとつで10枚もの絵に違う風情で登場する」と語っています。
 
▲マティス所有のオブジェ群。
▲度々作品に登場したソファ。
▲描かれたことのあるヴェニスの椅子。
 
 9番目の部屋はハイライトとも言える部屋で、ニースから15kmほど離れたヴァンスのロザリオ礼拝堂建造のための習作が並んでいます。レモンの黄色とボトルの緑、海の青を表現したステンドグラス、一筆書きのような壁画、司祭のマント、十字架、聖母子像など、それらすべてがエネルギーに満ち満ちていて、当時画家が80歳近くだったことが信じられないほどです。マティスの作品にはいつもポジティブな力強さが感じられます。
 
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作品とその背景に光を当てる企画展示
 企画展示が行われる地下のホールは壮大な空間で、縦が4.1m、横が8.7mの巨大な作品《花と果実》が飾られています。ここで9月30日まで行われているのが「アトリエの空間―ザクロの静物」展。この企画展では第2次世界大戦中、ニースの空襲を避けて疎開したヴァンスのアトリエの様子やそこでの暮らしぶりなどを、当時描かれたザクロの静物画やデッサンなどとともに紹介するというもの。
 マティスは植物や果実を多くの作品にモチーフとして描きましたが、ザクロはこの頃画家が好んで題材に使ったものです。こうした特定の期間と作品の背景を探るという企画展示は、マティスをより深く知るきっかけとなり、鑑賞後はますます画家への興味が募ってきます。マティス愛好家なら必ず訪れたい美術館です。
 
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南仏コート・ダジュールのミュゼレポートは3回にわたって連載します。
第2回目(9月号) マルク・シャガール聖書のメッセージ美術館 第3回目(10月号) ルノワール美術館
 
田中久美子(Kumiko TANAKA/文・写真)
モビリエ・ナショナル
マティス美術館
所在地
 
164, av. des Arènes de Cimiez 06000 Nice
Tel
 
33 (0)4-93-81-08-08
URL
 
http://www.musee-matisse-nice.org/
開館時間
 
10:00-18:00
休館日
 
火曜日、1月1日、5月1日、復活祭、12月25日
入館料
 
一般:4ユーロ
学生:2.50ユーロ
18歳未満無料
アクセス
 
ニース・ヴィル(NICE VILLE)駅から15、17、20、22、25番バスでアレーヌ(LES ARENES)下車。

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