マティス美術館 マルク・シャガール聖書のメッセージ美 ルノワール美術館
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マルク・シャガール聖書のメッセージ美
南仏コート・ダジュールから全3回にわたってお届けしているミュゼレポート。
マティス美術館に続く今回は、同じくニースにあるシャガールの美術館をご紹介します。
明るい光と自然に溢れた南仏の地をこよなく愛し、
ニースにほど近い地で晩年の日々を過ごした画家マルク・シャガール。
彼が聖書を題材に描いた連作を飾るこの美術館は、
愛に満ちた世界を描き続けた画家シャガールらしい、
おおらかな世界が楽しめるミュゼです。
©ADAGP, Paris & SPDA, Tokyo, 2007 
 
シャガールの作品寄贈によって生まれた美術館
 1887年、ロシアに生まれたマルク・シャガール(Marc Chagall)が初めてフランスにやってきたのは、1910年のことでした。第2次世界大戦中はユダヤ人のためアメリカに亡命した時期もありましたが、パリで長く活動し、1950年からは南フランスのヴァンス、そして後にはサン・ポール・ド・ヴァンスに居を構え、1985年に97歳で亡くなるまでの歳月をそこで過ごしました。
 「絵、色、こういったものは愛から生み出される」と言ったシャガールの作品の大きな魅力は幻想的な画風、そして美しい色合いです。明るくて、色鮮やかな南仏の自然は画家にとって大切なものだったに違いありません。
 マルク・シャガール聖書のメッセージ美術館は、シャガールが1957年から創作を始めた聖書に基づく17枚の大作を1966年に国家に寄付したことから生まれました。指揮をとったのは、当時、文相を務めていた作家アンドレ・マルロー(André Malraux)。そして、建築家アンドレ・エルマン(André Hermant)の設計で、ニースのシミエの丘の麓に完成したこの美術館は、フランスからシャガールに捧げられたオマージュといえるものです。聖書のメッセージをテーマ別に展示する部屋、デッサンなどを集めた部屋、企画展示スペースのほか、音楽と演劇をこよなく愛したシャガールのミュゼらしくコンサート・ホールも併設しています。糸杉、オリーヴ、ラベンダーなどが植えられた南仏らしさいっぱいの庭も、この地に魅せられたシャガールを偲ぶよすがとなるでしょう。
▲糸杉、ラベンダーなどのある庭。
 
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「創世記」と「出エジプト記」の部屋
 美術館の中央にある大きな空間には、旧約聖書の「創世記」と「出エジプト記」から題材を得た作品が並んでいます。いずれも約2m×3mほどの大作で、人類創造、楽園を追放されるアダムとイヴ、ノアの方舟、イサクとヤコブの逸話、モーセの奇跡などがテーマとなっています。聖書についての連作の構想は、悲惨を極めた第2次世界大戦が終ってからシャガールがずっと温め続けていたもの。さらにシャガールは「小さい頃から聖書に夢中だった。
 いつの時代も聖書がいちばん大切な詩の源泉だと思っていた」と語っています。生涯ユダヤ人としてのアイデンティティをもち続けたシャガールは、民族の歴史を語る旧約聖書に限りない畏敬の念を抱いていたのです。アメリカ亡命中に死別した最愛の妻ベラ、そして、晩年の画家を支えた再婚相手のヴァレンティーナもともにユダヤ人でした。芸術と聖書を結ぶ作品群を寄付して作ったこの美術館を、シャガールは「博愛を象徴する家」であって欲しいと願ったということです。
 「色彩の魔術師」と謳われた画家の意図を汲み、この部屋では、色を重視した展示がされています。1枚にひとつの壁面を与え、温かみのある雰囲気ながら、教会のように厳かな空気も漂っています。
 
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男女の愛を詠った「ソロモンの雅歌」の部屋
 いちばん奥にある六角形の部屋に収められているのは、旧約聖書の「ソロモンの雅歌」をテーマに描いた5枚の連作。男女の愛を賛美した「雅歌」に呼応するかのように全ての作品が情熱的な赤で彩られています。ソロモン王が作ったともいわれる「雅歌」は、恋愛感情をストレートに表現するその内容のため、古来さまざまな解釈がなされており、キリスト教では転じて「キリストと信者の関係を詠うもの」といわれたりもします。
 しかし、シャガールの絵に描かれた幸せそうによりそう恋人たちや、妻への献辞の言葉「私の喜びであり歓喜である我妻、ヴァヴァへ」を見ると、やはり、この詩のテーマは男女の愛なのだと感じられます。
 
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田中久美子(Kumiko TANAKA/文・写真)
モビリエ・ナショナル
マルク・シャガール 聖書のメッセージ美術館
所在地
 
Avenue Docteur Ménard
06000, Nice
Tel
 
+33(0)4-93-53-87-20
Fax
 
+33(0)4-3-53-87-39
URL
 
http://www.musee-chagall.fr/
開館時間
 
10:00-18:00(7月から9月)
10:00-17:00(10月から6月)
休館日
 
火曜日、1月1日、5月1日、12月25日
入館料
 
<常設展のみ>
一般:6.5ユーロ
割引料金(18歳から25歳、土曜日):4.5ユーロ
団体(20名から30名):99ユーロ
<常設展+企画展>
一般:7.7ユーロ
割引料金(18歳から25歳、土曜日):5.7ユーロ
団体(20名から30名):121ユーロ
18歳以下は無料。また、第1日曜日は無料。
アクセス
 
15番バスで、ミュゼ・シャガール
(Musée Chagall)下車。

*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。