本展最大の注目作品が、1808年にルーヴル美術館に収蔵されて以来、初めて館外へ出品された〈アルテミス、通称「ギャビーのディアナ」〉です。清楚な表情やギリシア風の衣装にほどこされた繊細な襞の表現がとても印象的な彫像です。展覧会場では、長い時間、“女神”の前にたたずみ、見惚れている来館者の姿も多く目にしました。
それでは日本初上陸を果たした、この美しき女神のプロフィールをご紹介します。
© RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF
アルテミスはギリシア神話で、狩りの女神、あるいは月の女神(ローマ神話ではディアナ)として語られています。ゼウスの娘で、太陽神、あるいは音楽の神として知られるアポロンの双子の妹です。狩りの女神として表される時には、丈の短い衣装をまとい、サンダルを履き、弓や槍を持って、犬や雄鹿を連れた活動的な姿で表現されることが多いのが特徴です。
一方、月の女神として表される時には、三日月を額に頂き、馬や精霊たちが引く凱旋車に乗っていることもあります。いずれも「純潔」の擬人像として、古くから芸術作品に登場してきました。
さて、本展で出品されている女神は、皆さんの目に「狩りの女神」、「月の女神」、どちらの姿に映りますか?
この作品は、1792年、画家のギャヴィン・ハミルトンが、ローマ近郊のギャビー(現在のオステリア・デル・オーザ)で発掘したことから、通称「ギャビーのディアナ」と呼ばれています。その後1808年にルーヴル美術館に収蔵されて以来、200年以上にわたりルーヴルの至宝のひとつとして、館外に出たことはありませんでした。
短い丈のマントを身につけているにもかかわらず、この女神がとてもエレガントかつ清楚に見える理由のひとつは、そのしぐさに秘密があるようです。かすかに首をかしげた女神は、右側の肩に信奉者から贈られたマントを留めようとしています。その自然な姿の中に、柔らかな女性らしいラインが見事に表現されています。また、この当時のギリシアの女性たちは、1枚の布を腰紐で縛り着ていたそうですが、大理石の彫像であることを忘れてしまうかのような、豊かなギャザーの表現にも驚かされます。
この作品は、紀元前4世紀の著名なギリシアの彫刻家プラクシテレス(Praxiteles/生没年不詳)の様式を汲む作品を、ローマ時代に模刻したものといわれています。プラクシテレスは、大理石彫刻を得意とし、女性の裸体を表現することを試みたギリシア初の彫刻家でもありました。彼は神々の彫像にも人間的な情緒を吹き込みました。プラクシテレスの手から生み出される親しみやすい神々の像は、多くの人々の共感を得ることになったのでしょう。
しかし残念ながら、確実にプラクシテレス自身の手による作品といえる彫刻は、ひとつも現存していません。けれども、ローマ時代にはこの偉大な彫刻家の作品の流れを汲む模刻が多く制作され、現在、わたしたちはそうした模刻作品を通して、はるか昔の大彫刻家の作風に触れることができます。この〈アルテミス、通称「ギャビーのディアナ」〉もそうした貴重な模刻作品のひとつなのです。
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