7月20日(土)、「ルーヴル美術館展 - 地中海 四千年のものがたり -」が東京都美術館で幕を開けました(〜9月23日)。本展は、ルーヴル美術館の全8美術部門から273点の作品が出品されるという大規模な構成で話題を集めています。古代の遺物や彫刻、工芸、そして絵画など、ルーヴルが誇る作品を通して、地中海への壮大な歴史の旅へとわたしたちを誘う展覧会。その見どころと注目の作品をご紹介します。
文明の遺産の宝庫であるルーヴル美術館の膨大なコレクションは、「古代ギリシア・エトルリア・ローマ美術」、「古代エジプト美術」、「古代オリエント美術」、「イスラーム美術」、「絵画」、「彫刻」、「美術工芸品」、「素描・版画」の全8美術部門に分類され、通常は部門ごとに展示されています。しかし本展の最大の特徴は、部門の垣根を越えて、多彩な作品が一堂に会する点です。
たとえば、芸術家たちが憧れた地中海世界を、作品を通してたどる第5章「地中海紀行(1750-1850)」では、大理石の彫像〈トロイアの王子パリス〉が展示されています。この彫像は、18世紀、イタリア・ティヴォリのハドリアヌス帝の別荘から、画家ギャヴィン・ハミルトン(Gavin Hamilton/1723-1798)によって発掘されたもの。130年頃のローマ時代に模刻された作品で、端正な顔立ちにかすかな憂いを秘めた表情が印象的です。そして、この作品の隣には、発掘者ハミルトンの手による油彩画が並んで展示されています。この油彩画はトロイア戦争の引き金となったパリスとスパルタの王妃ヘレネの出会いの瞬間を描いた作品です。時代も技法も、もちろん作者も異なるこの2作品は、ルーヴル美術館では、通常は同時にひとつ場所で目にすることはできません。「地中海」というテーマのもと、さまざまな分野から作品が集結した企画展だからこそ可能な、ジャンルを超えた新鮮な美術鑑賞を楽しめます。
「地中海 四千年のものがたり」と副題にあるように、今回は地中海にエーゲ文明が誕生した紀元前2000年頃から19世紀半ばまで、実に4000年にわたる悠久の歴史を、ルーヴルのコレクションを通してたどる壮大な展覧会です。世界史好きな方には垂涎の展覧会に思えますが、歴史はちょっと苦手……という方は、「難しいのでは?」という思いがよぎるかもしれません。しかし今回の展覧会を概観してみると、幾世紀をも経て現代に伝えられてきた美術品が、いかに雄弁なメッセージを秘めているかがよく分かります。
たとえば、第1章「地中海の始まり」の展示室でひときわ目を引く〈赤像式クラテル(壺):牡牛に変身した主神ゼウスによる王女エウロペの掠奪〉からは、わたしたちが地中海とその歴史を理解するための多くの情報を読み取ることができます。ここに描かれているのは、現在の西アジア、レバノンにあたるフェニキアの王女エウロペが白い牡牛に変身したゼウスに連れ去られる物語です。エウロペはやがてクレタ島で、後年ミノス王となる子どもを産み落とします。この伝説は、ギリシア人にとって、自分たちの文化が東方に由来することを想起させるものだったそうです。東西の文化が出会い、融合し、また新たな文化を育んでいった「地中海」という場所を象徴する物語です。
またクラテルとは、ワインと水を混ぜるための甕(かめ)のことです。地中海一帯では、古代から小麦、ワイン、オリーブといった現在のわたしたちもよく口にする食べ物を産物としていました。2000年以上も昔に作られたクラテルの前に立ち、ワインを注ぐギリシア人の姿を想像してみると、悠久と思われた時間の隔たりを瞬時に飛び越えるような感覚に襲われます。本展では、こうしたクラテルをはじめ、さまざまな時代の人々が使っていた日用品も多く展示されています。そうした作品からは、これまで歴史の中だけに生きていた人々がぐっと身近に感じられてきます。
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