Dossier special - 海外の特集

  • 1.ウフィッツィ美術館とメディチ家
  • 2.美術館訪問
  • 3.名画10選

ウフィッツィ美術館 Galleria degli Uffizi

ウフィッツィ美術館とメディチ家

▲ウフィッツィ美術館

 華の都フィレンツェは、イタリアのルネサンス芸術の中心地です。絵画芸術としてのルネサンスの最盛期は、15世紀後半から16世紀前半。この時期のフィレンツェが優れた芸術家を惹きつけた背景には、銀行業で成功したメディチ家がパトロンとして芸術活動を支援したことがあります。特にコジモ、ピエロ、ロレンツォはいずれもフィレンツェの支配者として政治経済を牛耳る一方で、新しい芸術の庇護者としての活動も続けました。

▲ウフィッツィ美術館前シニョリーア広場

 少し寄り道をするようですが、最初にメディチ家について歴史の簡単なおさらいをしましょう。ウフィッツィ美術館はメディチ家なしでは語れません。家名のメディチとは、英語のメディシン「薬」と同じ語源で、もともとは医学や薬の販売に従事する家柄であったのではないかと推測されています。それが老コジモ(Cosimo il Vecchio、1389-1464)の代に銀行業を飛躍的に発展させ、フィレンツェを拠点としてヨーロッパ全土に銀行のネットワークを確立します。多くの芸術家のパトロンとしてフィレンツェをルネサンスの一大拠点に成長させたのも彼の功績です。特に彫刻家ドナテッロと親交が深く、ドナテッロはメディチ家礼拝堂の老コジモの墓に近い場所に眠っています。通常メディチ家の祖といえば、祖国の父という称号も贈られているこの老コジモのことを指します。後世の作ですが、ポントルモの作になる老コジモの肖像画がウフィッツィ美術館に飾られています。

 老コジモの跡を継いだのがピエロです。彼は痛風持ちで病弱でしたが、父の跡を堅実に継ぎました。そして、その息子の偉大なるロレンツォ(Lorenzo il Magnifico、1449-1492)のときにメディチ家は隆盛を極めます。ロレンツォも文化芸術のパトロンで、ボッティチェッリや青年期のミケランジェロの支援を行っています。メディチ家礼拝堂の彼の墓には、ミケランジェロの手による聖母子の彫刻が設置されています。残念ながらロレンツォ以降はメディチ家はふるわず、衰退の一途をたどっていきます。

▲シニョリーア広場のコジモ1世の騎馬像

 さて、これを踏まえた上でウフィッツィ美術館の成立についてご紹介します。同じ名前の人物が何人も登場するので、ご注意ください。現在の美術館の建物の施主は初代トスカーナ大公のコジモ1世(1519-1574)です。彼は老コジモの弟であるロレンツォの子孫なので、いわゆる老コジモの本家からすると「傍系」の出身です。美術館からすぐ近くのシニョリーア広場にジャンボローニャが制作した彼の騎馬像が立っています。メディチ本家が衰退した一方で、分家出身のコジモ1世は16世紀から19世紀にかけてトスカーナ地域を支配する大公国の基礎を築きます。

▲美術館入り口付近に立つ彫像
「偉大なるロレンツォ」

 現在ウフィッツィ美術館となっているU字型の建物は、もともとは美術館として建てられたわけではなく、コジモ1世が命じてトスカーナ大公国の行政庁舎として建設されました。イタリア語のUffiziとは英語のOfficeと同じ語源の言葉です。設計したのはコジモ1世がパトロンとして支援したヴァザーリで、彼は『芸術家列伝』の著者としても有名です。「ヴァザーリの回廊」は、アルノ川にかかるヴェッキオ橋の上階部分を含む通路で、コジモ1世が住居であるピッティ宮殿と仕事場であるウフィッツィを往復するために作られました。こうしてウフィッツィは、コジモ1世の息子フランチェスコ1世の改修やその後の歴代の統治者たちの拡張により、メディチ家を中心とした美術コレクションが所蔵・展示される場所へと発展していきます。

▲昼のヴァザーリの回廊
▲夜のヴァザーリの回廊

 しかし、18世紀にメディチ家は終焉を迎えます。そして最後の相続人であるアナ・マリア・ルイーザは、その死に際してトスカーナ大公国にすべての財産を遺贈することを決めます。しかし、彼女はひとつの条件をつけました。「一部であっても財産をフィレンツェから持ち出してはならぬ」というものです。これが今日に至るウフィッツィの運命を決定づけました。彼女の死後16年してウフィッツィ美術館は一般に公開されることになるのです。

 時の権力者が芸術家を引き寄せ、新しい芸術の誕生をうながし、その作品が歴史ある建築物に囲まれた場所にとどまる。フィレンツェほど、芸術と歴史を戦争などによって破壊されずに、生まれたままの姿をとどめている幸運な例はないでしょう。そして、フィレンツェ以外の都市やフランダースなど諸外国の西洋絵画の非常に貴重な作品までも数多く所蔵するウフィッツィ美術館は、ヨーロッパの古典絵画芸術を通観するには最良の場所であると言えます。

次ページでは、ウフィッツィ美術館鑑賞の際の
基本情報についてご紹介します。>>

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Update : 2014.1.7 文・写真 : 山本浩幸(Hiroyuki Yamamoto)
ブリュッセル在住、出版人/インスピレーション出版
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フィレンツェ

ウフィッツィ美術館

所在地
Piazzale degli Uffizi, 50122 Firenze
Tel
+39 055-2388651
E-Mail
direzione.uffizi@polomuseale.firenze.it
開館時間
火〜日:
8:15〜18:50(最終入場は16:45)
休館日
月曜日、1月1日、5月1日、12月25日
入館料
6.5ユーロ ※予約手数料4ユーロ
アクセス
「Santa Maria Novella」駅から徒歩約10分
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