2013年の春から秋にかけて南仏の街オーバーニュ(Aubagne)で開催された展覧会「陶芸家ピカソと地中海」展が、2013年11月、パリ郊外のセーヴル国立陶磁器美術館へとやってきました。戦後から1960年代にかけ、ピカソ(Pablo Picasso/1881-1973)が虜となった陶器の世界。本展ではピカソならではの感性が光る貴重なオリジナル作品を通して、絵画作品にとどまらないピカソの無限の才能を紹介しています。
ピカソが陶芸の世界へと足を踏み入れたのは第二次世界大戦後すぐのこと。1946年に、南仏の陶芸の町ヴァロリス(Vallauris)で行われた陶器市で、陶芸家のラミエ(Ramié)夫妻と出会ったことがきっかけでした。ラミエ夫妻のもと、見よう見まねで土をこねて作った人形が、翌年夫妻を再訪した際に焼き上げられているのを見て、ピカソは陶器に魅了されます。1948年には新しい伴侶フランソワーズ・ジロー(Françoise Gilot / 1921-)とともにヴァロリスへと移り住み、陶器制作に本格的に取り組みました。以降1960年代後半まで、ピカソは本業の絵画以上に、陶器の制作に情熱を注いだのでした。ヴァロリスにあるラミエ夫妻のマドゥーラ(Madura)工房は、ピカソ専門の陶器工房としてその役目を担い続け、工房で制作されたピカソの作品数は4,000点余りにも上りました。
ヴァロリスはフランスで有名な陶芸の里です。ピカソはヴァロリスで古くから作られている食器や料理器具、さらに瓦、レンガなど、実用的な焼き物のフォルムを用いて多くの作品を残しました。独創的な装飾、また大胆なデフォルメで、日常的な品々を瞬く間に芸術作品へと変容させたのです。時に工房の床に散らばる陶器の破片や窯焼きに失敗した陶器なども、ピカソの手にかかれば、オリジナリティ溢れるアートへと生まれ変わりました。
マドゥーラ工房で作られたピカソの陶器作品には、フォルムや色、モティーフに、古代ギリシアやエトルリアなど、地中海沿岸の影響が頻繁に見られます。本展覧会が「陶芸家ピカソと地中海」展と銘打たれている理由はそこにあります。
ピカソの手掛けた陶器作品は、大きくふたつのタイプに分けることができます。ひとつはピカソ自身の手によるオリジナル作品、もうひとつは複数の点数からなるエディション版です。エディション版に関しては、ピカソのデザインを陶工がハンドメイドで忠実に再現したものと、ピカソの手掛けた母型を用いて作られたものが存在します。母型を使用したエディション版は、「アンプラント・オリジナル・ド・ピカソ」(Empreinte originale de Picasso)と呼ばれ、作品裏にはピカソの作品である証明の刻印が打たれています。
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Update : 2014.2.1 文・写真 : 増田葉子(Yoko Masuda)
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