今回の展覧会では、ホドラーが「リズム」を獲得し、昇華させてゆく過程をていねいにたどることができます。最初の重要な作品は《オイリュトミー》(1895年)です。暗い画面の作品が並ぶ展示室を抜けると突然現れるこの作品は、「死」を暗示する作品ながら、美しく静謐な印象の大作です。
「オイリュトミー」とは「よきリズム」あるいは「調和のあるリズム」の意。画家自身は「自然の形態リズムが感情のリズムと恊働すること、交響すること。わたしはそれをオイリュトミーと呼ぶのだ!」と語っています。ホドラーは、似たような「身ぶり」を反復させることでカンヴァスの上に「リズム」を生み、20世紀のモダン・ダンスのような絵画を生み出しました。
ダンスのようにリズムを奏でる身体とともに、ホドラーがこよなく愛したモティーフが、アルプスの自然でした。会場には、レマン湖やトゥーン湖、ユングフラウ山やシュトックホルン山脈などアルプス周辺の自然を主題とした作品が並び、ホドラーが生涯を通じて、繰り返しアルプスを描き続けたことが分かります。
身体の動きによって、眼には見えない感情を表現しようとしたホドラーが自然をモティーフとするとき、その意図は、自然現象に秘められた秩序を描き出すことにありました。自然の中に、反復した形や類似する形、左右対称な構造を見出して描き、ここでもまた、「リズムの絵画」をつくり出したのです。
クレー(Paul Klee/1879-1940)やジャコメッティ(Alberto Giacometti/1901-1966)といったホドラーに続くスイスの芸術家たちが、国外へ活動の場を求めたのとは対照的に、ホドラーは生涯を通じて、郷里スイスに留まり続け、「スイスの国民画家」となりました。
今回の展覧会では、ホドラーが携わった壁画装飾プロジェクトに関連する作品が数多く出品されています。これらの作品からは、「パラレリズム」の理論を打ち立てたホドラーがいかに高い評価を得ていたか、そして、その期待に沿うべく画家がいかに試行錯誤を重ねたかがうかがえます。
初期の作品から、「パラレリズム」の代表作、アルプスの風景画、壁画プロジェクト、そして晩年の作品群──。スイスが誇る画家ホドラーの全貌に迫ることのできる展覧会です。日本では40年ぶりの回顧展、ぜひ、“知られざる画家”の世界を覗いてみてはいかがでしょうか。
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