また、注目したいのがパウル・クレー・センターは単なる美術館ではないということです。子どもから大人までインタラクティブにアートと触れ合うことのできる複合施設であり、従来の姿に囚われずセミナー、データベース・ライブラリーや音楽まで楽しめるさまざまな分野を横断したカルチャーセンターとなっています。
ノース・ヒルの地下には子ども美術館「クレアヴィヴァ」という子ども向けの展示室兼ワークショップスペースがあり、親子で訪れたときに一緒に制作する場が用意されています。アーティストと子どもの共同制作ワークショップや家族で参加できるレッスンなども設けられています。同じくコンサートホール「マルタ・ミュラー・オーディトリアム」でもさまざまなイベント、音楽を体験することができます。またセミナーでお互いの
意見を交換し合ったり、講義を聞いたりすることもできます。クレー自身が多彩な創作活動をしたように、世界中のありとあらゆるアートに関する情報を取り入れて体験を提供しようとするパウル・クレー・センターの姿勢は現代アートを一層豊かにしています。
そして館内を満喫したあとは施設の外を一周してみてください。そこには「スカルプチャー・パーク」という名のミュラー夫妻のコンテンポラリー彫刻のコレクションを無料で鑑賞できる公園や、建物が風景と一体化したゆたかな緑が広がる場所があります。そこではスイスの草原を思い起こさせる、のどかな景色を体験できます。施設の横に位置する、歴史あるヴィラには「レストラン・シューヌグリューン」がありミシュランガイドで1つ星を得た美味しい地元料理を堪能できます。
スイスでよく見かけるシェルターのように地面を掘って美術品を守りつつその地に根付き、周りとの関係を築き上げていく施設、ローカルでありながら多彩な文化が交わる場所、そういった姿が印象的でスイスらしさを体感できる場所になっています。
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Update : 2015.6.1 文・写真 : 和田徹(Tohru Wada)
建築家。スイス・バーゼル在住。
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