セーヴル陶磁器美術館 展覧会「陶磁」
セーヴル陶磁器美術館
セーヴル焼きといえばフランスを代表する磁器。
パリ郊外のセーヴルに国立製造所があります。同じ敷地内にあるのがセーヴル陶磁器美術館。
製造所の付属施設ではなく、世界各地から古今の陶磁器を集めた総合的な博物館です。
フランスの磁器名産の地にふさわしい、充実した内容を誇っています。
今月はそんな美術館をご案内。日本の陶磁をテーマにした企画展の詳細もレポートします。
©Andreas Licht
研究資料収集が美術館創立のきっかけに
▲ヨーロッパの12〜18世紀の陶器のコーナー。
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 博物館創設のきっかけは1800年、地質学者、鉱物学者で、内務大臣だったアレクサンドル・ブロンニャール(Alexandre Brongniart)がセーヴル国立磁器製造所の所長に就任したことからでした。探究心旺盛な彼は、世界の陶磁器を集めて研究資料にすることを思いついたのです。すでにルイ16世(Louis XVI)が製造所に与えたイタリアの古い壷のコレクションや、18世紀の素焼きの人形などを所有していましたが、それらに加え、ブロンニャール自身が旅をして求めたり、海軍に収集を依頼したり、またフランス中の陶磁器製造所から製品を提供させたり、その収蔵品を増やしていきました。
1824年に正式に美術館として開館すると、1934年には国立となり、古今東西の5万点の陶磁作品を集める専門美術館として2世紀にわたる歴史を紡いできたのです。
 巨大な壷が飾られた入り口を入って、向かって右側が世界の陶磁器を紹介するフロアです。古代ギリシアのもの、中世やルネッサンス期のヨーロッパの陶器やせっ器などが並んでいます。中国、日本、韓国、そしてトルコや中近東のものもあり、バラエティに富んでいます。展示を鑑賞していくうちに制作された地域や時代によって、装飾の模様や色、質感にいろいろな特色があるのが見て取れるでしょう。
▲トルコの陶器のコーナー。
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奥にはルネッサンス期のフィレンツェで活躍した陶磁工房、デッラ・ロッビア(Luca della Robbia)のコーナーがあり、全長130cmという大きな聖母子像が飾られています。また16世紀から19世紀、ヨーロッパ中で実際に使われていた薬壷などを集めて再現した薬局も、その雰囲気をよく伝えています。
 
▲16世紀ルネッサンスの代表的な陶像のアトリエ、フィレンツェのデラ・ロッビアの聖母子像。これほど大きいのは珍しい。
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▲ヨーロッパの薬局の再現。16〜19世紀の陶器の薬入れが並ぶ。
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充実の18世紀からのヨーロッパ・コレクション
▲「栄光の間」にあるネプチューンの壷。
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 エントランスの中央にある両翼の階段を上ると、栄光の間に通じます。真ん中に鎮座しているのは、1867年、万博出品用にセーヴルで作られた全長3m余りものネプチューンの壷。その大きさにも驚きますが、滑らかなクリーム色の肌の美しさにも注目してください。この他にも美しい金彩を施した帝政様式の大壺など、ここにはモニュメンタルな作品が並べられています。
 大壺に向かって左に向かうと、ファイアンスと呼ばれる18、19世紀のヨーロッパ陶器のコーナーがあります。白い上薬をかけた上に花などが描かれているポッテリとした皿が多く、使うにつれて味が出てくる素朴な質感が好ましい陶器です。絵付けなどに工夫を凝らしたものも多く、皿の裏には工房名などが記されていることがあります。
その向こうは企画展示のためのスペースとなっており、奥には青の色彩で有名なデルフト焼きとナヴァール焼きの17、18世紀の作品が紹介されています。 
 
▲18〜19世紀のヨーロッパの低温で焼かれた陶器のコーナー。
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▲工房や製作者の印が入った皿の裏も見られるようになっている。
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▲デルフト焼きのコーナー。
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セーヴル焼きのフロアに集う名品の数々
▲ポンパドゥール夫人が好んだといわれるセーヴルのセレスト(青緑)。
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 セーヴルのコーナーは入口の大壷に向かって右側にあります。セーヴル焼きはこの博物館に2,000点ほど収蔵されています。セーヴル窯の誕生は1756年のこと。パリの東、ヴァンセーヌにあった軟磁器製造所をルイ15世の愛妾だったポンパドール夫人(Madame de Pompadour)が居城のヴェルサイユに近いセーヴルに移してからのことです。当時、この製造所で作られていたのは、磁器を模して作った軟磁器と呼ばれるものでした。
ヨーロッパでも中国や日本で作られる薄くて硬い磁器は知られており、その製法も中国に布教に出向いたイエズス会の僧侶が伝えたことがありましたが、磁器作りに必要なカオリンという物質を見つけることができなかったため、製造することはできませんでした。18世紀初頭、ヨーロッパで最初にカオリンを発掘して磁器を作ったのはドイツのマイセンです。
フランスは負けじと国を揚げてカオリンを探し、1768年にリモージュの近くでついに発見します。それからカオリンはセーヴルに運ばれ、王立製造所として磁器を作り始めます。
 このフロアには軟磁器、硬磁器の歴史が紹介されています。軟磁器は硬磁器より鮮やかな色が出るのが特徴で、花を模して作ったブーケなどが飾られています。とくにポンパドール夫人が好んだというセレストという青緑の色は軟磁器でしか表すことができませんでした。
▲ナポレオン愛用のセーヴル焼き。
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▲彫刻職人やろくろ職人など19世紀職業の姿が描かれた皿
このレプリカはMMFブティックにもございます。
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 歴史的な人物にちなんだ品も多く、マリー=アントワネット(Marie-Antoinette)の乳房をかたどったといわれるミルク・ボールや、ナポレオン(Napoléon Bonaparte)が島流しにあった時も離さなかったと伝えられる緑と金彩の食器もあります。また19世紀の職業を1枚ずつに記した108枚の食器セットは圧巻で、美しいだけでなく貴重な歴史的資料としても価値のある作品です。
 セーヴルは現在も国立で、その製造量は決まっており、多くは国家機関が使う品や外国への贈答品として使われます。伝統的技法を固持する一方、ソットサス(Ettore Sottsass)、ルイーズ・ブルジョワ(Louise Bourgeois)、草間弥生などのアーティストとコラボレーションを行い、斬新な現代作品も生み出しています。このフロアの最後にはそんなセーヴルの新しい作品も見ることができます。
▲現代作家の作品が並ぶコーナー。
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田中久美子(文)/Andreas Licht(写真)
PARIS MUSEUM PASS 利用可能施設
セーヴル陶磁器美術館
所在地
 
Place de la manufacture, 92310 SÈVRES
Tel
 
+33(0)1 41 14 04 20
開館時間
 
10:00-17:00
※但し、木曜日は21:00まで開館
 土・日曜日:10:00-18:00
休館日
 
火曜日、祭日
入館料
 
一般:4.5ユーロ
割引:3ユーロ(18-25歳、失業者など)
企画展期間中はさらに1.2ユーロ増し
アクセス
 
メトロ ポン・デ・セーヴル駅(Pont de Sèvres)下車。
展覧会情報
 
200611.17-2007.2.26
「陶磁(TÔJI)」
「陶磁」展レポートはこちら→

2006.10.11-2007.1.8
「セーヴル、1756年」
周辺情報
 
ヴェルサイユ及びトリアノン宮殿美術館
MMFで出会えるセーヴル陶磁器美術館
MMFインフォメーションセンターでは、公式ガイドブックから過去に開催された展覧会カタログなど、セーヴル陶磁器美術館をはじめ、陶磁器に関する書籍を閲覧いただけます。

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