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MMFのwebサイトをご覧になっているみなさまに、パリから素敵な便りが届きました。差出人は、美術を心から愛するマダム・ド・モンタランベール。日々、美しいもの、真なるものを求める彼女は、四季折々に輝くミュゼの上質な愉しみ方を教えてくれます。フランスへ旅立つとき、このコーナーにお誘いが届いていたら、マダムの隠れ家のようなミュゼに足を伸ばしてみませんか。 |
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先日、わたくしと主人はノルマンディ地方の町、カンへの旅に出ました。パリから列車で2時間、「上陸作戦」で名高いノルマンディの海岸からは車で10分、モン・サンミッシェル街道沿いに位置するカンは文化的な薫りに溢れ、観光の名所としても見逃せない町です。
第二次世界大戦はこの町にも暗い影を落としましたが、戦後、再建がなされ、今も町のそこかしこで往時をしのばせるような豪壮な佇まいの建造物を目にすることができます。イングランド征服で名を馳せたウィリアム征服王(1028-1087)が埋葬された「男子修道院」もそのひとつ。11世紀の創建で、13世紀や17世紀の遺構も残されています。 |
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▲中央に「男子修道院」が見えるカンの町並み
©Guichard / Office de Tourisme de Caen |
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▲ウィリアム征服王の城塞とサン・ピエール教会
© Guichard / Office de Tourisme de Caen |
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わたくしたちは、この町のミュゼで開催中の特別展「ヴェネチアの栄光」が文化省によって「国民的関心の高い展覧会」*のひとつに選ばれたことを知り、今回、訪ねてみることにしたのです。
カン美術館は1944年の空襲で被害を受け、1970年にウィリアム征服王の城塞内部に再建されました。幸いにも戦災を免れた絵画コレクションは、大規模な改装と再編成を経た1994年以降、再び人々の目を楽しませることになりました。新しくなった美術館は余計な装飾をそぎおとしたモダンな建築様式で、城塞に美しく溶け込んでいます。
それでは、ギャラリーを回ってみることにいたしましょうか。15世紀から20世紀の絵画が飾られた展示室や大広間は光に満ちたとても美しい空間。中央のパティオで立ち止まられると、現代の絵画と古い時代の絵画を同時に見渡せます。また、古い時代の絵画の展示室を回りながら、19世紀や20世紀の絵画の部屋へ目を向けることもできるのです。ここに、このミュゼならではのオリジナリティが感じられます。
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ヨーロッパ絵画のコレクションはとても豊かなものですが、なかでもペルジーノ、ヴェロネーゼ、ティントレットなどの15世紀、16世紀のイタリア絵画は見逃せません。とりわけ、ペルジーノ(1445-1523)の『聖母の結婚』(1504)は、デッサン力と色彩とが調和した傑作で、心に深くに残りました。17世紀のものでは、ノートルダム大聖堂のためにルイ13世から制作を命じられたフィリップ・ド・シャンパーニュの『ルイ13世の誓い』(1637)と、シャルル・ル・ブランの『愛徳のアレゴリー』(1642-1648)のふたつのフランス絵画が素晴らしかったように思います。 |
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▲モダンな外観のカン美術館
© Musée des Beaux-Arts de Caen. |
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18世紀絵画の部屋で目を引くのは、リゴーやブーシェ、ランクレらが描いた肖像画と風景画。また、19世紀のものでは、ジェリコーやシャセリオーらロマン派の作品、そしてクールベの作品群やモネを代表とする印象派絵画、20世紀絵画では、ヴィラールやボナールやマルケ、ヴァン・ドンゲンといった画家の作品がとても印象的でした。
現代絵画は「アレゴリー」「空間」「光」といった大きなテーマごとに編成されていて、バルテュスをはじめジョアン・ミッチェルの『田園』(1990)、ヴィエイラ・ダ・シルヴァの『アリアドネ』(1978)などの作品があります。また、このミュゼには、50万枚以上からなるヨーロッパ有数の切手コレクションも収められています。
そして、今回の訪問のお目当てが、現在このミュゼで開催中の特別展「ヴェネチアの栄光:1500-1600」。フランス国内の教会やルーヴルをはじめとする美術館から集められた16世紀ヴェネチア派の選りすぐりの絵画やデッサン120点が一堂に会しています。 |
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▲「ヴェネチアの栄光:1500-1600」展で展示されるティントレットの『ダナエ』
油彩 142 x 182,5 cm
Danaé Musée des beaux-arts de Lyon
Photo Studio Basset |
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思い返してみれば、16世紀のヴェネチアは、政治的にも経済的にも強大な権力を誇る通商の中心地で、芸術を愛し、優れた審美眼と美的センスに富んだ商人たちが率いる共和国家でもありました。そんななか、絵画の世界には三大芸術家、ティツィアーノ、ヴェロネーゼ、ティントレットが生まれたのです。
この特別展では、風景画や肖像画、また世俗的寓意画や宗教的寓意画といったすべてのジャンルにおいて、ヴェネチア派が紹介されています。果たして、彼らの眩いばかりの色遣いに心惹かれないものがいるでしょうか。光に満ちた華やかな画面、建造物の見事な表現、黄金色や玉虫色の輝きを放つ織物の描写……。美を愛でることが、いかに心地よいものかを改めて実感させられました。 |
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また、油彩だけでなく素描画にもたっぷりとスペースが割かれているので、彼ら色彩の画家たちが、17〜18世紀に受けた批判とは異なり、卓越したデッサン力ももち合わせていたのだということがよくお分かりいただけるかと思います。 |
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ヴェネチア派の黄金時代を築き上げたヴェロネーゼ(1528-1588)は、ヴェネチアの幾多の教会から宗教画の注文を受ける一方で、王侯貴族には神話画や歴史画を納めましたが、ルイ14世のコレクション『水浴のベッサベ』(1575年頃)もそんな作品のなかの1点。彼は、柱廊や円柱が多くある建物のなかに威厳に満ちた人物像を配し、神話的なテーマを詳細に描き出しました。彼は素晴らしい色彩画家でした。男性の厚いコートの赤や金、女性のドレスの薄紫やグレー、また宮殿の大理石の白……。なんと眩い世界なのでしょう。 |
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▲ヴェロネーゼ『水浴のベッサベ』(1575年頃)
油彩 232 x 242,5 cm
Lyon - Musée des beaux-arts
Photo Studio Basset |
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ティントレット(1519-1594)はヴェロネーゼとは異なり、生涯において一度もヴェネチアを離れることのなかった画家です。彼の傑作『ダナエ』に描かれた絹のような光沢を放つ赤と茶の布地の描写をご覧になれば、ティツィアーノのライバルとして知られる彼もまた、素晴らしい色彩画家であったことがお分かりいただけると思います。
16世紀、ヴェネチア派は芸術の黄金時代を築き上げ、ヴェネチアはローマやフィレンツェとともに、あらゆる芸術家が夢見る場所のひとつとなりました。そして、この特別展がまさにその証といえましょうが、ヴェネチア派に対する人々の熱狂とその「栄光」は、決して衰えることはないようです。 |
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最後になりましたが、このミュゼにいらしたら「カフェ・マンセル」(ある寄贈者の名前です)へ是非、いらしてみてください。気軽なティー・タイムにも待ち合わせにもぴったりの心地よい空間で、カルヴァドスをフランベしたタルト・オ・ポンムなどの、このカフェおすすめのノルマンディ名物は、きっと皆さまも気に入ってくださることと思います。
親愛をこめて。 |
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フランス文化省は、毎年、学問的見地から優れているだけでなく、多くの人々の文化的関心を高めるような革新的な展覧会を「国民的関心の高い展覧会」として選出しています。 |
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詳しくはこちら>> |
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住所 |
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Le
Château-14000 Caen |
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Tel |
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02.31.30.47.70 |
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Fax |
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02.31.30.47.80 |
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URL |
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アクセス |
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トラム(AまたはB路線):カン(Caen)駅からトラムでサン・ピエール(St.Pierre)下車
パーキング:城塞中庭のパーキングは無料 |
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休館日 |
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火曜日・一部の休日 |
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開館時間 |
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9:30-18:00 |
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カフェ《Le
Café Mancel》 |
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10:00-23:00(日曜日の夜と月曜日を除く) |
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入館料 |
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常設コレクションは入場無料
特別展入場料: |
一般/5ユーロ
10名以上の団体・大学の学生/3ユーロ
18歳以下の学生/無料
※毎月第1日曜日は無料 |
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特別展 |
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ヴェネチアの栄光:1500-1600
Splendeur de Venise:1500-1600
会期:2006年7月4日まで |
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コルネリス・ファン・ハールレムの『ヴィーナスとアドニス』
«Vénus et Adonis»
de Cornelisz van Haarlem
会期:2006年5月12日〜9月17日 |
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MMFのインフォメーション・センターでは、カン美術館で開催中の「ヴェネチアの栄光:1500-1600」展のカタログやカン美術館の公式カタログをご覧いただけるほか、パンフレットをお持ち帰りいただけます。 |
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フランス北部、ノルマンディ西部に位置する人口約10万人の都市。第二次世界大戦で街の大半を焼く被害に遭うものの、戦後復興し、今も歴史ある美しい建造物が数多く残る。 |
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パリからのアクセス |
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車:Périphérique
Nord(パリの外環状道路)よりCHU出口
電車:パリSNCFサン・ラザール(St.Lazare)駅からカン(Caen)行、またはシェルブール(Cherbourg)行で約2時間 |
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マダム・ド・モンタランベールについて
本名、アンヌ・ド・モンタランベール。
美術愛好家であり偉大な収集家の娘として、芸術に日常から触れ親しみ、豊かな感性が育まれる幼少時代を過ごす。ブルノ・デ・モンタランベール伯爵と結婚後、伯爵夫人となってからも、芸術を愛する家庭での伝統を受け継ぎ、ご主人と共に経験する海外滞在での見聞も加わり、常に芸術の世界とアート市場へ関心を寄せています。アンスティトゥート・エテュディ・デ・スペリア・デザール(IESA)卒業。 |
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