パリ装飾芸術美術館
1905年に開館したパリ装飾芸術美術館は、10年におよぶ内装工事と作品の修復を終え、
2006年の9月に再オープンしました。
中世から現代まで、人々の生活の中で慈しまれながら使われていたものが展示されています。
多くのデザイナー、クリエーター達もインスピレーションを受けに訪れるという美術館です。
©Andreas Licht
 
自然光を取り入れた新装のギャラリー
▲パリ装飾芸術美術館外観。
©Andreas Licht
 装飾芸術美術館があるルーヴル宮のマルサン翼は、ナポレオン1世(Napoléon Bonaparte)が建設に着手し、ナポレオン3世(Charles Louis Napoléon Bonaparte)の時代に完成しました。パリを東西に貫く大通り、美術館に面したリヴォリ通りの開通と軌を一つにしています。1897年に装飾美術組合がこの建物の使用を許され、1904年に付属の図書館、1905年に装飾美術館が開館しました。約1世紀の間に寄付などによって15万点もの所蔵品が集められました。
この建物には他にモードとテキスタイルの美術館、広告博物館が入っています。
 パリ装飾芸術美術館は内装工事と所蔵品の修復のため閉館していましたが、2006年9月15日にリニューアル・オープンしました。まず展示物を厳選して6,000点にまで絞り込み、時代やスタイルの要点を際立たせるように展示方法や見学ルートを改良しました。今まで使われていなかった部分も展示室とし、9,000m2の広さを誇る、見どころたっぷりの美術館を誕生させたのです。またエントランスを入ったところにある吹き抜けのギャラリーの身廊を全部やりかえ、天井から自然光が入る明るい空間に一新させました。床の美しいモザイク、柱の優雅なレリーフに彩られたギャラリーは、この美術館を印象づける素晴らしい空間となっています。さあ、ここから美術館探訪を始めましょう。
 
ページトップへ
スタイルの変遷を年代順でたどる展示室
▲美しく生まれ変わったギャラリー。
©Andreas Licht
 ギャラリーの左にあるエレベーターを使って3階に上がります。そこには案内とオーディオ・ガイドのセンターがあります。その奥から展示は始まります。各時代にはピリオド・ルームと呼ばれる一室丸ごとその時代のもので作られた部屋があります。部屋に入るとその時代にタイムスリップしたかのような素晴らしい体験です。
     
【中世〜ルネッサンスの装飾芸術】
 まず中世とルネッサンスの展示室です。ヨーロッパ中から集められた13世紀からの宗教作品や、タピスリー、家具などが並んでいます。ここでの見どころは、スペインのアンダルシアの城にあった16世紀の木製の大型レリーフ。ヘラクレスの一生を描いたものですが、なんとこれは美術館に所蔵されていたものの、内装工事が始まるまで100年間も忘れられたままになっていたといういわくつきの品です。修復されて1世紀ぶりのお披露目です。
▲長い間、美術館に眠っていた中世の木製レリーフ。
©Andreas Licht
 ルネッサンスのコーナーでは、本場イタリアから渡来したオブジェが並んでいます。イタリア遠征に向かったフランソワ1世(François I)はそこでルネッサンスの文化に触れて傾倒し、自ら普及に務め、後にレオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci)を呼び寄せたほどでした。当時の最先端を行く思想とスタイル、そして技術が宿った作品が並びます。当時のヨーロッパでは、イタリアが文化や芸術の中心となっていました。
 
【17〜19世紀の装飾芸術】
 次の17世紀はフランスの宮廷文化が花開いた時代。太陽王と呼ばれたルイ14世(Louis XIV)がヴェルサイユ宮殿の設営に取りかかり、イタリアの影響を受けつつもフランス独自のスタイルが生まれ出た時代でした。
▲異国情緒豊かな装飾が印象的な帝政様式の展示室。
©Andreas Licht
 18世紀は宮廷文化の爛熟期です。ルイ15世(Louis XV)の愛人で、趣味のよさで知られるポンパドール夫人(Madame de Pompadour)、マリー=アントワネット(Marie-Antoinette)などの愛蔵品も飾られています。当時の宮廷の磁器は王立窯のセーヴルで焼かれていました。マリー=アントワネットは濃い青を好み、ポンパドール夫人は軟磁器でないと出ないというセレスタ(celesta)と呼ばれる青緑がお気に入りだったということです。
贅を尽くした家具などとともに、セーヴル焼、銀器の逸品も並んでいます。また18世紀後半にはイギリスで産業革命が起こり、後の人々の生活を大きく変える転機となりました。
 フランス革命後の19世紀はナポレオンが好んだ帝政様式が登場します。古代エジプトやギリシア、ローマ時代のモチーフが好まれたため新古典主義とも呼ばれます。ヤシの葉や雷電模様などエキゾチシズムを加味した装飾が多く使われました。 
 19世紀後半になると初の万博も行われ、各国が手工芸品の粋を競う一方で、新技術を伴った工業製品もどんどん登場してきます。
▲シノワズリーのコーナー。
©Andreas Licht
 
ページトップへ
近代から現代、コンテンポラリーへ
【アール・ヌーヴォーとアール・デコ】
▲エミール・ガレのコーナー。
©Andreas Licht
 ヨーロッパでは市民社会、資本主義社会が誕生した18世紀後半から近代が始まったとされますが、20世紀が始まり、装飾芸術が一握りの特権階級だけでなく、広く一般にも浸透してきました。その中で特筆すべきムーブメントはやはりアール・ヌーヴォーとそれに続くアール・デコでしょう。アール・ヌーヴォーは植物や鉱物など自然のモチーフを多用した繊細で優雅なスタイルで、19世紀後半から20世紀初頭にかけてヨーロッパ中を席巻しました。日本美術も大きな影響を与えたことで知られています。フランスの代表的なデザイナー、エミール・ガレ(Émile Gallé)やギマール(Hector Guimard)の作品がそれをよく伝えています。
 アール・デコは1920年代から30年代にかけて流行し、ヌーヴォーとは一転してシンプルで幾何学的なフォルムが好まれました。当時クチュリエとして活躍していたジャンヌ・ランヴァン(Jeanne Lanvin)が使っていたアパートの内装と家具一式が寄付されて飾られています。この美術館のひとつのハイライトです。
▲ジャンヌ・ランヴァンのアパートメントの内装。
Armand-Albert Rateau 1924-1925, Paris
©Musée des Arts décoratifs, Paris. Photo Jean-Marie Del Moral
     
【現代からコンテンポラリー】
▲60、70年代の展示室。
©Andreas Licht
 それ以後は現代のコレクションとなり、マルサン翼の端にある吹き抜けの塔部分が展示に当てられています。まず9階まで上がり、8階、7階と降りながら見学します。各階は上から40年代、50年代、60、70年代という区分となっています。シャルロット・ペリアン(Charlotte Perriand)、プールヴェ(Jean Prouvé)などのミッド・センチュリーの秀作家具が並んでいます。
 7階の60、70年代のフロアは並べられた椅子の山が圧巻です。この横には実際に座り心地を試しながら、映画に使われたデザイナー家具を紹介するビデオが鑑賞できるコーナーもあります。そこからは、チュイルリー公園の向こうにエッフェル塔が見え、パリでも有数の眺めです。
▲80年代の展示室。
©Andreas Licht
▲マーク・ニューソン『引き出しのポッド』
Marc Newson, 1987.
©Musée des Arts décoratifs, Paris. Photo Laurent Sully-Jaulmes. Tous droits réservés
 コンテンポラリーはその下の6階に80、90年代のものが集められ、5階には2000年から現代までの作品が展示されています。ここに来て気づくのは、80、90年代の家具は実用というよりオブジェの要素が大きくなっていることです。それが最近になり、フィリップ・スタルク(Philippe Starck)やマーク・ニューソン(Marc Newson)が出現すると再び実用的でシャープなフォルムのものが登場します。
 こうして見て行くと、装飾美術は時代を映し出す鏡のようなものだと思わずにはいられません。歴史をかんがみながら俯瞰的に見学してもいいですし、自分の好きなスタイルやディテールにこだわった視点で見てもいいのです。さまざまな楽しみ方ができるのも装飾芸術美術館の魅力のひとつともいえるでしょう。
 
ページトップへ
個性的な展示室と、デザインの改良や変遷をたどる企画展
▲おもちゃのギャラリー。
©Musée des Arts décoratifs, Paris.Photo Philippe Chancel
 常設の展示場とはテーマが違いますが、2階と3階には幾つか他の展示室があります。まず、おもちゃのギャラリー。これはおもちゃをオブジェとして捉え、年代やエリアなど関係なくショーケースに展示してあります。古い熊のぬいぐるみから村上隆(Takashi Murakami)の「カイカイキキ(kaikai kiki)」まで並んでいるのです。また最近のコンピューター・ゲームも取り上げており、実際に遊べるスペースも設けてあります。
その奥にはジャン・デュビュフェからの寄付による彼の作品ギャラリーがあります。
デュビュフェは美術館や博物館のことを「防腐処理の死体置き場」と呼び、嫌っていたことで有名です。この例外的な寄付は、美術館のキュレーターとの友情によるものでした。デッサン、絵、版画、彫刻合わせて約560点余りが贈られました。小さなギャラリーですが、総括的にデュビュフェの世界を見ることができる素敵な場所です。
 研究ギャラリーではテーマに添った実験的な展示が行われます。来年の10月27日まで約1年にわたって繰り広げられているのは「何に使うの?」というテーマ。「休むためのもの」と「食べるためのもの」と大きく2つに分けられ、それぞれに関するオブジェが展示されています。使用する目的が同じであれば、年代や様式などをわざと統一せずに展示しており、混交玉石の面白さ!皇帝の玉座と現代の椅子を対比させるなどの試みを行っています。
▲ジャン・デュビュフェ『都会生活の問題』
Jean Dubuffet, 1962
©Musée des Arts décoratifs, Paris. Photo Laurent Sully-Jaulmes. Tous droits réservés
 入り口のギャラリーの回廊では「デザインを編む」という企画展が行われています。20世紀のデザインを集めたもので、1部は「アイコンの歴史」「知られざる名品」「3本足の椅子の運命」「売れ筋へ」「改良の前と後」「私のために作ったもの」の6つの切り口で展示されています。シャネルの5番のボトルがどのように変化してきたかなど、デザインの改訂や変遷が一目でわかるようになっています。
 また2部はミラノで活躍するデザイナー、ヴォドーズ・ダニーズ(Vodoz Danese)の回顧展となっています。これは来年の1月21日まで開催されています。このギャラリーの企画展は半年毎に新しいものが用意されるということです。
 
▲デンマークを代表する建築家、アルネ・ヤコブセンの『アント(蟻)・チェア』。
Arne Jacobsen, 1952
Édition Fritz Hansen,Danemark, depuis 1980
www.fritzhansen.com
▲シャネルの5番のボトルの変遷。
©Chanel
   
Update: 2007.1 田中久美子(Kumiko TANAKA/文)/Andreas Licht(写真)
  PARIS MUSEUM PASS 利用可能施設
パリ装飾芸術美術館
所在地
 
107, rue de Rivoli 75001 Paris
Tel
 
+33 (0)1 44 55 57 50
URL
 
http://www.lesartsdecoratifs.fr/
開館時間
 
火-金曜日:11:00-18:00
※但し、木曜日は21:00まで開館
土・日曜日:10:00-18:00
休館日
 
月曜日
入館料
(広告博物館、モード・織物美術館と共通)
 
一般:8ユーロ
割引:6ユーロ(18-25歳、失業者など)
18歳未満、身障者などは無料
アクセス
 
メトロ パレ・ロワイヤル=ミュゼ・ド・ルーヴル(Palais Royal-Musée du Louvre)、チュイルリー(Tuileries)、ピラミッド(Pyramides)各駅下車。
MMFで出会えるパリ装飾美術館
MMFインフォメーションセンターでは、公式ガイドブックから過去に開催された展覧会カタログなど、パリ装飾芸術美術館に関する書籍を閲覧いただけます。

*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。