• 高橋明也館長が語る三菱一号館美術館とマネ展
  • 「マネとモダン・パリ」展覧会レポート

「マネとモダン・パリ」展

東京・丸の内の中心に、レンガ造りの重厚な姿を見せる三菱一号館美術館。まるで、この空間だけ明治時代にタイムスリップしたような感覚にとらわれます。4月6日の開幕初日、さっそくMMFスタッフがその新しい美術館の扉の向こうに広がる「マネとモダン・パリ」展の世界に足を踏み入れてみました。

19世紀のパリの街とマネの作品が交錯するストーリー

写真:ホンマタカシ

 丸の内ブリックスクエアの一角に建つレンガ造りの建物が「三菱一号館美術館」。入り口は、新緑がまぶしい「一号館広場」に面しています。「一号館広場」には遊歩道のようにめぐらした小径の間に、四季折々の草花が植えられ、まるで丸の内の「オアシス」のような趣。マネも画題を探しながらパリの街を散歩することを好んだといいますが、小さいながら、まさに都会の散歩道にぴったりな広場です。


▲マックス・ベルトラン(Max Berthelin)≪産業館(断面図)≫1854年 オルセー美術館蔵
© RMN (Musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by DNPartcom

 さて、今回の「マネとモダン・パリ」展は、マネの油彩、素描、版画80点余り、さらに同時代の画家たちの油彩、建築素描、写真など約80点が一堂に会する、日本では類を見ないマネの一大回顧展です。マネの芸術の全貌を、画家が生きた19世紀の変貌するパリの姿と合わせて辿ることができる、複眼的な視点から構成された質の高い展覧会となっています。
 最初の展示室は3階から。ここでまず、来館者を出迎えるのが≪セーヌ県知事オスマン男爵≫(アンリ・レーマン/Henri Lehmannに帰属)。オスマン男爵(Georges-Eugène Haussman)は、私たちが目にする現代のパリの風景を作った人物です。オスマン男爵はナポレオン3世(Napoléon Ⅲ)の命を受け、パリを近代都市にするため「大改造計画」を実行しました。オスマン男爵がセーヌ県知事に就任したのは、マネが画家を志して間もない21歳の頃のこと。マネの眼前でパリは近代都市として、刻々と姿を変えていきました。そんな都市の変貌が、今回の展覧会のサブストーリーとして語られています。マネが見たパリの変化を、私たちも写真や建築素描などを通じて、知ることができるのです。


© Takuya Neda

 そして、三菱一号館美術館のなかで最も広い展示室には、マネの代表作といえる名品が並びました。親友ボードレール(Charles Baudelaire)の愛人を描いた≪扇を持つ女(ジャンヌ・デュヴァル)≫、熱心な擁護者だった作家を描いた≪エミール・ゾラ≫、スペインの踊り子≪ローラ・ド・ヴァランス≫……。展示室の中心に立つと、マネの筆によってその内面までもえぐり出されたモデルそれぞれの、強い視線に射抜かれるような感覚にとらわれます。


▲エドゥアール・マネ≪扇を持つ女(ジャンヌ・デュヴァルの肖像)≫1862年 ブタペスト美術館蔵
© Szépmüvészeti Múzeum, Budapest
▲エドゥアール・マネ≪ローラ・ド・ヴァランス≫1862年 オルセー美術館蔵
© RMN (Musée d'Orsay) / Gérard Blot / distributed by DNPartcom
▲エドゥアール・マネ≪エミール・ゾラ≫1868年 オルセー美術館蔵
© RMN (Musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by DNPartcom
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美しいライティングの中から浮かび上がる5人のベルト・モリゾ

 今回の展覧会でとくに印象的だったのは、作品をとても近くで見られること、また絵の魅力を最大限に引き出すように考え抜かれた巧みな照明技術です。光ファイバーを使った繊細な照明は、淡いラベンダー色で統一された壁に掛かる作品を美しく浮かび上がらせています。とくに、そのメリットが生かされていると感じたのが、マネの弟子兼親密なモデルだったベルト・モリゾ(Berthe Morisot)の肖像が並ぶ展示室でした。漆黒の瞳と髪が印象的なベルトの肖像画が5点、さほど広くない展示室に掲げられています。マネが描いたベルトの肖像画は、他のモデルには見られない、親密さをたたえています。そして展示室はそうしたマネとベルトの関係を暗示するかのような、非常にプライベートな空気に満たされていました。


© Takuya Neda
▲エドゥアール・マネ≪横たわるベルト・モリゾの肖像≫1873年 マルモッタン美術館蔵
© Musée Marmottan, Paris, France / The Bridgeman Art Library

 今回の展覧会はマネの作品の多くを実際に間近で目にすることのできる、またとないチャンス。それは印刷物などでは実感できない、マネ作品の魅力を存分に味わえる機会でもあります。例えば、詩人ポール・ヴァレリー(Paul Valéry)は「マネの勝利」と題した文章で≪すみれの花束をつけたベルト・モリゾ≫に触れて、「何よりもまず黒、絶対的な黒がある」と語りましたが、そのマネの黒の鮮烈さは、実際の作品を見て初めて分かるものといえるでしょう。≪すみれの花束をつけたベルト・モリゾ≫はもちろん、妻シュザンヌ(Suzanne Leenhoff)と弟ウジェーヌ(Eugène Manet)をモデルに描いた≪浜辺にて≫には、シュザンヌの帽子のリボンに画面全体を引き締めるかのような黒が使われています。作品の前に立って初めて出会う、新たなマネの魅力が隅々まで溢れている展覧会です。
 ちなみに三菱一号館美術館は、水曜、木曜、金曜は20時まで開館しています。東京駅周辺からのアクセスも抜群なので、仕事帰りのひと時、エスプリ溢れるマネの世界に浸ってみてはいかがでしょうか?


▲エドゥアール・マネ≪すみれの花束をつけたベルト・モリゾ≫1872年 オルセー美術館蔵
© RMN (Musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by DNPartcom
▲エドゥアール・マネ≪浜辺にて≫1873年 オルセー美術館蔵
© RMN (Musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by DNPartcom
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「マネとモダン・パリ」展

  • 会期
    2010年4月6日(火)〜7月25日(日)
  • 会場
    三菱一号館美術館
  • 所在地
    東京都千代田区丸の内2-6-2
  • Tel
    03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • URL
    美術館 
    http://mimt.jp/
    展覧会 
    http://mimt.jp/manet/
  • 開館時間
    水・木・金:10:00-20:00
    火・土・日・祝:10:00-18:00
    *入館は閉館の30分前まで
  • 休館日
    月曜日
    *ただし5月3日(月、祝)、
    7月19日(月、祝)は開館
  • 観覧料
    一般:1,500円
    高校・大学生:1,000円
    小・中学生:500円

MMFで出会える マネとモダン・パリ展

  • MMFのB1Fインフォメーション・センターでは、「マネとモダン・パリ」展のカタログを閲覧いただけます。

マネをもっと知るための一冊

  • 高橋明也館長自身の執筆による、マネの生涯を辿る一冊。代表作と共に、粋なパリジャンとして生きたマネの人生をより深く知ることができます。
▲『もっと知りたいマネ』(高橋明也著/東京美術刊)
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