• 高橋明也館長が語る三菱一号館美術館とマネ展
  • 「マネとモダン・パリ」展覧会レポート

「マネとモダン・パリ」展

明治27(1894)年、東京・丸の内に英国人建築家ジョサイア・コンドルが設計した丸の内初のオフィス・ビル「三菱一号館」が完成しました。しかし昭和43(1968)年、老朽化のため解体されてしまいます。
それから40年余り――。平成22(2010)年4月、赤レンガの重厚かつエレガントな建物は、同地にコンドルのオリジナル設計にのっとり「三菱一号館美術館」として蘇りました。「都市生活の中心としての美術館」という新しいコンセプトを掲げ、船出したばかりの美術館とオープニングを飾る「マネとモダン・パリ」展の見どころについて高橋明也館長にインタビュー。また、開幕初日の展覧会レポートもお届けします。

“近代絵画の創始者”マネの全貌を辿る回顧展開幕

▲高橋明也館長
© Takuya Neda

MMF:三菱一号館美術館のオープニングを飾る「マネとモダン・パリ」展が幕を開けて10日ほどがたちましたが、来館者の方々の反応はいかがですか?
高橋明也館長(以下高橋館長):お陰さまで1日平均2800〜2900人の来館者数をキープし続け、週末には3000人を超える方々に来館いただいています。“近代絵画の創始者”としてのマネ(Édouard Manet)の名は、日本でも知られてはいますが、モネ(Claude Monet)やドガ(Edgar Degas)、セザンヌ(Paul Cézanne)など同世代、あるいは後輩画家と比較すると、その作品イメージは浸透していないというのが現実です。モネならば「睡蓮」、ドガならば「踊り子」というような紋切り型のイメージがマネにはないのです。国内で開催された展覧会といっても、1996年の東京、伊勢丹美術館(福岡市美術館、大阪市立美術館)、そして2001年の府中市美術館(奈良県立美術館)の「マネ展」ぐらいで、ここまでマネの作品が揃った展覧会は、今回が初めてといえるでしょう。また、今回の「マネとモダン・パリ」展は、世界的に見ても1983年の没後100年を記念して、パリとニューヨークで開催された回顧展以来のハイレベルなものだとのお褒めの言葉をいただきました。これまで実際に見る機会の少なかった、いわば“幻の巨匠”の作品に、多くの方々が期待を寄せてくださっています。


▲美術館内にある「Café1894」は、かつて銀行営業室だった空間。明治時代のクラシカルな雰囲気が楽しめる。

MMF:三菱一号館美術館は、従来の日本の美術館のイメージとは全く異なる建築でも注目を集めていますね。
高橋館長:この美術館は、19世紀末、お雇い外国人の建築家ジョサイア・コンドル(Josiah Conder)が設計した「三菱一号館」を、できる限り忠実に再現したものです。明治期の設計図や解体時の実測図を精査することはもちろん、写真や保存されていた部材などの詳細な調査を経て完成に至りました。階段の手すりの石材などには、保存されていたオリジナルの部材が再利用されています。また、レンガなどは当時の製造工程に則り、中国でこの建物のためだけに焼いたものです。来館者の方の中には暖炉のある展示室に驚かれる方もいらして、「海外の邸宅美術館のよう」という言葉をいただいています。

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都市と共に成長する美術館の在り方

MMF:丸の内の真ん中にあり、アクセスが非常によいのが、三菱一号館美術館の大きな特徴のひとつでもありますが……。
高橋館長:この美術館のミッションのひとつに、「都市生活の中心としての美術館」という視点を掲げています。広い敷地を要することもあり、日本の美術館はどうしても都市のはずれに建てられることが多いのが現状です。私たちは日常のリズムの中で、より多くの方がアートに触れる機会を持つことが必要だと考えています。フランスなどをはじめ、欧米の都市では、美術館が都市の中心をなしています。美術館を訪れることは何も特別な日に限った非日常的行為ではなく、生活の延長線上の楽しみであるべきなのです。こうした想いは、私が子どもの頃にパリにいた経験が強く影響しているのかもしれませんね。ビジネスマンがお昼休みや仕事帰りにふらりと立ち寄れる――、三菱一号館美術館がそんな空間に成長していってくれればと願っています。


MMF:オープニングの第一弾の展覧会としてマネを選ばれた理由についてお聞かせください。
高橋館長:ひとつ目には、私の個人的な思い入れにあります。マネの絵画は先にお話しした通り、そのネームバリュームに比して、取っつきづらいものといえます。しかしその人物像も作品自体も、非常に強烈な“磁場”を持っています。洗練された黒や緑、紫などの色彩の輝きと素晴らしい筆のタッチ、さらに19世紀という変革期のパリにあって、自らの信念に忠実に生きた芸術家としての姿勢は、観る者をとらえて離しません。また、生粋のパリジャンだったマネは、自分が生まれたパリという街をこよなく愛した芸術家であり、多くの作品が「都市生活」という主題を扱っています。三菱一号館美術館は、あらゆる意味で都市と共に生き、成長するべき美術館です。丸の内という都会の真ん中から新たに船出する美術館にとって、マネほどふさわしい画家はいないと考えたのが、ふたつ目の理由です。

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高橋館長が語る「マネとモダン・パリ」展の見どころ

▲絵の魅力を最大限に引き出す光ファイバーによるライティングが美しい。
© Takuya Neda

MMF:今回の展覧会での見どころをお教えください。
高橋館長:美術愛好家の皆さんから、「展覧会のストーリーだてが心に残った」という、学芸員にとってはとても嬉しい言葉をいただいています。常々私は、展覧会というものは、絵をただ並べるだけでは成立し得ないと思ってきました。展覧会には「キュレーション」が最も必要な要素のひとつです。観ていただく方々に、強いメッセージやストーリーを語りかけられるのが、優れた展覧会だと思います。その点では、4年という構想期間を経て、80点余りにのぼるマネの作品を、よりよい形で皆さんにお目にかけることができたのは、新しい美術館の出発として、とても嬉しく、また誇らしく思っています。ただ、今後の展覧会でも、展示する個々の作品の質が高くないと、建物自体に存在感があるので、“箱”に負けてしまうという緊張感も持っています。展覧会は非常にクリエイティブなものです。今後も皆さんの記憶に残る展覧会を、若い学芸員と一緒に、企画していきたいと思っています。


▲高橋館長が「近代肖像画の傑作」と称賛する≪すみれの花束をつけたベルト・モリゾ≫の前で。
©Takuya Neda

MMF:最後に、今回のマネ展を通して高橋館長が訴えかけたいメッセージをお願いします。
高橋館長:マネは19世紀という大きな時代の変革期にあって、時代を乗り越えて、新しい芸術を創出していきました。そうした時代をも乗り越える力というものを、マネの作品を通して、感じとってもらえれば嬉しいですね。これは現代の日本に生きる私たちにとっても、とても必要な力だと思いますから……。

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「マネとモダン・パリ」展

  • 会期
    2010年4月6日(火)〜7月25日(日)
  • 会場
    三菱一号館美術館
  • 所在地
    東京都千代田区丸の内2-6-2
  • Tel
    03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • URL
    美術館 
    http://mimt.jp/
    展覧会 
    http://mimt.jp/manet/
  • 開館時間
    水・木・金:10:00-20:00
    火・土・日・祝:10:00-18:00
    *入館は閉館の30分前まで
  • 休館日
    月曜日
    *ただし5月3日(月、祝)、
    7月19日(月、祝)は開館
  • 観覧料
    一般:1,500円
    高校・大学生:1,000円
    小・中学生:500円

MMFで出会える マネとモダン・パリ展

  • MMFのB1Fインフォメーション・センターでは、「マネとモダン・パリ」展のカタログを閲覧いただけます。

マネをもっと知るための一冊

  • 高橋明也館長自身の執筆による、マネの生涯を辿る一冊。代表作と共に、粋なパリジャンとして生きたマネの人生をより深く知ることができます。
▲『もっと知りたいマネ』(高橋明也著/東京美術刊)
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