- 1.展覧会を楽しむためのキーワード
- 2.見逃せない作品4点
2011年10月13日、三菱一号館美術館で「トゥールーズ=ロートレック展」が開幕しました。今回展覧されるロートレックの作品群「ジョワイヤン・コレクション」は、三菱一号館美術館の最初のコレクションです。ロートレックは日本でも人気の高い画家のひとりで、これまでにも多くの展覧会が開かれていますが、三菱一号館美術館の開館から1年半を経て、満を持して発表される今回の「ジョワイヤン・コレクション」は、ロートレックの作品群の中でも特別なものです。そこで2回連載で「トゥールーズ=ロートレック展」をクローズアップ。1回目は、展覧会をより楽しむためのキーワードをご紹介します。
今回の展覧会に出品されている三菱一号館美術館所蔵のポスターやリトグラフの一群には、「ジョワイヤン・コレクション」という名が冠されています。ジョワイヤンとは、トゥールーズ=ロートレック(Henri de Toulouse-Lautrec/1864-1901)が7、8歳の頃に出会った同級生モーリス・ジョワイヤン(Maurice Joyant/1864-1930)です。彼は幼い頃から、アルコール中毒で苦しむ晩年までのロートレックを傍らで支え続けた親友でした。長じて画商となったジョワイヤンは、ロートレックの死後、アトリエに残された貴重なコレクションを引き継ぐことになります。
遺産管理人としてジョワイヤンに託されたコレクションの一群には、多くの人が一度は目にしたことがあるであろう、よく知られた作品が多く含まれます。しかも「ジョワイヤン・コレクション」の中のそれら大判のポスターの数々は、折り跡がほとんどなく、色彩もまるで今刷られたばかりであるかのように鮮やかな、非常に状態のいいものばかり。それは街頭に貼り出される前に、コレクション用に大切にアトリエに保存されたものであるからと考えられています。

Musée Toulouse-Lautrec, Albi, Tarn, France
ジョワイヤンは、ロートレックの死後、アトリエに残された作品にHTL(Henri de Toulouse-Lautrec)を組み合わせたモノグラムを1枚1枚、自らの手で押していきました。「ジョワイヤン・コレクション」の証でもあるそのモノグラムは、親友へ向けた最後の賛辞であり、また二人の強い絆を示すかのように、存在感を放っています。
実はロートレックの死後、その残されたコレクションをジョワイヤンに託したのは、ロートレックの父アルフォンス伯爵(Le Comte Alphonse de Toulouse-Lautrec/1838-1913)でした。伯爵は、貴族の長男でありながら家を飛び出し、モンマルトルという大衆文化の中に生きる道を見つけた息子をなかなか理解できず、二人の間には大きな溝があったといいます。しかし伯爵は、息子が36歳という若さで早世した後、ジョワイヤンに一通の手紙を送りました。
「息子が生み出した作品に少しでも遺産となるようなものがあるのであれば、私は喜んであなたにその権利の一切をお譲りします。寛大ぶっているのではありません。その相続人としてあなた以上にふさわしい人がいないからです……」
この手紙には息子の生き方を、そしてその芸術世界を理解できずに苦しんだ、ひとりの父親としての悲哀が切ないほどに溢れています。
今回の展覧会では三菱一号館美術館所蔵の作品だけでなく、画家の故郷であるフランス南部の古都アルビのトゥールーズ=ロートレック美術館所蔵の作品も展覧されています。ロートレックゆかりの地といえば、19世紀のモンマルトルがすぐに思い浮かびますが、ロートレックは画家としてパリで成功した後も、少年時代を過ごしたアルビの地にたびたび帰郷していました。アルビは、画家ロートレックの原点といえる場所であり、創作活動の糧となる重要な地であったのです。
そして「薔薇色の街」と称される美しい世界遺産都市アルビにあるトゥールーズ=ロー トレック美術館と三菱一号館美術館は、2009年4月、姉妹館提携を結びました。総計250点余りの「ジョワイヤン・コレクション」を所有する三菱一号館美術館は、ロートレックのリトグラフやポスター作品などのコレクションにおいては、網羅的に収集された幾つかの個人コレクションを除けば、パリのフランス国立図書館、そしてトゥールーズ=ロートレック美術館に次ぐ、世界で3番目の量と質をそなえたコレクションを有する美術館ということができるでしょう。
ロートレックは日本美術にも強い興味を持ち、その作品にも浮世絵から影響を受けたものが少なくありません。画家の死から1世紀の後、遠く海を越えて出会ったアルビと東京の作品。今回の展覧会では、アルビの写真もふんだんに展示されているので、画家が愛した故郷の風景を想像しながら、作品を鑑賞するのもひとつの楽しみ方になりそうです。
三菱一号館は、19世紀のイギリス人建築家ジョサイア・コンドル(Josiah Conder/1852 -1920)によって設計されました。ちょうどロートレックがモンマルトルで活躍している頃のことです。そして実はコンドルの親族に当たる画家チャールズ・コンダー(Charles Conder/1868-1909)は、パリでのロートレックの親しい友人のひとりで、モデルとしてもたびたびロートレック作品の中に登場しています。今回の出品作の中でも《金色の怪人面のある桟敷席》などでその姿を見ることができます。コンダー一族の二人の芸術家が1世紀の時を経て三菱一号館美術館で出会う――。
ロートレック作品がもたらした不思議な縁ですね。
ロートレックがアトリエに残していたのは、油彩やポスターといった作品だけでなく、親しい友人に送った晩餐会のメニューカードや個展の内覧会の招待状などもありました。人気ポスター作家としてモンマルトルの寵児に躍り出た後もロートレックは、仲間たちと過ごす時間を何よりも愛し、自ら腕を振るった料理でたびたび晩餐会を催していました。メニューカードや招待状には、ロートレックの流麗な線によるユーモア溢れるデッサンが添えられており、目にすると思わず微笑んでしまうものばかり。これらはどれも限定された友人に送られたものだけに、数も少なく、とても貴重な作品です。サイズは小さいものばかりですが、ロートレックの愛すべき素顔を雄弁に語りかけてくれる作品に出会えるのも、「ジョワイヤン・コレクション」の大きな魅力のひとつです。
ナチュラルフレンチレストラン「mikuni MARUNOUCHI」では、「トゥールーズ=ロートレック展」開催期間中、コラボレーションメニューが提供されています。ロートレックが書き残したレシピの中から、画家の好んだ食材と調理法

を再現したコースメニュー「美食家 ロートレックへのオマージュ」を注文された方には、「トゥールーズ=ロートレック」の名を冠した黄色い薔薇もプレゼント。期間中は店内のデコレーションにもこの薔薇が使われます。展覧会鑑賞の前後に足を運んでみては?
東京都千代田区丸の内2-6-1丸の内ブリックスクエアアネックス2階
http://www.mikuni-marunouchi.jp/
コラボレーションメニュー
「美食家 ロートレックへのオマージュ」
10,000円(税込・サービス料別)
期間:2011年10月13日(木)〜12月25日(日)
連載2回目は、「トゥールーズ=ロートレック」展の担当学芸員に、必見の作品4点をセレクトしていただきます。お楽しみに!
- 会期
2011年10月13日(木)
〜12月25日(日) - 会場
三菱一号館美術館 - 所在地
東京都千代田区丸の内2-6-2 - Tel
03-5777-8600(ハローダイヤル) - URL
美術館
http://mimt.jp/
展覧会
http://mimt.jp/lautrec2011 - 開館時間
水曜日・木曜日・金曜日 10:00-20:00
火曜日・土曜日・日曜日・祝日
10:00-18:00
*入館は閉館の30分前まで - 休館日
月曜日 - 観覧料
一般:1,300円
高校・大学生:800円
小・中学生:400円
- 銀座MMFにご来館いただいた方先着で「トゥールーズ=ロートレック展」の無料観覧券を1枚プレゼント中です。「MMFウェブサイトを見た」とおっしゃってください。
*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。