旧市街のレンガ造りの街並みが中世の趣を残す、フランス南部タルン県の県庁所在地アルビ。13世紀に建てられた大聖堂と宮殿を中心に広がるこの司教都市は、2010年にユネスコの世界遺産に登録されるなど、高い歴史的価値を持つフランスの古都として知られています。世界で最大級のレンガ造りの建造物であるサント=セシル大聖堂は、その荘厳な南部ゴシックの外観もさることながら、15世紀から16世紀に描かれた総面積およそ2haにもおよぶ大聖堂内部の絵画がその傑出した価値を見せつけています。

　アルビの街は13世紀にアルビジョワ十字軍によるカタリ派の弾圧を経て、カトリックの重要な司教都市としてその歴史を刻んできました。大聖堂や司教の宮殿が建てられると、周辺には市街地が徐々に形成されていき、現在も旧市街として残る調和ある美しい街並みが生まれました。11世紀に建設されたタルン川に架かる古橋（ポン・ヴュー）は、街の商業的発展に大きな役割を果たしながら、カトリック権力のもとで拡大していく街を見守ってきた、いわば歴史の証人です。この橋からは、小高い丘となったアルビの素晴らしい都市景観を望むことができます。

　19世紀末に活躍した画家ロートレックは、1864年、このアルビに生まれました。市内にはロートレックの生家が今も残り（非公開）、また街の貴重な文化遺産のひとつであるベルビー宮殿は、現在「トゥールーズ=ロートレック美術館」としてその扉を開いています。
　裕福な伯爵家の長男として生まれたロートレックは、両親から「小さな宝石」を意味する「プティ・ビジュー（Petit Bijou）」と呼ばれて可愛がられ、恵まれた幼少時代を過ごしました。しかし生来の虚弱体質に加え、13歳と14歳の年に、たて続けに脚を骨折したことが原因で、両脚の発育が止まるという不運に見舞われてしまいます。脚が不自由で思い通り動くことのできなかったロートレックは、デッサンや絵画を描きながら長い時間を過ごすようになります。そして周囲の人々はすぐにその早熟な絵の才能を見いだしました。

　1882年、18歳の年にロートレックはパリのモンマルトルにあった画塾に入門し、本格的に絵の勉強を始めました。当時のモンマルトルはキャバレーやダンスホールが軒を連ねるパリ一番の歓楽街でした。ロートレックはしだいにそうしたモンマルトルの華やかな大衆文化に魅了されていきます。そして1891年、モンマルトルの人気キャバレー「ムーラン・ルージュ」のポスターを手掛けることで、ロートレックの名は一躍有名になるのでした。