ルーヴル美術館 カルコグラフィー工房

ギリシア語で「銅に書いたもの」を意味する「カルコグラフィー(chalcographie)」は、フランスにおいて銅版彫刻で刷られた版画、またその原版を保存する場所を表します。今月の特集はパリの北部サン・ドニにあるルーヴル美術館のカルコグラフィー工房を取材。卓越した職人の技術が光る銅版画の制作風景のレポートをお届けします。

カルコグラフィーはMMMブティックでもご購入いただけます

カルコグラフィーができるまで1

 ルーヴル美術館のグラフィックアート部門にあるカルコグラフィー工房では、今も伝統的な技術を継承し、貴重な原版のコレクションから版画作品が生み出されています。原版のコレクションはブルボン朝の歴代国王や皇帝ナポレオン(Napoléon Bonaparte/1769-1821)ゆかりのもの、そして現代作家の作品に至るまで多岐にわたり、その数は現在1万3千枚以上。歴史・文化の伝播や、芸術の普及、そして人々の教育と、数百年にわたりさまざまな目的で用いられてきたカルコグラフィーは、現代もなお私たちの目を楽しませ続けています。(これらのカルコグラフィー作品はルーヴル美術館やMMMのサイトでも購入が可能です。)傑出した版画の技術を持つボドキャン工房長の案内のもと、カルコグラフィー作品が刷り上げられるまでの過程を順に追ってみることにしましょう。

カルコグラフィーの原版室へ

▲貴重な原版の数々が保存されている工房の原版室

 工房奥にある原版室へと入ると、湿度や酸化から守るためポリエステルの袋に入れられたカルコグラフィーの原版が整理棚に整然と収められています。繰り返し使用される原版は印刷の摩擦で表面が傷むのを防ぐために、薄い鉄メッキで覆われており、使用しない間はその鉄メッキをさらに保護する目的でニスが全体に施されています。数百年前の貴重なコレクションを有するルーヴルのカルコグラフィー工房では、こうして細心の注意を払い幾重にもわたる保護のもと原版の管理が行われています。

印刷のための下準備

▲保管用のニスを溶剤で溶かしふき取っていく作業

 原版を印刷室へと運んだら、印刷のための下準備に取り掛かります。まず初めに行うのが、原版に溶剤をかけ表面のニスを取り除く作業です。ブラシをかけ、ゆっくりと布でふき取る作業を繰り返し、凹部まで入り込んでいたニスを残らず取り除きます。ニスが取れると光沢のある銀色の鉄メッキが現れ、繊細な線刻がはっきりと姿を見せます。今回工房長によって刷られる作品は、ダヴィッドの大作《ナポレオンの戴冠式》の銅版画です。

 印刷に使用するインクは、温め焦がして余分な油分を取り除いた亜麻油に、顔料、石鹸、テレピン油を混ぜ合わせたもの。さらにニスを加えることで、銅版の凹部にインクがしっかりと入り込み、同時に版から紙へとインクが移動しやすくなります。いわばインクの「型抜き」の原理です。工業用のインクは合成顔料のため、版を傷付け印刷後も光に弱いとのこと。手間と時間をかけてインクを練る作業にはそれだけの理由と価値があることが分かります。

▲インクを原版に塗る際に使用するローラーとバレン
▲ダヴィッドの大作《ナポレオンの戴冠式》のカルコグラフィー作品

 

Update : 2012.4.1
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