今回の展覧会の最注目作品が、日本初公開となる《大公の聖母》です。ラファエロは生涯に数多くの聖母子像を描きましたが、中でもこの作品は傑作として名高く、幾世紀にもわたり完璧な絵の典型とされてきました。そして本展では、最新の調査によって分かった新事実も紹介されています。
1505-1506 年 油彩/板 84.4×55.9 cm
フィレンツェ、パラティーナ美術館
©Antonio Quattrone
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《大公の聖母》は、ラファエロがフィレンツェへやって来た翌年の1505年、22歳の年に着手された作品です。この2年前には、レオナルドが《モナ・リザ》の制作を始め、前年にはミケランジェロの彫刻《ダヴィデ》がヴェッキオ宮の入り口脇に設置されました。
ルネサンスの巨匠たちは、後に傑作と呼ばれることになる作品を、同時期、同じフィレンツェの地で生み出していたのです。《大公の聖母》に見られる繊細かつ柔らかな陰影は、レオナルドの作品を熱心に研究した成果です。こうしてラファエロは、フィレンツェの地で先輩画家の技術を吸収しながら、輝くような生命力と優しさに満ちた独自の作風を築いていきました。
タイトルにある「大公」とは、トスカーナ大公フェルディナンド3世(Ferdinando III di Toscana/1769-1824)のことです。フェルディナンド3世は、18世紀末、フィレンツェがナポレオン(Napoleon Bonaparte/1769-1821)に占領された激動期にこの絵を入手し、生涯にわたって自身の寝室に飾っていました。大公のこの絵への思い入れはことのほか深く、フランス軍の侵略によって絵が奪われることを恐れ、亡命中も肌身離さず大切にしたといわれるほど。どこの誰によって注文された作品か正式な記録が残っていないため、所有者だったフェルディナンド3世の称号「大公」が冠せられているのです。
漆黒の背景に浮かび上がる聖母と幼子イエスの姿は神秘的で、まるでふたりの体から光が放たれているように見えます。しかし、実はラファエロが制作した当初、背景ははるかに明るい画面であったことが、X線撮影や近赤外線撮影などの最新の調査から分かってきました。X線写真からは、聖母子が建物を背にして立ち、建物の向こうには風景が広がっていることが確認されています。おそらく17世紀か18世紀、背景の傷みがひどかったため、黒色に塗り込められてしまったのではと推測されています。展覧会場では、こうした最新の科学調査の結果も分かりやすくパネルで紹介されています。
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