3月2日、多くの美術ファンが待ちに待った展覧会がついに幕を開けました。東京・上野の国立西洋美術館で開催中の「ラファエロ」展(〜6月2日)です。フランスにとどまらず、世界各国の美術館・博物館、そしてアート情報をご紹介するMMM(メゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンド)へと生まれ変わった、本webサイトの幕開けにもふさわしい華やかな展覧会。その見どころを豊富な会場写真を交えてご紹介します。
レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci/1452-1519)、ミケランジェロ(Michelangelo Buonarroti/1475-1564)とともに盛期ルネサンスの三大巨匠のひとりに数えられるラファエロ(Raffaello Santi/1483-1520)は、聖母子像を多く描いたことから“聖母子の画家”と呼ばれています。その作品は完璧な構図や技術を駆使しながらも、計算を感じさせない優美さで、時のローマ教皇や貴族たちに深く愛されました。優しさにあふれた作品は、工房の画工たちにもまるでわが子のように温かく接したといわれる、ラファエロの人柄をも映し出しているかのようです。37歳という若さで夭逝したラファエロでしたが、その作品は幾世紀にもわたり、西洋絵画のお手本とされてきました。今回の展覧会では、そんなラファエロの、はかなくも華麗な人生を作品でたどることができます。
まず会場入り口では、フィレンツェで活動を始めて間もない頃、21〜23歳で描かれたといわれる《自画 像》(1504-1506 年、ウフィツィ美術館)が、優しいまなざしを来館者に向けています。紫の壁色は、気品あるこの画家の雰囲気にぴったり。ラファエロの作品は、所蔵する世界のどの美術館でも注目作品であることから借用はとても難しいといわれています。そのため、これまでヨーロッパ以外の地域で大規模なラファエロ展が開催されることはありませんでした。ラファエロ作品23点がそろう今回の展覧会は、まさに“夢の展覧会”といえるのです。
若干17、18歳の頃に描いた祭壇画の一部《父なる神、聖母マリア》(中央/1500-1501年、カポディモンテ美術館)と《天使》(右/1501年、トジオ・マルティネンゴ絵画館)。まだ修業中の身でありながら、《天使》の生き生きとした表情に、未来の大画家の姿の萌芽が見られます。
これも20歳以前に描かれたとされる《聖セバスティアヌス》(1501-1502年頃、アカデミア・カッラーラ絵画館)。今回の展覧会ではこうした初期の作品からラファエロの画業をたどれるのも魅力です。
故郷である北イタリアのウルビーノを拠点に修業を積んだラファエロは、1504年、21歳でルネサンスの美の都フィレンツェへ進出します。ラファエロがフィレンツェにやって来たちょうどこの時期、ヴェッキオ宮殿ではミケランジェロとレオナルドがともに壁画を制作し、激しい火花を散らしていました。有名画家ふたりの競作は、ラファエロにとっても大きな刺激となったのでしょう。ラファエロはこの地でルネサンスの美を瞬く間に物にして、大きな飛躍を遂げました。そのフィレンツェ時代の代表作といえるのが、《大公の聖母》(1505-1506年、パラティーナ美術館)です。
広い展示室の中央に、まるで光を放つかのように置かれた聖母子像は、息を飲むほどの美しさです。
ラファエロがフィレンツェに本格的に進出した頃に描かれた《エリザベッタ・ゴンザーガの肖像》(1504年頃、ウフィツィ美術館)。人物の背景に描き込まれた風景描写は、フィレンツェで新たに習得した手法といわれています。
1505〜1507年頃、ラファエロはレオナルドの作品を旺盛な好奇心で研究していました。まるで《モナ・リザ》(1503-1519年頃、ルーヴル美術館)を彷彿とさせるポーズの《無口な女》(1505-1507年、マルケ州国立美術館)からは、研究熱心な若き画家ラファエロの姿も垣間見られます。
フィレンツェで腕を磨いたラファエロの次なるステージは、当時最大のパトロンであるローマ教皇のもとで働くことにありました。そして1508年、ラファエロはついにヴァティカン宮殿の教皇の居室を装飾するメンバーに選ばれました。ラファエロの筆から創造されるルネサンスの理想美は教皇をも虜にし、次々と重要な仕事を任されるようになります。ラファエロは今やレオナルド、ミケランジェロに並ぶ大画家の地位を手に入れたのです。しかしその12年後、わずか37歳でラファエロは急逝。ラファエロの死に際し、当時のローマ教皇レオ10世は深い悲しみに沈み、涙したといわれています。ラファエロの絶頂期を物語るような赤い壁の部屋が、ローマ時代の作品の展示室。中央に飾られたラファエロ原画の巨大なタペストリーが、ヴァティカンの壮麗な空間に誘ってくれるようです。
ラファエロ真筆の貴重な素描《ムーサの頭部》(右/1510年頃、ホーン美術館)。
優美な横顔、ほおや首の柔らかな表現、細やかな陰影などは、19世紀フランスの新古典主義の画家たちのお手本となりました。
身なりのいいふたりの男性が描かれた《友人のいる自画像》(1518-1520年頃、ルーヴル美術館)。左側の人物はラファエロの自画像といわれていますが、右側の人物はいまだ謎のまま。そのポーズから画家と親しい仲の人物だったと推測されています。
次ページでは、本展の最注目作品≪大公の聖母≫の
魅力を解き明かします。>>
*開催情報は変更となる場合があります。最新の情報は、公式サイト、ハローダイヤルでご確認ください。
*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。