ル・アーヴルのピサロ展に続く、2013年ノルマンディ印象派フェスティバル特集第2弾は、カン美術館で開催中の「水辺の夏―レジャーと印象派」展です。避暑地でのヴァカンスがブームとなった19世紀、印象派の画家たちはこぞって避暑地の風景を絵の題材に取り上げました。本展では印象派の巨匠の作品から、同時代に活躍したフランス内外の画家の作品まで、水辺における夏のレジャー風景を描いた作品66点を展示しています。
列車の発達に伴い人々が気軽に地方へと足を運べるようになった19世紀は、屋外でのレジャーが著しく流行した時代です。中でも海に面したノルマンディは、パリからもっとも近い海沿いの地であることから、パリジャンの避暑地として人気を博しました。このブームは美術界にも大きな影響をもたらします。アトリエから飛び出し、屋外制作を中心に行った印象派の画家たちは、人々がヴァカンスに旅立ち、避暑地で余暇を過ごす姿を新しい絵画の題材として取り上げたのです。当時のレジャーを頻繁に描いた代表的な画家には、モネ(Claude Monet/1840-1926)、ルノワール(Pierre-Auguste Renoir/1841-1919)、モリゾ(Berthe Morisot/1841-1895)、マネ(Édouard Manet/1832-1883)、ドガ(Edgar Degas/1834-1917)らが挙げられます。
レジャーがはやることにより、避暑地にはホテルが建設され、海水浴場には更衣室が設置されるなど、自然の風景の中に都会の人々の利用する施設が次々と現れました。カジノ、レストラン、コンサート会場なども上流階級の憩いの場として海沿いのヴァカンス地に作られます。大自然と都会のモダンな空気が混ざり合う、それまでにない光景がノルマンディやその他の地方に見られるようになったのです。印象派の画家たちは自らもヴァカンス客として地方に滞在しながら、人々がレジャーを楽しむ様子をモティーフに絵筆をとったのでした。
本展覧会ではノルマンディの海をはじめ、さまざまなヴァカンス地で描かれた作品を集めています。「砂浜」、「水のスペクタクル」、「ボートとヨット」、「水浴」の、4つの章から構成された内容です。2013年のノルマンディ印象派フェスティバルのテーマである「水」は、夏のレジャーとは切り離せない存在。水を描くことを得意とした多くの印象派の画家たちが、当時流行のレジャーの風景に興味を持ったのはごく自然な成り行きでした。
また本展では、古くから絵画において普遍的なテーマであった水辺の風景が、伝統的な表現から解き放たれていく点にも注目します。展覧会の前奏曲となる、ルノワールの作品《小川のそばのニンフ》は、「裸婦」「水」という西洋絵画の古典的なテーマを取り入れながらも、アカデミーとは一線を画した作品。自然な光に照らされた肌の色彩と、観覧者をじっと見つめるニンフの扇情的なポーズが、新しい美意識の到来を体現しています。
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注目の作品をご紹介します。>>
Update:2013.8.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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