ヴァロリスは料理用の陶器の産地としてもたいへん有名です。ピカソはヴァロリス名産の陶器の水差しや瓶、皿などを利用して、作品を多く残しています。この作品は穴の開いた栗用のポエロン鍋を利用したものです。表と裏にそれぞれ女性と男性の顔が描かれており、この鍋を垂直に持つと、まるで古代の演劇のマスクのようです。実用的で平凡な日用品をアートへと変容させた、ユニークな例のひとつです。
闘牛はピカソにとって重要なテーマでした。闘牛はピカソの出身地であるスペインの伝統であることから、ピカソの故郷へのノスタルジーが感じられます。陶器だけでなく、絵画や版画作品にもこのテーマは頻繁に見られました。この楕円形の作品は、皿の形をうまく利用して闘牛のシーンが描かれているのが特徴です。皿の縁の部分には闘牛場の日向と日陰の観客席が描かれています。日陰で牛を仕留めるという闘牛の伝統的なテクニックが表現されていることに注目です。
タナグラとは古代のテラコッタ製の人形です。この作品はヴァロリスの工房で作られていた瓶のフォルムを利用しています。ろくろで成形作業中の職人の手を途中で止め、土が柔らかい状態で瓶を女性像にデフォルメし、女性の腰のラインやドレスの波打つ様子が巧みに表現されています。ピカソは陶器制作に没頭するにつれ、徐々に絵画と彫刻のテーマを融合していきました。実際、1930年代のピカソの絵画にはこのような流動的なラインを持った女性が頻繁に描かれています。
ローマ神話に出てくる牧神のファウヌスもピカソの陶器のモティーフとしてたいへん重要でした。半身半獣の神は、多産の象徴でもあり、ピカソにとっては官能的なテーマでもありました。描かれているファウヌスの顔は、子どもの顔、若い男の顔、また老人の顔とさまざまです。老人の顔は、ピカソの自画像であったといわれています。当時ピカソは60歳を過ぎていましたが、年の離れた若い妻と小さな子どもたちがいました。老いながらも異性を魅惑し続けるというピカソの人生の理想が垣間見られる作品です。
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Update : 2014.2.1 文・写真 : 増田葉子(Yoko Masuda)
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