1984年、パリ郊外のジュイ=アン=ジョザス(Jouy-en-Josas)に設立されたカルティエ現代美術財団は、10年後の1994年にパリ14区のラスパイユ大通り沿いへと拠点を移しました。著名なフランス人建築家のジャン・ヌーヴェル(Jean Nouvel/1945-)が設計したパリのカルティエ現代美術財団の建物は、美術展を開く建物としては異例の総ガラス張りの建築。クリアで透明な建物の内部は、外部の景色と一体化し、昼と夜とでまったく異なる表情を見せています。注文制作を受けたアーティストは、この建物と必然的に対話を行い、この空間ならではの作品を多く生み出してきました。ここパリのカルティエ現代美術財団は、アートを「展示する」ためだけの空間ではなく、クリエイターがアートを「創造する」ための空間でもあるのです。本企画展では、ジャン・ヌーヴェルによって創り出されたその斬新で特別な空間にオマージュを捧げています。
「ガラス箱のためのバラード」と名付けられたこの企画展は、ジャン・ヌーヴェルによるカルティエ現代美術財団の建築が作品の素材となる初のアートプロジェクトです。ニューヨークの設計事務所ディラー・スコフィディオ + レンフロ(Diller Scofidio+Renfro)とカルティエ現代美術財団がコラボレーションを行うのは、今回で3度目。ユニークな感性で財団の建物そのものを巨大アートへと変貌させています。エントランスの右手の大展示室は水の張られた赤いバケツがひとつ置かれただけの空間です。不意にバケツが移動し、高い天井から滴る雫をキャッチするというシュールな現象がこの作品のキーとなります。隣の展示室にあるのは床に対面するように吊るされた巨大なスクリーン。観客がキャスター付の専用の寝椅子に乗ってその下へと潜り込むと、見覚えのある格子状の模様に視界を覆われます。既視感に包まれるのもそのはず、画面に揺らいでいるのはつい先ほど水漏れの場所を見上げたカルティエ現代美術財団の天井です。バケツが雫を受け止めるたびに、バケツの中のカメラが捉えた映像が揺れ、泡が立ち、その音が大げさに反響する仕組みになっています。
ふたつの空間を呼応させ、それぞれ異なる空間との接し方を提案するというじつにユニークな作品。人と空間との距離を測りながらジャン・ヌーヴェルの創造した「ガラス箱」が、瞑想の場と化します。
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コラボした企画展「住人」をご紹介します。>>
Update : 2015.1.5 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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