カルティエ現代美術財団の地下展示室で行われているのがアルゼンチン出身の画家ギジェルモ・クイッカ(Guillermo Kuitca/1961-)が手掛けた「住人」と題された企画展です。デヴィッド・リンチ(David Lynch/1946-)、ヴィヤ・セルミンス(Vija Celmins/1938-)、パティ・スミス(Patti Smith/1946-)といった財団の歩みに深く関わってきたアーティストの作品が、ギジェルモ・クイッカ独自の感性によってセレクトされ、新たにインスタレーション作品として再構築されました。複数のクリエイターの作品を織り交ぜた本展覧会の展示は、アイディア、アーティスト、作品の、「異種交配」によって思いがけない調和を見せています。カルティエ現代美術財団は30年の歴史の中で、さまざまなアーティストや作品の出会いを促し、互いに刺激を与え合う機会を提供してきました。そうした財団のメセナ活動の理念と成果を体現しているのがこの展覧会です。
2007年に開催された映画監督デヴィッド・リンチの個展「The Air is on Fire」を訪れたギジェルモ・クイッカは、その稀に見る感性に強い衝撃を受けたといいます。とりわけクイッカの心に強く刻まれた作品が、《リビングルーム》と題されたインスタレーション作品です。デヴィッド・リンチの同作品をクイッカが再解釈するという試みが本展の出発点となりました。アメリカのミュージシャン、パティ・スミスによる詩の朗読と、「生きた細胞」と形容されるクイッカによる赤と黒の幾何学模様の背景、そしてリンチの描いた絵画とソファー……。異分野のクリエイターの感性が絶妙に絡み合って響き合い、幻想的な空間が創り出されています。
そして隣接する大展示室で上映されているのが、企画展の名称の由来にもなったアルメニアの監督アルタヴァスト・ペレシャン(Artavazd Pelechian/1938-)による映画「住人」のモンタージュ映像です。モノクロの画面に映し出されているのは群れをなして移動する野性の動物たちの姿。自然の猛々しい音が展示室を包む中、そこに会しているのが、クイッカ、リンチ、セルミンスといった異なる感性を持ったアーティストの作品の数々です。それぞれの個性が共鳴しつつもコントラストをなすことで、複数のアーティストを介した壮大なインスタレーション作品が実現しています。
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Update : 2015.1.5 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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