ベルギーの国民画家で、20世紀美術を代表する芸術家ルネ・マグリット(1898-1967)。没後半世紀近くを経た今なお、国内外で高い人気を誇る画家です。今回、東京・六本木の国立新美術館で始まった「マグリット展」はじつに13年ぶりの日本での開催。MMMwebサイトでは、この展覧会の見どころを、国立新美術館の副館長・南雄介氏に案内していただきました。
殺人まで犯した破戒僧カラヴァッジョ、耳切り事件の末に自殺したゴッホ、「芸術は爆発だ!」の岡本太郎……。古今東西、「芸術家」という言葉には、波瀾万丈な人生、というイメージがつきまといます。ところが、マグリットの人生はその作品の印象とは裏腹に“平凡”なものだったそうです。
「マグリットは愛妻家。ダークスーツに山高帽というビジネスマンのような外貌で、規則正しい生活を送った画家でした」と南副館長。幼なじみと結婚して死ぬまで添い遂げ、つつましいアパルトマンで淡々と絵を描く──。しかし、その画面に描かれたのは、エロス、暴力、不条理……。そのギャップもまた、見る者の興味をそそる要因のひとつかもしれません。
とりたてて残酷なシーンや恐ろしい怪物が描かれているわけではないのに、マグリットの絵画は、見る者をどこか不安な気持ちにさせる要素に満ちています。
南副館長は「社会を変革しようとしたマルキシズムに対し、シュルレアリスムは人間そのものを変えようとしました。マグリットは日常の“モノ”が本来持っていた、人間との違和感や緊張感を取り戻すことによって、人間の考え方や芸術を改革しようとしたのです」と説きます。
シュルレアリスムは、1924年のパリでブルトンが提唱した運動です。ブリュッセルを拠点とするマグリットは、「夢」や「無意識」の世界に重点置くブルトンとは一線を画し、日常にある世界に不条理を忍ばせる、というスタイルで独自の画風を確立しました。
2年後には没後50周年を迎えるマグリット。没後半世紀を経てなお、古びることのないその魅力はどこにあるのでしょう。「現代は人類史上最もさまざまなイメージにあふれている時代ですが、マグリットはイメージと世界の関係をめぐる思索をこらした画家。そういう意味で、マグリットは現代の感覚を先取りしていたのです」と南副館長は話します。
インターネットに玉石混交のさまざまなコラージュが氾濫する現在、マグリットの作品は、そのあふれる詩情で見る者の心を捉えるのです。
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