ガラスとスチールでできた3つの波打つ形状が特徴的で斬新なフォルムの建物をデザインしたのはパリのポンピドー・センター、銀座のメゾン・エルメスや関西国際空港旅客ターミナルビル等を手掛けた、建築家レンゾ・ピアノ氏です。施設全体が敷地に埋まって見えるデザインのため、ランドスケープと一体化していて、自然と調和しています。これは建築家の意図だけではなく、施設側もクレー自身が大切にしていた「Art&Nature」(アートと自然)という関係性を尊重した結果とも言われています。
ベルン駅から当館を訪れるには、ベルン旧市街を横断して観光を楽しみながら市バス(市バス12番)で終点まで行くか、丘の麓までトラム(トラム7番)に乗りオストリング駅から歩いてベルンの町を一望しながら丘を上るか、車で行って施設のパーキングを利用するかの三択になります。
パウル・クレー・センターは地下1階、地上1階の計2層の建物で、3つの波状の丘によって構成されています。北側にある一番大きなノース・ヒル、中央のミドル・ヒル、そして南側にある小さなサウス・ヒルです。この丘たちを横断して結んでいる空間はミュージアム・ストリートと称されています。
3つの丘はそれぞれ異なる機能を担っています。ノース・ヒルはカフェ、コンサートホール「マルタ・ミュラー・オーディトリアム」、4つのセミナールーム、子ども美術館「クレアヴィヴァ」、イベントホールとアクティブな機能があり人々が集まる場所になっています。ミドル・ヒルは1階にミュージアム・ショップと世界中のさまざまなアーティストの作品を展示する企画展示室「モーリス・E・ミュラー・ホール」、地下1階にはパウル・クレーの作品をいろいろなテーマに沿って展示する展示室「フェリックス・クレー・ホール」があります。そしてサウス・ヒルには施設の管理事務所があり、主にスタッフが使う場所になっています。
建物のメイン・エントランスへアクセスするにはノース・ヒルとミドル・ヒルの間まで外の小道を歩き、そこにある架け橋を渡ります。展示を見たい場合はミドル・ヒルへ、カフェでひと息つきたい場合はノース・ヒルへ向かいましょう。
ミドル・ヒルのミュージアム・ショップの横にチケットブースがあるので入場券を購入したら展示を自由に見て回れます。チケットを購入しなくてもミュージアム・ストリートは無料なので寛ぎに来るだけの人々も見られます。通常入場料金は20スイスフラン、シニア料金は18スイスフラン、16歳以上と学生は10スイスフランとなっており、16歳以下は日曜日は無料です。音声ガイドは英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語の4種類となっており、日本語は用意されていませんが、日本語のパンフレットが用意されています。施設の概要や館内案内図がシンプルに記載されていて分かりやすく、便利です。
地下1階の展示はクレーの作品のみですが、年に1回変わるテーマに沿ってアーカイブのなかから選ばれたものがディスプレイされています。パウル・クレー・センターは多数のクレー作品を収蔵していますが、展示壁が1,750メートルしかないため、常設の展示はありません。目玉となるアートを観に行く通常の美術館とは違って訪れる度に異なる一期一会の展示が訪問者に足を何度も運ばせます。
現在のテーマは「Klee in Bern」(2015年2月14日-2016年1月17日)、クレーが故郷ベルンで活動した初期の時代(1809-1907)とナチスに追われ、ベルンに戻ってきた最後の時代(1933-1940)の作品をおもに紹介しています。高校時代のさまざまなスイスの都市のスケッチやベルンで行った展覧会、そしてベルンのアーティスト、コレクターたちに影響をあたえた、印象派とは異なるアートを堪能できます。また、最期の時期、病魔に蝕まれながら描いた有機的な方法をつかった作品も展示されています。
1階の展示室はクレー以外のアーティストを紹介する企画展示室です。ここも展示内容が数ヶ月ごとに変わるため、何度訪れても新鮮なアートが楽しめます。施設の方のお話によると、施設がオープンした当初はクレーのアートと似たジャンルのアーティストを選んでいたとのことですが、最近はまったく別分野のアーティストの作品を展示するようになり、ひとつのものに縛られずいろいろなスタイルをあえて混ぜ合わせてアートの視野を広げることを心がけているそうです。
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複合施設ならではの魅力を紹介します。>>
Update : 2015.6.1 文・写真 : 和田徹(Tohru Wada)
建築家。スイス・バーゼル在住。
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