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エスパス・ダリ Espace Daliマダムの連載の一部(10館)が本になりました。 バックナンバーを読む
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お次は、新約・旧約聖書のさまざまな場面を描いた《ビブリア・サクラ》(1967-1969年)をご覧になってください。大胆な線と鮮やかな色彩を用いた一連のリトグラフは、ダリの信仰心の表れといえましょう。

会場には、ちょっと面白い三角形の小さなガラスケースがありますから、忘れずに中をのぞいてみてくださいね。金メッキを施したとても独創的な銀のカトラリー・セット(1957年)やアーティチョークの形をした小さなスプーン、象の形の三本歯のフォークなどが展示されています。

彫刻作品《時間の横顔》を見てみましょう。ここでは柔らかい時計が、木の上で液状になり、人間の横顔に変わりつつあります。これはダリの強迫観念のひとつの表れです。硬いものと柔らかいものによって、外面と内面の対比を暗示しているのです。《宇宙的ヴィーナス》(1977-1984年)は、理想の女性を表現したもので、官能性と女らしさへのオマージュとなっています。退廃と腐敗を象徴する一匹のアリがヴィーナスの身体を這い、死を前にした不安を感じさせます。彼女のお腹の前に置かれた卵は、ダリのもうひとつの重要なテーマである「前世」「子宮内部」「誕生」といった主題を表現しています。巻き毛が女性美の象徴である薔薇の形になった永遠の少女を表す《不思議の国のアリス》(1977年)もまた、とても魅力的な作品といえましょう。《シュルレアリスム的ピアノ》は、ピアノの脚が女性の脚になっていて端にフリルがついた面白い作品で、今にも動き出しそうな気配です。

ダリと教会、宗教との複雑な関係を思い起こさせるものとして、エスパス・ダリは、1955年に造られたモンマルトルのロマネスク教会のスタッコ装飾を保存しています。この教会は、はっとするような視覚上の効果により実際よりもずっと大きく見えます。奥の壁には、ダリの姿が投映されています。左手には、礼拝堂の壁の前に、驚くほど見事な《キリスト磔刑》(1970年)が、十字架なしに宙にそびえたっています。ゴルゴタの石のピラミッドに打ち込まれた釘が唯一、キリストを地面に結びつけています。
ダリの宗教性は《天使のヴィジョン》(1977-1984年)にも表れています。巨大な親指は神を表し、そこから生命の象徴である木の枝が出現しています。最も大きい彫刻作品のひとつ《聖ゲオルギウスと竜》(1977-1984年)は、キリスト教の伝説をシュルレアリスム的に解釈し直しています。この彫刻は、同じものが教皇ヨハネ・パウロ2世(1920-2005)に贈られ、バチカン美術館に展示されています。

常に新しい芸術表現を求めていたダリは、デザイナーでもありました。実際、ここにある奇妙な家具のようなシュルレアリスム的オブジェを数多く創作しました。長い腕が脚になっている《ローテーブル・レダ》、《抽き出しランプ》(1904-1959年)、《スプーン付椅子》のほか、アメリカ女優メイ・ウエスト(1936-1937)の唇の形をした、かの有名な赤いサテン張りの《メイ・ウエストの唇ソファ》などがあります。

人を面食らわせる変わり者、多面体さながらの活躍をしたクリエーター、あらゆる大胆な実験をした男……。20世紀を代表するアーティスト、サルバドール・ダリは、そのパフォーマンスとメディアの利用という点において革新的で、アンディ・ウォーホル(1928-1987)やジェフ・クーンズ(1955-)の先駆けとなった存在だったのです。

ダリ・ファンの方々は、エスパスの出口にあるギャラリーで、グラフィック作品や複製彫刻をお求めになってもいいかもしれませんね。

友情を込めて。

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