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セーヴル国立陶磁器美術館 Musée national de Céramiqueマダムの連載の一部(10館)が本になりました。 バックナンバーを読む
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建物の中央にあるのは、大きな壺ばかりを集めた展示室(「栄光の間」)。ここに飾られた高さ3mもの有名なネプチューンの壺は、ひときわ印象的で目を見張るほど。その周りには、非常に美しい装飾が施されたナポレオン時代の壺や壮麗なエトルリアの壺など、さまざまな時代、さまざまな形の壺が置かれているのです。そのうちのひとつ、金彩の施された逸品がアントワーヌ・ベランジェ(1785-1867)による壺《フランス軍がイタリアから持ち帰った美術品のパリへの到着》(1815年)。感嘆する群衆に取り囲まれて《ラオコーン》や《ベルヴェデーレのアポロン》といった彫刻作品が荷車で運ばれてくる場面が描かれています。典型的なアール・ヌーヴォー様式を示す作品としては、エクトール・ギマール(1867-1942)の《ベネルの壺》(1903年)があります。また現代作家の作品も展示されていて、黒を使って描くことで有名なスーラージュ(1919-)の作品があります。

この展示室の左手には、フランス各地(ルーアン、マルセイユ、ムスティエ、ストラスブール)とオランダのデルフトにおけるファイアンス陶器の素材と装飾の展開を示すコレクションが展示されています。17世紀には、中国磁器貿易を展開したオランダ東インド会社の発展により、デルフトの陶工は中国磁器を模して、有名なデルフト陶器を作り出しました。そして、繊細な釉薬によって青く輝くデルフト陶器は大変な成功を収めたのです。ピラミッドの壺(1720年頃)はその好例といえましょう。

フランス中部のネヴェールでは、16世紀からイタリアの芸術家たちによって、ファイアンス陶器の大規模な制作が行われるようになりました。展示室の中央には、非常に豪奢で美しい《バッカナーレの情景》(1680-1685年)があります。清涼器と呼ばれる大きな水盤で、版画をもとにした作品です。その後ろにある、輝くような白さの逸品《聖セバスチアヌスの殉教》(1630年)は、ネヴェールの大聖堂のために制作されました。そして数多くの青地の皿は、ペルシャ、あるいは中国の装飾を模して制作されたものです。ネヴェールの成功によって、1644年、ノルマンディー地方のルーアンにもうひとつ製陶所が設立されました。ここで18世紀に、最初の食器セットや兜型の水差しのような装飾的な実用品が作られました。装飾はジャン・ベラン(1640-1711)のような装飾版画師による渦巻き装飾と、図案化された花をあしらった「垂れ飾り」が見事な装飾版画に影響を受けています。極東の様式への熱狂は中国風の装飾(パゴダ、釣りをする中国人)を生みました。1750年頃には日本風のモチーフ(花の咲いた生け垣、松、竹)と鮮やかな色彩が現れました。

右手の展示室は18世紀後半にセーヴルで大成功を収めた磁器、特に軟質磁器が展示されており、中には素晴らしい傑作も含まれています。わたくしがとりわけ魅せられたのは、美しい木彫細工を施されたルイ15世様式のガラスケースに展示された、ロシアのエカチェリーナ2世(1729-1796)のターコイズブルー地の食器セット(1779年)。空色、スイセンの黄色、緑、紫、バラ色といったパステル調の色彩の美しさで珍重された磁器です。

そして1768年、フランスのリモージュでカオリン鉱床が発見されたことをきっかけに、硬質磁器が生産されるようになり、セーヴル製陶所の評判はいっそう高まりました。この頃、セーヴルで作られた磁器に、マリー=アントワネット(1755-1793)のために制作された珍しい食器セット《ランブイエの乳製品加工所》があります。「乳のみ椀」と呼ばれる乳房の形をした牛乳を飲むための奇妙な三つ脚のボールからも分かるように、古代への懐古趣味がうかがえる作品です。

セーヴル製陶所の高い技術力と革新を物語る作品に、《フォンテーヌブローの昼食》(1835年)があります。硬質磁器で、レリーフ部分は素焼きのまま残してあります。1800年から1815年にセーヴル製陶所で作られた作品を集めた展示ケースもあり、ナポレオンの偉業を描いた絵画から着想を得た作品やジャック=フランソワ・スウェバック(1769-1823)が茶色の単彩画法で素晴らしい装飾を施したエジプトの食器セットの皿《エレファンティーヌ島の寺院の廃墟》(1811年)などが飾られていますから、ぜひ、ご覧になってください。

国立陶磁器美術館は、現在に至るまでの世界の陶磁器の歴史をたどる類い稀なコレクションに加えて、セーヴル製陶所が現代アーティストに作品を注文することで、コレクションをさらに充実させています。アーティストの中には私の従兄弟ジャン=ポール・ヴァン・リトもいます。現在は、20世紀の最も重要なイタリアの建築家のひとり、エットレ・ソットサス(1917-2007)の素晴らしい展覧会「アトリエの中の建築家」が行われています。
ヨーロッパ最後の陶磁器工房、セーヴル製陶所では、18世紀からそのノウハウと技術が継承されてきました。そして今なお、その国際的影響力を持ち続けているといえるでしょう。

友情を込めて。

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