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次の展示室には17世紀の作品が展示されています。オラツィオ・ジェンティレスキ(1563-1639)による《狩りの女神ディアナ》(1624-1630年)は、風になびく緑のローブのドレープ表現が素晴らしい大作で、この時代の絵画を代表する作品といえるでしょう。ディアナのアトリビュートがすべて描き込まれており、曲線からなる堂々としたディアナのシルエットはマニエリスムを思わせますが、まだらに光が反射する写実的な肉体表現はカラヴァッジョの影響を感じさせます。

来館者を驚かせ、考えさせるための工夫でしょうか、順路のところどころに現代アートの作品が現れます。17世紀絵画の展示室の奥には、マルシャル・レイスの《美しい葵》(1962年)が置かれています。これは女性を写したモノクロームの写真作品で、髪の黄色、そして目の下の青、目の上の赤の色が強調されて、魅惑的で扇情的な女性を表現しています。
仄暗い次の展示室では、静寂に包まれてジョルジュ・ド・ラ・トゥール(1593-1652)の3点の至宝をじっくりと鑑賞することができます。胸を打つ名画《ヴィエル弾き》(17世紀前半)には、着古してはいるものの驚くほど洗練された服を身につけた盲目の物乞いが、街頭歌手の伝統的な楽器ヴィエルを弾きながら歌う場面が描かれています。《聖ペテロの否認》(1650年)と《聖ヨセフの夢》(1642年頃)は、ともに1本の蝋燭だけを光源とする夜の情景です。

続く展示室には、ラ・トゥールと同時期に描かれた大型の作品が展示されています。シモン・ヴーエ(1590-1649)の《天に昇る聖エウスタキウスとその家族》(1636-1637年頃)は、パリのサン=トゥスタッシュ教会のために描かれました。フィリップ・ド・シャンパーニュ(1602-1674)による《パリサイ人シモンの家の宴》(1656年頃)は、写実主義的な色あいのある非常に古典的な作品です。
17〜18世紀の雅宴画も展示されています。ワトー(1674-1721)の初期作品《アルルカン、月の皇帝》(18世紀初頭)は、とても軽快な面白みがあり、私たちをコメディア・デラルテ(仮面即興劇)の世界へと没入させてくれます。ここではアルルカンが娘の気を引くために月の皇帝に扮しています。
19世紀のコレクターの精神を想起させるために、フランソワ・カコーとその弟で画家のピエールに敬意を表し、ふたつの展示室があてられています。ここには、マクシミリアン・ラブルール(1739-1812)による《ボルゲーゼのケンタウロス》(1800年頃)や《ファルネーゼのフローラ》(1800年頃)をはじめ数多の古代彫刻の模刻が展示されています。《ヴェドゥータ(都市景観画)》は、イタリアの風景を描いた小さいサイズの秀作で、数多くの芸術家たちがおこなったグランドツアーを思わせます。

お次は、大きな階段をのぼって19世紀、20世紀のコレクションへと参りましょう。まず始めに、美術館の傑作のひとつで、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル(1780-1867)の描いた最も美しい肖像画のひとつ《ド・スノンヌ夫人》(1814年)をご覧ください。描かれるのは赤いビロードの豪華なドレスを身につけ、鏡の前のソファに腰掛けた夫人の姿。ドレスの袖口に施されたルネサンス趣味の繊細なレース飾りが、完璧な楕円形をした顔によく似合っています。この作品は、数多くの芸術家たちを魅了し、イマジネーションを掻き立てたようです。このミュゼには、この作品をグリザイユ(灰色の濃淡)で表現したジェームズ・ティソ(1836-1902)の作品と、ジグマー・ポルケ(1941-2010)がこの作品をもとに制作した女性の肖像画《無題 2001》のふたつが、互いに対話するかのように展示されています。

歴史画にあてられた大きな展示室に掛けられた、ポール・ボードリー(1828-1886)の《シャルロット・コルデー》(1860年)は、衝撃的な肖像画。「暗殺の天使」ことコルデーが、マラーを殺めた直後、宙をみつめる姿で描かれているのです。また、東洋にインスピレーションを得た絵画もあります。ドラクロワ(1798-1863)の《カイード、モロッコの王》(1837年)や、靄がかかった柔らかい雰囲気の中、一艘の小舟がナイル川のルクソール神殿の前を走っているジャン=レオン・ジェローム(1828-1904)作《囚われの人》(1861年)をご覧ください。天井が草木の緑で美しく装飾された展示室には、レアリスム絵画のアイコン、クールベ(1829-1877)による《麦をふるう女》(1854年)があります。クールベは、田舎の日常生活という従来にはない主題で人々を驚かせ、この作品は当時、スキャンダルとなったのです。次の展示室はナントの画家ジェームズ・ティソの部屋です。ティソは美術館に作品のかなりの部分を遺贈しました。動物画をまとめたスペースには、ブラカサ(1804-1867)の《牝牛》と、バルビゾン派の風景画が展示されているほか、マウリツィオ・カテランによる作品も見逃せません。頭を地面に埋めた剥製のダチョウ《無題》(1997年)を前にした来館者は、一見、周りには無関心のようなダチョウのその姿勢に、何らかの問いが秘められていることを感じるに違いありません。

Update : 2018.6.1

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