フランス文化大臣アンドレ・マルロー(André Malraux)の提唱により、エクアン城に
設立された国立ルネサンス美術館は、昨年、創立30周年を迎えました。
パリから北へ約15km、イル・ド・フランスのなだらかな丘陵地を見下ろす
この優美な城は、フランス・ルネサンスの立役者とも呼ぶべき、アンヌ・ド・
モンモランシー大元帥(connétable Anne de Montmorency)が建造させた居城です。
ルネサンス美術館はまさに、フランス語で言う「アール・ド・ヴィーヴィル(Art de vivre)」、暮らしの美学をテーマにした展示を行っています。絵画・彫刻のコレクションももちろん展示されていますが、それはむしろ室内装飾の要素としての存在価値を表わしています。
絵画館でもなく、ロワールの城の数々やフォンテーヌブローのように当時の様子を再現した城でもないこの美術館は、ひとつの時代のアール・ド・ヴィーヴィルをテーマにした、フランスでも珍しい美術館です。
館内では、かつての城主や国王夫妻の居室に展開された「典型的」なルネサンスの居室の様子を窺いながら、イタリアやフランス、トルコの陶器や、琺瑯(ほうろう)細工、タピスリーと、あらゆる形態の工芸品を鑑賞できます。ルネサンス、それは芸術が花開いた時代、大航海時代の幕開け、そして戦争の世紀。それらの品を通して、我々は、この時代の芸術の多様性はもちろん、新しい世界に向けられていった当時の人々の視点や、さかんに行われていた人々の交流の様子を目の当たりにすることができるのです。
チケット売り場を兼ねているブティックを抜けるとまず奥に見えるのが、当時の天井の装飾が鮮やかに残る礼拝堂、シャペルです。天井の中央にはアンヌ・ド・モンモランシーと妻のマドレーヌ・ド・サヴォワ(Madeleine de Savoie)の紋章が描かれています。