ルネサンス美術館―エクアン城
フランス文化大臣アンドレ・マルロー(André Malraux)の提唱により、エクアン城に
設立された国立ルネサンス美術館は、昨年、創立30周年を迎えました。
パリから北へ約15km、イル・ド・フランスのなだらかな丘陵地を見下ろす
この優美な城は、フランス・ルネサンスの立役者とも呼ぶべき、アンヌ・ド・
モンモランシー大元帥(connétable Anne de Montmorency)が建造させた居城です。
Vue aérienne du château d'Ecouen © Musée national de la Renaissance © Photo RMN - © René-Gabriel Ojéda
モンモランシー 大元帥と エクアン城 国立ルネサンス 美術館開館まで ルネサンスの アール・ド・ ヴィーヴィル 1階から3階― 展示室を巡る
1階から3階― 展示室を巡る
 1階の展示室には武器コレクションの間や、ヌエバ・エスパーニャ(現在のメキシコ)産の、大変珍しい鳥の羽根を使った装飾のキリスト教の祭壇が展示されている部屋、木彫りの間、古代の石像が並ぶローマの英雄の間が続きます。古代の芸術の価値を再び見出したのは、長い中世のキリスト教の絶対的価値観から解放されたルネサンスの時代の人々であったことは言うまでもありません。また、科学の発達を示す、時計や羅針盤のコレクションもあります。金銀細工師の工房を再現した部屋では、作品だけでなく、当時の工芸品制作の過程にも注目する美術館の姿勢がうかがえます。天井に当時の装飾フリーズ(frise、帯状の装飾)を残す、アンリ2世の王妃カトリーヌ・ド・メディシス(Catherine de Médicis)の寝室を抜けると、すばらしい琺瑯(ほうろう)加工の陶器でできたメダイヨン(médaillon)や彫刻が展示される部屋に入ります。
▲フランソワ1世の鐙(あぶみ)。フランソワ1世の紋章、サラマンダー(火とかげ)とラテン語の「F.REX」(フランスの王)の碑文が刻まれている。
© Gabriella Pintér
▲ルカ・デッラ・ロッビア《節制》、琺瑯(ほうろう)引きの陶器の円形浮彫装飾(メダイヨン) イタリア 15世紀末
© Gabriella Pintér
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▲タピスリー《ダヴィデ王とバテシバ(David et Bethsabée)》の飾られたプシュケのギャラリー(2階)。
© D.R.
 階段を上り2階へ行くと、そこは国王アンリ2世(Henri II)の居室です。階段の隣の大居室には、当時の城の様子を窺わせるタイル張りの床が見られます。現在はほとんど残っていませんが、当時は色とりどりのタイル装飾が床にも施されていたのです。王の寝室からプシュケのギャラリー(galerie de Psyché)、アビガイユのパヴィヨン(pavillon d'Abigaïl)まで、2階の東翼はほぼ全面的にルネサンス美術館の代表作、《ダヴィデ王とバテシバ(David et Bethsabée)》のタピスリーの展示に充てられています。これは、旧約聖書に書かれた物語を描いたタピスリーの傑作です。
 ユダヤの王ダヴィデは部下の妻バテシバに一目惚れし、バテシバの夫を危険な戦場へ送り戦死させ、彼女を自分の妻にした、という話です。この作品の作者は定かではありませんが、タピスリー制作がさかんであったブリュッセルで織られたもので、カトリックで禁止されている離婚問題で法王と対立していた、イングランドのヘンリー8世(Henry VIII)が、自身の姿をダヴィデ王に重ね、世間に離婚を認めさせるために注文した、と推定されています。息を飲むような作品のすばらしさはさることながら、ここまで鮮やかな色彩をもつタピスリーは貴重で、それは見る人をしばし幻想の世界へと連れ去ってしまうかのようです。
 続く北翼のアンヌ・ド・モンモランシー夫妻の居殿には、イタリアやフランスで制作された豪奢な家具が飾られ、当時の貴族の館へ招かれたような気分を味わえます。
▲アンヌ・ド・モンモランシー夫妻の居殿にあるスピネッタ(チェンバロの一種)。
ジョヴァンニ=アントニオ・バッフォ作 木材
イタリア 1570年
© Gabriella Pintér
▲アンヌ・ド・モンモランシー夫妻の居殿にある螺鈿のキャビネット。
木材、真珠層、象牙、骨、彩色
ヴェネツィア 1575-1600年
© Gabriella Pintér
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▲J.ヴェンゼル《ダフネ》 ニュルンベルク 16世紀
ザロモン・ド・ロスチャイルド男爵夫人の遺贈品のひとつ
©Photo RMN - © René-Gabriel Ojéda
 最上階の3階には、アンヌ・ド・モンモランシーの図書室や、近年美術館のシンボルになっている《ダフネ(Daphné)》をはじめとする金銀細工が展示された、通称「金庫」の間があります。その隣、イタリアのマヨリカ陶器(majolique)とガラス細工、琺瑯(ほうろう)細工が所狭しと並ぶギャラリーを通り、南翼へ入ると、イタリア人画家カッソーニが15世紀に描いた絵画の連作が見られます。最後に、南翼では、当時独自の様式を確立していた、フランスのベルナール・ド・パリッシー(Bernard de Palissy)やサン・ポルシェール(Saint-Porchaire)の陶器の間や、ステンド・グラスの間、そしてフランス随一の規模を誇る、オスマン帝国時代のトルコの、イズニック陶器のコレクションを鑑賞できます。
 多種多様な常設展の他に、ルネサンス美術館では常に斬新で、発見にあふれるテーマの企画展を開催しています。2008年には、ルネサンス時代の医学をテーマにした「アルス・メディキナ(Ars Medicina)」展が4月3日から7月7日まで開催される予定です。
そして、フランスでは2008年1月1日から6月30日まで、14館の美術館・博物館・史跡の入館料を無料にする試みが行なわれていますが、このエクアン城のルネサンス美術館もその対象となっています。主任学芸員のバンブネ女史からは「この機会に日本からもより多くの来館者を迎えたい」とのメッセージを預かりました。
▲フランス・ルネサンスの陶器として名高い通称「サン・ポルシェールの陶器」。作者など未だ謎に包まれたまま。1545-1558年
©Lina Nakazawa
     
モンモランシー 大元帥と エクアン城 国立ルネサンス 美術館開館まで ルネサンスの アール・ド・ ヴィーヴィル 1階から3階― 展示室を巡る
 
文:中澤理奈(Rina NAKAZAWA)
写真:美術館提供、ガブリエラ・ピンテール(Gabriella Pintér)、中澤理奈
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ルネサンス美術館―エクアン城
URL
 
http://www.musee-renaissance.fr/
所在地
 
Château d'Ecouen 95440 Ecouen
Tel
 
33(0) 1.34.38.38.50
Fax
 
33(0) 1.34.38.38.78
E-mail
 
musee-renaissance
@culture.gouv.fr
開館時間
 
夏期(4月16日〜):9:30-12:45、14:00-17:45
冬期:9:30-12:45、14:00-17:15
休館日
 
火曜日
1月1日、5月1日、12月25日
入館料
 
※2008年1月〜6月30日まで常備展は入館無料。
詳しくはこちら→
一般:4.5ユーロ
割引料金(18歳〜25歳):3ユーロ
団体(20-30名):66ユーロ(要予約:33(0) 1.34.38.38.52)
※18歳未満は無料
※毎月1日は無料
庭園
 
※1月1日と12月25日を除き毎日入園は無料。
夏期(4月15日-9月30日):
8:00-19:00
冬期:8:00-18:00

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