芸術と機能性が調和したル・コルビュジエのサヴォワ邸

パリから西へ向かう郊外電車に乗ると、壮麗なオスマン様式の建物はしだいに姿を消し、30分ほどで中世の香り漂うポワシー(Poissy)に到着します。駅を出ると、12世紀に建築が始まったと伝えられる教会堂があり、さらに石畳の小道を行けば、不意に広大な緑に囲まれた白亜の建物が姿を現します。中世の雰囲気の中から、力強く出現する20世紀建築の息吹――。フランスの歴史的建造物の豊かさを再認識する瞬間です。今回は、20世紀建築の傑作といわれるル・コルビュジエ(Le Corbusier)が設計したサヴォワ邸をご紹介いたします。

天才建築家、ル・コルビュジエの生い立ち

▲ル・コルビュジエの肖像
© Fondation Le Corbusier

 ル・コルビュジエ、本名シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(Charles-Édouard Jeanneret)は1887年、スイスに生まれました。やがて時計職人だった父の跡を継ぐため、地元の装飾美術学校に入学します。そしてこの美術学校が彼に建築との出会いをもたらしました。校長の勧めによって初めて建築家とともに仕事をすることになったのです。しかし、彼は正式に建築を学ぶことは生涯ありませんでした。

 1917年、30歳の年にパリに移り住んだ彼は、当時の前衛芸術家たちと親しく交流します。そしてその3年後には、画家のアメデ・オザンファン(Amédée Ozenfant)とともに雑誌『レスプリ・ヌヴォー(L'ESPRIT NOUVEAU)』を創刊。ここで使用したペンネームが「ル・コルビュジエ」でした。このペンネームは母方の祖父の名前ルコルベジエに由来しています(出典:ル・コルビュジエ財団公式HP)。

▲雑誌『レスプリ・ヌヴォー』
© Fondation Le Corbusier

 日本にも彼が手掛けた作品があります。現在ユネスコ世界遺産への登録を目指している上野の国立西洋美術館です。1965年に78年の生涯を終えるまで、彼のアトリエには世界各国から弟子がやってきました。その中には、20世紀の日本近代建築を支えた前川國男や坂倉準三もいました。

サヴォワ邸の誕生

▲建設中のサヴォワ邸(当時の白黒写真)
© Fondation Le Corbusier

 「美しい敷地、豊かな森、草地のただ中に何にも邪魔されることなく建つオブジェ」

 これは、1928年にサヴォワ夫妻が初めてル・コルビュジエに送った建築注文書に見られる表現です。夫であるピエール・サヴォワ(Pierre Savoye)は、保険会社を経営するフランス北部出身のブルジョワジーでした。伝統に固執する保守派が多い時代にあって、ピエール・サヴォワは非常に現代的な感覚を兼ね備えた顧客であったといえるでしょう。というのも、当時、フランスにおけるル・コルビュジエの評価はポジティブなものばかりではなかったからです。

 サヴォワ夫妻が邸宅を注文する3年前の1925年、ル・コルビュジエはパリ近代化の都市計画書(Plan Voisin)の中で、伝統的な19世紀のパリを一掃し、高層ビルが建つ現代的な都市を提案。保守的なフランス人による厳しい批判の的となっていました。ル・コルビュジエのあまりに過激な伝統放棄、そして現代性の追求が受け入れられるにはまだ時間が必要だったのです。こうした状況下で、ピエール・サヴォワはアメリカ人の友人のためにル・コルビュジエがヴィル・ダヴレイ(Ville d'Avray)に建てた家を気に入り、すぐさま注文をしてきたのでした。この時ル・コルビュジエは40歳を迎えたところでした。

Update :2011.1.1
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PARIS MUSEUM PASS 利用可能施設

サヴォワ邸

  • 所在地
    82 rue de Villiers 75300 Poissy
  • Tel
    +33(0)1 39 65 01 04
  • E-mail
    villa-savoye@monuments-nationaux.fr
  • URL
    http://www.villa-savoye.monuments-nationaux.fr
  • 開館時間
    10:00-17:00(3/1〜4/30および9/1〜10/31)
    10:00-18:00(5/2〜8/31)
    10:00-13:00、14:00-17:00(11/2〜2/28)
  • 休館日
    月曜日、5月1日、11月1日、11月11日、
    12月25日〜1月1日
  • 入館料
    一般:7ユーロ
    割引料金:4.5ユーロ
    *18歳未満、身障者は無料
  • アクセス
    電車:RER A線でPoissy駅下車、バス50番線(La Coudraie行)で Les Œillets駅またはLycée Le Corbusier駅下車。
    高速道路:A13またはA14Rouen方面、出口Poissy centre。

MMFで出会える ル・コルビュジエ

  • インフォメーション・センターでは、サヴォワ邸のカタログ(日本語)やパンフレット、関連書籍などを閲覧いただけます。
 

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