芸術と機能性が調和したル・コルビュジエのサヴォワ邸

 「プロムナード」とは、フランス語で散歩や散歩道というような意味があります。「建築的プロムナード」とは、ル・コルビュジエがサヴォワ邸設計の際に提案した新たなコンセプトで、建物の外と内の境界を消滅させることを目指すものでした。このコンセプトを意識しながらサヴォワ邸内を見学すると、確かに私たちは建物内部にいながらも、窓から眺める景色に誘われ、視線が自然と外へ向かうようにしむけられていたり、壁をタブロー(額縁)のように切り取ることにより、外の風景が家の内部を飾る一空間となるような細部にはっとさせられるでしょう。
 それでは、「建築的プロムナード」をしてみましょう。

玄関ホールへ

▲正面入り口 外観
 

 玄関は邸宅への最初のアプローチという意味で、伝統的な建築物においては最も華やかに装飾が施される部分でした。ところが、このサヴォワ邸の玄関口は黒く重々しい金属製の扉が設けられ、その周囲は透明のガラス窓で取り囲まれており、非常にシンプルなものです。等身大のガラス窓を使用することで、玄関ホールは光に溢れた空間となっています。

 「建築とは、光のもとで組み立てる賢く正しく素晴らしいヴォリュームの遊びだ」。

 この言葉の通り、ル・コルビュジエにとってどのように外光を内部に取り込むのかという問題は最も重要なものでした。

スロープと螺旋階段

 玄関を入るとすぐに非常に特徴的なスロープと螺旋階段によって、訪問者はメインホールの2階へと誘われます。従来の階段ではなくスロープを設けることは、ル・コルビュジエにとって決定的でした。彼の言葉を借りれば、「階段を上るのとはまったく違った感覚を楽しむことができる。階段はふたつのフロアを分断するものだが、スロープはふたつを繋ぐものだ」と。居住者の動きをも想定に入れて造られた建築においては、そこに住む人は単なる「居住者」ではなく、まるでル・コルビュジエの演出した生活という舞台における“演者”であるかのようです。

▲玄関ホール
螺旋階段(左)とスロープ(右)
 
▲スロープの先に現れる踊り場(右)
 

サロン

▲サロン全景(当時の白黒写真)
© Fondation Le Corbusier
 

 スロープの正面の扉を抜けるとサロンに到着します。建物の中で最も大きな空間であるこのサロンの正面には、当時では考えられなかった巨大な窓が設置され、そこから2階中央に設けられた中庭テラスを望むことができます。

 照明にはスチール製の細長い器具が使用されています。工場で使われていたのを見たサヴォワ夫人が気に入り、ル・コルビュジエに自邸にも用いるよう提案したのでした。

▲巨大な窓のあるサロン全景
 
▲家具が入ったサロン全景
 

キッチン

 サロンから繋がっているひと部屋がキッチンです。キッチンを居住空間の重要な一要素と位置付けたことは、非常に近代的なことでした。また、アルミニウム製の引き戸のついた収納棚や配膳台も、そこに住む人の行動を計算して設計されました。

▲引き戸のついた配膳台
 
▲キッチン全景
 

サヴォワ夫妻の寝室

▲寝室から見える浴室
 

 子ども部屋の隣の扉はサヴォワ夫妻の寝室に繋がります。寝室には白と水色のタイルが印象的な浴室が設けられています。湯船の横にはタイル張りの個性的なフォルムのカウチが設置され、カーテンが寝室と浴室との仕切りになっています。このカーテンによりル・コルビュジエは、あたかも寝室に舞台空間のような雰囲気を醸しだす効果を狙ったといわれています。天才建築家の遊び心が光る空間です。

サヴォワ夫人の私室

▲サヴォワ夫人の私室に設けられた「壁の穴」
 

 夫妻の寝室の隣にはサヴォワ夫人のための私室がありました。この部屋の一方は大きな窓が占め、もう一方の中庭に面する壁には小さな窓が設けられています。

 ル・コルビュジエが「壁の穴」と称したこの小さな窓からは、外の景色を望むことができます。まさに伝統的なオスマン様式の白い壁に掛けられた絵画作品のように、外の景色がひとつの装飾として内部空間に取り込まれているのです。日本の借景の感覚に近いものです。

空中庭園からソラリウム(サンルーム)へ

 中庭には屋上(空中庭園)へ上るためのスロープが設けられており、ここから最上階のソラリウムに行くことができます。スロープを上った正面の壁には「壁の穴」が再び設けられ、ここから絵画のような景色を望むことができます。現在でこそ景色が変わってしまいましたが、当時はセーヌ河を望む大自然の絶景を見ることができたそうです。太陽の光を浴びながら風景を楽しむ――。ここでもル・コルビュジエは、単なる建築デザインではなく、そこに暮らす人々の憩いの時間の演出を提案しているのです。

▲空中庭園からソラリウムへのスロープ
 
▲「壁の穴」から望む風景
 

MMFでサヴォワ邸の「建築的プロムナード」が体感できます!

ル・コルビュジエの代表作、サヴォワ邸とマルセイユの巨大共同住宅「ユニテ・ダビタシオン」の魅力を、ル・コルビュジエ自身のクロッキーや当時の写真、さらには模型などで余すところなく伝える『LE CORBUSIER』(Jacques Sbriglio著/フランス語)。付属のDVDでは、今回ご紹介した「建築的プロムナード」さながらに、代表作の内部を体感することができます。MMF地下1階インフォメーション・センターで閲覧・視聴することができます。ぜひお立ち寄りください。

 

[FIN]

Update :2011.1.1 文・写真:今井朋(Tomo Imai)
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サヴォワ邸

  • 所在地
    82 rue de Villiers 75300 Poissy
  • Tel
    +33(0)1 39 65 01 04
  • E-mail
    villa-savoye@monuments-nationaux.fr
  • URL
    http://www.villa-savoye.monuments-nationaux.fr
  • 開館時間
    10:00-17:00(3/1〜4/30および9/1〜10/31)
    10:00-18:00(5/2〜8/31)
    10:00-13:00、14:00-17:00(11/2〜2/28)
  • 休館日
    月曜日、5月1日、11月1日、11月11日、12月25日〜1月1日
  • 入館料
    一般:7ユーロ
    割引料金:4.5ユーロ
    *18歳未満、身障者は無料
  • アクセス
    電車:RER A線でPoissy駅下車、バス50番線(La Coudraie行)で Les Œillets駅またはLycée Le Corbusier駅下車。
    高速道路:A13またはA14Rouen方面、出口Poissy centre。

MMFで出会える ル・コルビュジエ

  • インフォメーション・センターでは、サヴォワ邸のカタログ(日本語)やパンフレット、関連書籍などを閲覧いただけます。
 

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