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コニャック=ジェイ美術館
▲美術館の入り口。
©A.de Montalembert
このミュゼの前身は、パリの百貨店「サマリテーヌ」の創始者エルネスト・コニャック(1839-1928)が、自らが営む百貨店「サマリテーヌ・ドゥ・リュックス」に隣接する建物に創設した美術館でした。当時ビジネス街だったオペラ地区のキャプシーヌ大通り25番地に集められた美術コレクションは、1928年に彼が亡くなるとパリ市に遺贈されることとなりました。すべての人と美を分かち合うこと、それがエルネスト・コニャックの願いだったのです。
   
エルネスト・コニャックの人生は、初めから恵まれたものではありませんでした。苦しい幼年期を過ごしたのちに、パリで最も古い橋のひとつ、ポン・ヌフで行商人として身を立てるようになり、その稼ぎをもとに、ルーヴル河岸とモネー通りの角にお店を買い、少しずつ大きくしていったのです。そして、かつて売り子をしていた妻のマリー=ルイーズ・ジェイ(1838−1929)に支えられ、百貨店「サマリテーヌ」、後に「サマリテーヌ・ドゥ・リュックス」を創業。やがて、この百貨店は「何でも揃うサマリテーヌ」という有名なキャッチコピーで誰もが知ることとなりました。
▲マルタン・カルラン《箪笥》。
©Parisienne de Photographie
   
▲中庭から望むドノン館。
©A.de Montalembert
サマリテーヌの10階建ての大きな建物は典型的なアールデコ様式で、歴史的建造物に指定されています。最上階からはセーヌ左岸のすばらしい眺めが一望できますが、残念ながら現在は工事中のため、入ることはできません。

精力的に働き、瞬く間に莫大な財を成したエルネスト・コニャックとマリー=ルイーズ・ジェイは、職員のために福利厚生を整えるほか、美術品の購入にも乗り出しました。当初は、モネやルノワールといった同時代の芸術家の作品が中心でしたが、美術商の友人からの勧めもあり、18世紀美術に関心をもつようになり、家具調度品や絵画を含めた18世紀美術の素晴らしいコレクションを成していったのです。そして、自らはつましい生活を送り、子どもにも恵まれなかった彼は、コレクションをパリ市に遺贈することにしました。素晴らしき時代、18世紀──。エルネスト・コニャックは、18世紀の美に対する自らの嗜好と情熱を、できるだけ多くの人と分かち合いたいと願ったのです。

その後、1981年にサマリテーヌ・ドゥ・リュックスは閉店されます。建物は歴史的建造物に指定されたファサードを残してオフィスに改装され、1988年にはコニャック=ジェイ美術館も閉館。コレクションは1990年に現在のドノン館に移されることとなったのです。
   
ドノン館の入り口に入ると、エルネスト・コニャックとマリー=ルイーズ・ジェイの胸像がわたくしたちを迎えてくれます。ガラスケースには18世紀の小さな箱が飾られていて、当時の洗練された文化や卓越した技術の一端を垣間見させてくれます。

まずは1階のひとつ目のサロンへと参りましょう。アカンサスと花束の模様が施された樫のボワズリー(1760頃)の美しさは、思わずため息をつくほど。もともとは、ルイ14世(1643−1715)とルイ・フィリップ王(1773−1850)の従妹で、“ラ・グランド・マドモワゼル”として知られるアンヌ・マリー・ドルレアンが暮らしたノルマンディーのオー城にあったものです。ドアの上にある、ブーシェ(1703−1770)派の絵も素敵ですよ。お隣には、16世紀に典型的な彩色の格子天井と、18世紀のボワズリーのある小さな部屋があります。
▲ドノン館のグランド・サロン。
©Parisienne de Photographie
中庭と庭園の両方に面したメインのサロンはとても明るく、豪華な家具調度品が置かれています。ソファが2脚、《王妃の》肘掛け椅子が5脚ありますが、いずれも家具職人J.B.ルラルジュ(1711−1778)が手がけたボーヴェのタピスリー(1765−1770頃)が張られたもの。均整のとれた背もたれのカーブ、弓形の脚といったルイ15世(1710−1774)時代終盤の様式の特徴を備えた素晴らしい品々で、ボワズリーとも見事に調和していました。
 
▲ジョシュア・レイノルズ《ロバーロ・ヘンリーの肖像》。
©Parisienne de Photographie
皆さまに是非ともご覧いただきたいのが、素晴らしい造りの小さなテーブル。仕掛けがついていて、とても繊細なマルケトリ装飾が施されたこのテーブル(1760頃)は、王立ゴブラン工房の家具職人J.F. オーベン (1721-1763)による逸品です。ボードを動かせば傾斜を調整できる書見台にもなりますし、秘密の引き出しもあります。なんとエレガントで、精巧な造りでしょう!また、このサロンには著名なイギリス人画家レイノルズ(1723−1791)が描いた、英国貴族ロバート・ヘンリーの肖像画(1780頃)もありますのでお見逃しなく。フランスでレイノルズの作品を所蔵する美術館はあまりございませんので、一見の価値ありといえましょう。
   
それでは、お次は2階の展示室へと歩を進めましょう。途中、通路にはルイ15世とルイ16世時代の小さなテーブルが並んでいますが、いずれも優秀な職人の手によるもの。さまざまな機能があり、美しい装飾と実用性を備えたこうしたテーブルは、移動も楽であることもあり、18世紀にはとても好まれた調度品でした。また、ガラスケースには美しい素焼きの品々が飾られています。そのなかに、クロディオン(1738−1814)が手がけた犬のモニュメントの雛型(1780−1785)がありますが、これは、飼い犬の死を嘆いたある人物からの依頼で作られたものでした。
▲クロディオン《ちぢれ毛の犬の埋葬のためのモニュメント―雛型》
©Parisienne de Photographie
 
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