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コニャック=ジェイ美術館
 
▲ジャン=バプティスト・グルーズ《赤いチョッキの少年》。
©Parisienne de Photographie
青いボワズリーと家具調度品が美しい部屋を抜け、小さな円形の部屋へ参りましょう。ここには、このミュゼの誇るグルーズ(1725−1805)による子どもの肖像2点が飾られています。そのひとつがかの有名な《赤いチョッキの少年》(1775−1780)。初々しさ、そして純真さ──子どもの美点を見事に引き出したグルーズ。子どもを描くということにかけて、彼はフランス随一の画家でした。わたくしには、子どもに恵まれなかったエルネスト・コニャックがこれほどまでにグルーズの芸術に心惹かれたその訳が分かるような気がいたします。
   
 
   

壁全面にボワズリーが施された次のサロンには、シャルダン(1699−1779)による傑作《銅鍋のある静物》(1734−1735頃)が飾られています。温かい色味で表現されたキッチンテーブルの上の台所用具や日用品──わたくしはその素朴さに心打たれ、倦むことなくいつまでもこの作品を眺めていました。

ここからもう一度、狭く長い通路に入りますが、漫然と通り抜けてはいけませんよ。壁に掛けられたカナレット《1697-1768やグアルディ(1712−1793)やティエポロ(1696−1770)、ユベール・ロベール(1733−1808)らの素晴らしい作品をゆっくりとご堪能くださいね。

▲シャルダン《銅鍋のある静物》
©Parisienne de Photographie
▲ジョルジュ・ジャコブによるポーランド式の寝台。
©Parisienne de Photographie
次の階には、ジョルジュ・ジャコブ(1739−1814)が手がけた大変美しい、「ポーランド式」の寝台(1785頃)があります。ふたつの背もたれと天蓋があり、見事な装飾のこのベッドは、かつてヴェルサイユ宮殿で王家が用いていたものです。
   
繊細なパステル画を守るため、照明を落としている小さなサロンでは、モーリス・カンタン・ドゥ・ラ・トゥール(1704−1788)の卓越した作品群が紹介されています。とりわけ、わたくしの心を捉えたパステル画は《舞踏会の衣装を着たド・リュウ夫人の肖像》(1742)。波打つように輝く衣装に、青いリボンで飾られたマントを羽織った夫人を描いたこの肖像画の美しさは格別といえましょう。

そして、いま一度大きなサロンへと参りましょうか。帝政時代のボワズリーや家具調度品、絨毯のほか、10本の明かりが灯る摂政時代のクリスタルのシャンデリアが印象的です。
▲モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール《舞踏会の衣装を着たド・リュウ夫人の肖像》
©Parisienne de Photographie
   
▲ジャン=オノレ・フラゴナール《家畜小屋》
©Parisienne de Photographie
エルネスト・コニャックの18世紀への愛がいかほどであったか──このミュゼを巡ってみて、わたくしは彼の想いを理解し、その情熱を分かち合うことができたように思います。彼は、磁器やミニアチュール(綿密画)、嗅ぎたばこ入れ、素描、彫刻などの収集に情熱を注ぎましたが、同時に、小さな装飾家具や風俗画なども好み、なかにはとても親密な場面を描いた作品も見受けられます。ヴァトー(1684−1721)の作品や、優しそうな農民から口説かれている女性を描いたブーシェ(1703−1770)の《美しき女料理人》(1730−1735)をご覧になってみてください。この時代、日々の生活において女性たちがいかに重要な存在になっていったかが、よくお分かりいただけることと思います。
ドノン館は有力領主が暮らした豪華な屋敷を往時のままに再現したものではありません。多様ながらも一貫性のある作品を紹介することで、18世紀という時代の洗練された嗜好、そしてその魅力溢れる実像をわたくしたちに伝えてくれるのです。
この度、ミュゼ所蔵のパステル画や素描のカタログが出版されることになりました。これを機に、2008年3月28日から7月13日まで特別展「ヴァトーの世紀 18世紀フランスの素描」が開催されますので、決してお見逃しにならないよう。美術館所蔵の約50点の素描が公開され、なかには《酒を飲む女》や《ジェルサンの看板》といったヴァトーの有名な作品のデッサンのほか、フラゴナール(1732−1806)の彩色デッサンもあり、恋愛の駆け引きなどの情景を通じて、華やかな色恋沙汰に彩られた当時の日常生活の一端を垣間見ることができます。例えば《家畜小屋》のデッサンをご覧になってみて。少年と少女が激しく抱き合っているではありませんか!


親愛をこめて。
   
▲庭越しに望む美術館のファサード。
©A.de Montalembert
▲パイエンヌ通りからの美術館。
©A.de Montalembert
▲ドノン館の中庭。
©A.de Montalembert
 
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