ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派奇跡のコレクション

ワシントン・ナショナル・ギャラリーは、大規模な「美術館展」が極めて難しい美術館のひとつといわれているそうです。というのも、同館には「常設コレクション」と呼ばれる作品群があり、それに指定された作品は、ある一定の点数以上一度に貸し出してはならない、という決まりがあるのです。

ところが、今回の展覧会には、「常設コレクション」指定のフランス絵画全66点のうち、9点もの傑作が出品され、同館史上最多の記録を更新したのです。この9点を中心に、展覧会の様子をレポートします。

バルビゾン派から印象派へ─光を描いた画家たち

▲エドゥアール・マネ《鉄道》1873年
National Gallery of Art, Washington/Gift of Horace Havemeyer in memory of his mother, Louisine W. Havemeyer

 新国立美術館の1階の企画展示室を使った会場の構成はとてもシンプル。「印象派登場まで」「印象派」「紙の上の印象派」「ポスト印象派以降」の4つの章で、日本初公開作品約50点を含む83点を紹介しています。
 まずは第1章の「印象派登場まで」の部屋へ。自然を賛美したバルビゾン派のコロー(Jean-Baptiste-Camille Corot/1796-1875)やモネを外光へと導いたブーダン(Eugène Boudin/1824-1898)、ありのままの現実を描く写実主義を標榜したクールベ(Gustave Courbet/1819-1877)など、印象派の先駆けとなった画家たちの作品が並びます。

▲バジール(Frédéric Bazille/1841-1870)の《若い女性と牡丹》(1870年)も「常設コレクション」のひとつ

 そしてこの部屋の見どころは、何といってもマネ(Édouard Manet/1832-1883)でしょう。前述の「常設コレクション」にも指定されている《鉄道》のほか、《オペラ座の仮面舞踏会》や《プラム酒》など、急速に近代化を遂げる19世紀のパリを描き、印象派の画家たちに大きな影響を与えた画家の真骨頂といえる作品5点が並びます。

▲「印象派」の展示室。手前はモネの《揺りかご、カミーユと画家の息子ジャン》(1867年)

 そして続くのは、27点の油彩画が並ぶ第2章「印象派」の部屋です。ドガ(Edgar Degas/1834-1917)、モネ、ルノワール(Pierre-Auguste Renoir/1841-1919)と“印象派の顔”とも呼べる巨匠たちの作品が集いますが、中でも、傑作が揃ったのがモネ。《揺りかご、カミーユと画家の息子ジャン》と《日傘の女性、モネ夫人と息子》は「常設コレクション」に指定されているモネの代表作です。

 そして、アメリカが誇る女性画家メアリー・カサットの《青いひじ掛け椅子の少女》と《麦わら帽子の子ども》も「常設コレクション」で、子どもの愛らしさを見事にとらえた傑作です

▲中央が「常設コレクション」に指定されている、ルノワールの《踊り子》(1874年)   ▲モネの《日傘の女性、モネ夫人と息子》(1875年)
▲メアリー・カサット《青いひじ掛け椅子の少女》1878年
National Gallery of Art, Washington/Collection of Mr. and Mrs. Paul Mellon
  ▲メアリー・カサットの作品群。手前が《麦わら帽子の子ども》(1886年頃)

貴重な紙作品と ポスト印象派の作品群

▲第3章「紙の上の印象派」の展示室

 第3章「紙の上の印象派」では、印象派・ポスト印象派の画家たちが手がけた素描や水彩、パステル、版画といった作品27点が一堂に会します。紙に描かれたこうした作品は、ワシントン・ナショナル・ギャラリーでも常設されていないので、なかなか見る機会はありません。しかも同館には、紙に描かれた作品は1作品あたり15回までしか館外へ貸し出してはならない、という作品保護のための規定があるので、今回の展覧会はとても貴重な機会といえるでしょう。

 いかにもマネらしい絶妙な構図の水彩《葉のあるキュウリ》や、浮世絵の影響がうかがえるカサットの版画など、印象的な小品が揃い、時間をかけて一枚一枚を丁寧に見る来館者の姿が目立ちました。

▲ポール・セザンヌ《赤いチョッキの少年》1888-1890年
National Gallery of Art, Washington/Collection of Mr. and Mrs. Paul Mellon, in Honor of the 50th Anniversary of the National Gallery of Art

 最後は「ポスト印象派以降」です。初期の傑作《『レヴェヌマン』紙を読む画家の父》や「常設コレクション」指定の《赤いチョッキの少年》を含む6点のセザンヌ(Paul Cézanne/1839-1906)作品は、今回の展覧会の最大の見どころかもしれません。大作が並ぶ一角は壮観のひと言です。ほかにも、ゴーギャン(Paul Gauguin/1848-1903)やゴッホ(Vincent van Gogh/1853-1890)、ロートレック(Henri de Toulouse-Lautrec/1864-1901)、そして新印象派の画家スーラ(Georges Seurat/1859-1891)の作品が並び、一瞬の美を求めた印象派を超えようと模索した画家たちの多彩な世界が一望できるようになっています。


 アメリカが誇る珠玉のコレクションが集う今回の展覧会。ゆったりとした展示に、印象派・ポスト印象派の魅力がぎゅっと詰まった充実の内容です。ぜひ、足を運んでみてください。

▲スーラの《オンフルールの灯台》(1886年)も「常設コレクション」   ▲清々しい緑が印象的なゴッホの《薔薇》(1890年)が展覧会の掉尾を飾る

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Update : 2011.7.1
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ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション

  • 会期
    2011年6月8日(水)〜9月5日(月)
  • 会場
    国立新美術館 企画展示室1E
  • 所在地
    東京都港区六本木7-22-2
  • Tel
    03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • URL
    美術館
    http://www.nact.jp/
    展覧会
    http://www.ntv.co.jp/washington/
  • 開館時間
    10:00-18:00
    金曜日は20:00まで
    *入場は閉館の30分前まで
  • 休館日
    火曜日
  • 観覧料
    一般:1,500円
    大学生:1,200円
    高校生:800円
    中学生以下:無料
  • 巡回展(京都市美術館)
    2011年9月13日(火)〜11月27日(日)
開催情報は変更となる場合があります。最新の情報は、公式サイト、ハローダイヤルでご確認ください。
MMFよりチケットプレゼントのお知らせ
  • 2011年7月1日以降銀座MMFにご来館いただいた方先着10名様にワシントン・ナショナル・ギャラリー展の無料観覧券を1枚プレゼントします。「MMFウェブサイトを見た」とおっしゃってください。
 
 

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