▲メアリー・カサットの版画が並ぶ展示室

　南北戦争後、空前の経済発展を遂げた新興国アメリカでは、その財力にふさわしい文化を自国にもたらそうという機運が高まり、それとともに、多くの富豪が美術品の収集に関心を持ちました。そんな彼らと印象派の懸け橋となったのが、アメリカ人でありながらパリで印象派の画家として活躍していたメアリー・カサット（Mary Cassatt/1844-1926）でした。上流階級出身の彼女は、家族や友人たちに印象派の意義や価値を熱心に説き、収集をすすめたのです。こうして、彼女のネットワークを通じて、印象派はアメリカの上流社会の人々の中で人気を博していきました。

　こうしたアメリカでの印象派の人気に目を付けたのが、パリの画商たちでした。その代表格がポール・デュラン=リュエル（Paul Durand-Ruel/1831-1922）です。彼は、モネ（Claude Monet/1840-1926）やピサロ（Camille Pissarro/1830-1903）たちの反対を押し切って彼らの作品をアメリカに送り出し、結果的には大成功を収めたのです。1889年には自らの画廊のニューヨーク支店までオープンしています。

▲ジャン=バティスト=カミーユ・コロー《うなぎを獲る人々》1860/1865年
National Gallery of Art, Washington/Gift of Mr. and Mrs. P.H.B. Frelinghuysen in memory of her father and mother, Mr. and Mrs. H.O. Havemeyer

　そして何より、印象派の絵画そのものに、アメリカ人を惹き付ける魅力がありました。キーワードは「自然」です。新大陸の圧倒的な大自然は、すべてのアメリカ人にとって驚異的、かつ神秘的な存在でした。それは、19世紀以降にアメリカで生まれた文学や美術の重要なモチーフとなりました。こうした中で、自然を賛美し、自然との調和を目指したバルビゾン派や、自然の中で移ろう光を描いた印象派の作品が受け入れられていったのです。

　こうして、アメリカの富豪たちは印象派、続いてポスト印象派の一大コレクションを築き上げ、やがてワシントン・ナショナル・ギャラリーをはじめとする美術館に寄贈することとなったのです。ヨーロッパに憧れ、そしてそれを追い越そうと願ったアメリカの夢が詰まったコレクション。今回の展覧会では、その一端を垣間見ることができるのです。