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河尻亨一 特別インタビュー石岡瑛子、その存在の
熱量を伝えたい

注目の一冊『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』

MMMに隣接するggg(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)で、「SURVIVE – EIKO ISHIOKA/石岡瑛子 グラフィックデザインはサバイブできるか」が始まりました。広告から映画、演劇、オペラ、ミュージック・ビデオなど、幅広いジャンルで活躍した石岡瑛子の多岐にわたるクリエイションから、グラフィックデザインにフォーカスして紹介する展覧会です。
そこで今月は、この展覧会の監修者で、今年11月刊行の石岡瑛子の評伝『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』の著者でもある、作家・編集者の河尻亨一さんにお話をお伺いしました。

MMM:『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』、本当に面白くて、この週末、時間を忘れて読ませていただきました。河尻さんから見て、石岡さんとはどのような方でしたか?
河尻亨一さん(以下、河尻):ひと言で言うなら、すごい人。エネルギーのかたまりですね。瑛子さんとは、2012年に彼女がなくなるまで、その晩年の3年ほどのお付き合いでした。2011年には、gggのアニュアル・レポートの巻頭企画のために、ニューヨークで4時間にわたるロングインタビューをさせていただき、それが彼女の生涯最後のインタビューとなりました。プライベートでのパーティに招いていただいたこともありますが、瑛子さんは歯に衣着せぬタイプで、話は抜群に面白くて、かつ話し出したら止まらない。それでこちらは、元気をもらえるんです。エネルギーの“おすそ分け”です。
MMM:約540ページもの大部で、評伝としては、かなりのボリュームですが、これだけの本のご執筆を後押ししたものは何でしょうか?

河尻:瑛子さんの仕事にかける情熱、激しくてラブリーな人柄を多くの人に知ってほしいという気持ち、それに尽きます。彼女が亡くなった2012年当時、僕はある大学のデザイン系学科の授業を受け持っていました。それで、石岡瑛子という名前を知っているかどうか学生に聞いてみたんですが、80人ほどのクラスで手をあげたのはなんとたったの二人。愕然としました。クリエイティブの“魂”のようなものを、仕事を通じて示し続けてきた人の名を、デザインをやっている若者たちがほぼ知らない。これは問題じゃないかと。そこで「書く」という自分なりのスキルと方法論で、石岡瑛子という人の仕事、そして生き様を伝えられないかと考えたわけです。結果、長編になってしまいましたが、これでも、実際に書いたものの3分の2しか収めていないんです。

MMM:若い方のあいだであまり知られていない、というのは驚きです。
河尻:興味深いことに、石岡瑛子という人は、世代によってそのイメージが全然違います。というのも、瑛子さんは1960年代の資生堂の時代から、1970年代のパルコの時代、1980年代のアメリカ進出の時代、コッポラ監督の『ドラキュラ』(1992年)でアカデミー賞を受賞した衣装デザインの時代と、10年に1度くらい、創作のステージをアップデートさせている人なんです。ひとつの場所にとどまることを潔しとせず、業界や表現ジャンルの境界を超えて、常に新しいキャリアを切り拓いていきました。ですから、例えば40代半ばの僕と同世代の人なら、「アカデミー賞を取った人」というイメージがあり、上の世代の方には「石岡瑛子と言えばパルコの広告」といったイメージがあると思います。一方で、30代、20代となると、なぜか、クリエイター志望の若者たちのあいだでさえあまり知られていないんです。
MMM:アート関連の本としては、とても親切で、群を抜いて読みやすい本だと感じました。三島由紀夫の小説『金閣寺』のあらすじまでちゃんと紹介してくれていて、驚きました。
河尻:そこにはとてもこだわりました。もうちょっと難しいように書くと“かっこいい”のかもしれませんが、それは僕のやり方とは違うし、そもそもかっこよく書くのは苦手です。特に今回は、石岡瑛子さんを知らない若い世代にも読んでほしいと思って取り組んだわけですから、デザインや広告業界の人たちにしか通じないような書き方は、絶対したくなかった。一度ページをめくりはじめたら、内容が頭にスッと入ってくる。そんな目標を掲げて、文体から全体の構成まで“デザイン”したつもりです。
MMM:読み終わって、「元気をもらえた!」と思える本でした。

河尻:よかったです。近年、「日本は元気がない」と言われ続けていますよね。僕は、日本では数少ない広告クリエイティブ専門のフリーランスの編集者で、毎年、カンヌ・ライオンズ(カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバル)の取材にも行っているのですが、日本の元気のなさは、クリエイティブの世界にも明らかに現れているのがわかります。経済とクリエイティブの世界って、実は完全にリンクしているものなんです。失われた20年とも30年とも言われる、停滞した状況に対して、石岡瑛子という存在は一石を投じる存在でもあると思います。瑛子さんは、「Timeless(時代に流されず)」「Originality(私の底から湧き上がる何かを)」「Revolutionary(革新的なマインドで)」をマントラのように唱えていた人です。センセーショナルな広告から映画や舞台の美しい衣装まで、アウトプットはまったく違うようでありながら、彼女のクリエイションの根底にあるのは、イノベーティブ・マインドです。その意味ではクリエイターだけでなく、経営者や起業家、あるいは「世の中を変えたい」と思っている人たちが読んで勇気がもらえる、そんな一冊に仕上がっていると思います。

MMM:石岡さんのマントラ「Timeless」「Originality」「Revolutionary」の中から、本のタイトルに「Timeless」だけを持ってきたのは、なぜですか?
河尻:「時代を超えて残る本物とは何か?」というテーマを深掘りしたかったからです。瑛子さんの言う「Timeless」と、この本のタイトルとしての「Timeless」は、少しニュアンスが違うかもしれません。どちらかと言うと瑛子さんは「流行に流されない」という意味で使っていたと思いますが、僕は「時代を超える」という意味もそこに重ねています。要するに、この本の主人公は「石岡瑛子」と彼女が生きた「時代」なんですね。常に変わりゆく「時代」という魔物と「瑛子」が対決しながら、「私」をアップデートさせてサバイブしていく、時代を超えようともがく。そのひたむきで一生懸命な姿を、同時代のクリエイターたちとのエピソードも交えながら描いた物語なんだ、というメッセージをタイトルにこめました。
MMM:gggでの展示「石岡瑛子 グラフィックデザインはサバイブできるか」の監修も務められています。こちらは、ポスターや書籍など主に、1960〜70年代のグラフィックデザインにフォーカスした内容ですね。
河尻:ぜひ見ていただきたいです。石岡瑛子の“原点”に出会えるラインナップだと思います。そこに、僕に大きな勇気を与えてくれた、瑛子さんの言葉と声を“展示”したり、彼女のビジュアル世界を3D風にクローズアップしたオマージュ映像を用意したりと、石岡怜子さんのディレクションのもと、僕も含めスタッフ・関係者が何年もの時間をかけて準備を重ねてきました。ポスターやブックデザインがメインの展示ですが、ビジュアルからも言葉からも瑛子さんの生命力やパワーが、それがつくられた時代を超えてビシビシ伝わってきます。まさに石岡瑛子劇場ですね。その圧倒的な熱量にびっくりして、エネルギーと勇気を受け取っていただきたいと思います。

MMM3Fアートスペースでは、河尻亨一さんの書籍『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』を販売しています。

  • 河尻亨一著
    『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』
    ¥3,080(税込)

    朝日新聞出版

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