多くの美術ファンが開催を心待ちにしていた展覧会が三菱一号館美術館で2月開幕しました。「奇跡のクラーク・コレクション」展です。タイトルに「奇跡」と銘打たれていることからも、その充実した展示とそれへの自信がうかがい知れます。なぜ美術愛好家がこぞって見たいと望むのか――今回の特集では、知る人ぞ知るクラーク・コレクションの魅力を解き明かします。
未知のヴェールに覆われたクラーク・コレクション
皆さんはクラーク美術館をご存じですか。 アメリカ、マサチューセッツ州西部のウィリアムズタウンにあるクラーク美術館は、ルネサンスから19世紀末までの欧米の絵画や工芸を所蔵する美の館です。ウィリアムズタウンは、ニューヨークやボストンから車で3時間を要する緑豊かな地。そのロケーションゆえ、高い質を誇るコレクションの評判を耳にしている熱心な美術愛好家でさえ、なかなか訪れる機会の少ない美術館です。また、1955年の開館以来、クラーク・コレクションがまとまった形で館を離れ、国外で展覧されることはいまだかつて一度もありませんでした。しかし開館50年余りを経た2010年に始まった改装工事を機に、コレクションの世界巡回が決定。2011年にスタートを切った巡回展は欧米8都市を経て、2013年、ついに日本に上陸することになりました。美術ファン待望のコレクションがいよいよそのヴェールを脱ぎます。
“人生を美しく生きる幸せ”を実現したクラーク夫妻
そもそもなぜ、クラーク美術館に上質な“奇跡”のコレクションが誕生したのでしょうか? それは、この美術館を築いたロバート・スターリング・クラーク(Robert Sterling Clark/1877-1956)とその妻フランシーヌ(Francine Clark/1876-1960)の高い審美眼にほかなりません。スターリングの祖父はミシン製造会社として名高いI.M.シンガーミシンの創業者。大富豪の一族という恵まれた環境で育ったスターリングにとって、幼い頃から絵画は身近なものでした。
33歳になる年、米国陸軍将校としてフランスに渡った彼は、パリでひとりの舞台女優と恋に落ちます。その女性こそが、後に妻となり、偉大なコレクションをともに築くことになるフランシーヌでした。この出会いから1年後、スターリングはパリのアパルトマンを飾るため、絵画の収集を始めます。彼は20世紀初頭の華やかなパリの芸術・文化の中心で活躍していたフランシーヌの審美眼を信頼し、ふたりで足しげく画廊に通いました。こうして夫婦で集めた作品は、1945年の第二次世界大戦終戦後には500点を超える一大コレクションに成長したのです。
愛するパートナーとともに暮らす空間をより華やかに、美しく飾りたい――。互いに深い愛情を寄せ、信頼し合う夫婦が築いたコレクションは “人生を美しく生きる幸せ”に満ちあふれています。これこそ、多くの人がクラーク・コレクションに魅了される理由なのかもしれません。
美術愛好家垂涎のルノワール・コレクション
スターリングは収集を始めた当初、ルネサンスや17世紀オランダなどのオールドマスターの絵画を好んで購入していました。しかしその目はやがて、印象派をはじめとした近代絵画に注がれるようになります。中でも“生きる歓び”を絵画に託したルノワール(Pierre-Auguste Renoir/1841-1919)に夫妻は夢中になります。現在クラーク美術館は30点以上にのぼるルノワールの油彩画を所蔵しています。
それらの作品群は、世界中の印象派ファンが一度は見たいとあこがれるものばかり。そして、今回の展覧会にはその中から22点ものルノワール作品が出品されています。クラーク夫妻が初めて購入したルノワール作品《縫い物をするマリー=テレーズ・デュラン=リュエル》や最後のコレクションとなった《皿のリンゴ》なども含まれ、クラーク夫妻のコレクションの歴史にも思いをはせることができます。
- 会期
2013年2月9日(土)〜5月26日(日) - 会場
三菱一号館美術館 - 所在地
東京都千代田区丸の内2-6-2 - Tel
03-5777-8600(ハローダイヤル) - URL
http://mimt.jp/ - 展覧会
http://mimt.jp/clark/ - 開館時間
木曜・金曜・土曜日:10:00-20:00
火曜・水曜・日曜日・祝日:10:00-18:00
*入館は閉館の30分前まで - 休館日
月曜日
*ただし、祝日の場合は
18:00まで開館、翌火曜日休館、
5月20日(月)は開館 - 観覧料
一般:1,500円
高校・大学生:1,000円
小・中学生:500円 - 巡回展
兵庫県立美術館
2013年6月8日(土)〜9月1日(日)
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