ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア

展覧会をさらに楽しむために作品に描かれたテーマを読み解く

ルーベンスは生涯にわたって多くの宗教画や神話画を手掛けました。とはいえ、日本人にとって、宗教画や神話画を鑑賞する時、そのテーマとなった物語に馴染みがないため、絵を理解することが難しいことも事実です。
そこでMMFでは、数ある日本初公開作品の中から必見とされる2作品の、描かれたテーマに迫ります。物語の背景を知ってから作品を見れば、より親しみが持てるはず。さらにギャラリー・トークで監修者の中村俊春氏がお話しくださった見どころポイントもご紹介します。

日本初公開!ペーテル・パウル・ルーベンス《ロムルスとレムスの発見》

1612-1613年頃 油彩・カンヴァス、210×212cm
ローマ、カピトリーナ絵画館
©ROMA CAPITALE-SOVRAINTENDENZA BENI
CULTURALI-MUSEI CAPITOLINI

Story

この作品のテーマとなっているのは、古代ローマの建国神話です。雌狼の乳を吸っている赤ん坊は、古代ローマ建国に関わったといわれる双子の兄弟ロムルスとレムス。伝承によると、当時ローマ南東の国を治めていた王から王位を奪取した王の弟は、子孫による復讐を恐れ、兄の娘を生涯処女として生きねばならない巫女にしてしまいます。しかし軍神マルスに見初められた彼女はロムルスとレムスを出産。怒った弟王の命によって双子はテヴェレ川に捨てられますが、雌狼とキツツキに育てられることになりました。本作では、羊飼いのファウストゥルスが、双子を見つけた瞬間が描かれています。やがて、羊飼いに養われたロムルスとレムスは、長じて自分たちを捨てた王に復讐することになります。この作品には双子を育てた狼やキツツキのほか、テヴェレ川の擬人像、双子の養父となる羊飼いなど、神話の登場人物が描かれています。どの人物が誰なのか、絵をじっくり見ながら発見してみてください。

Curator's Voice

ルーベンスは8年間のイタリア滞在を終え、1608年にアントワープに戻ると、その後はただの一度もイタリアに赴くことはありませんでした。しかし、生涯、イタリアで学んだことを画業に生かし続けました。この作品はアントワープで描かれたものですが、構図の中心になっている雌狼と双子は、ルーベンスのイタリア滞在当時にヴァティカンにあった古代彫刻《テヴェレ川》の一部分をモティーフとして利用しています。彫刻から着想を得つつも、その硬質な素材感をルーベンスは巧みな画力でやわらかな温かみのある人体表現へと昇華させました。

日本初公開!ペーテル・パウル・ルーベンス《復活のキリスト》

1616年頃 油彩・カンヴァス、183×155cm
フィレンツェ、パラティーナ美術館 
©Gabinetto fotografico della S.S.P.S.A.E e per il
Polo Museale della città di Firenze

Story

キリスト教信仰の中でも最も重要視されている教義のひとつ「キリストの復活」の場面を描いた作品です。磔刑のあと、埋葬されたキリストは死の3日後によみがえり、昇天するまでの40日間、地上にとどまったと伝えられています。本作に描かれたキリストは、自らの石棺の上に座り、右足をしっかりと地面に下ろし、左足は今まさに地上を踏みしめようとしています。キリストが座す石棺の上の麦藁、左手に持つ旗、画面左上の天使が持つ月桂樹は、死に対する勝利を意味しています。

Curator's Voice

▲《復活のキリスト》と《キリスト哀悼》は、並んで展示されている

おそらく教会の墓碑のために描かれた作品と考えられています。ルーベンスはこの作品で、ほぼ等身大のキリストをあえて難しい正面からとらえて描きました。一流画家としてのルーベンスのプライドが垣間見られます。この作品では堂々とした肉体のキリストが表されていますが、その横に展示された《キリスト哀悼》(1614年頃、アントワープ王立美術館蔵)では、一転して土気色となった弱々しいキリストの屍を描いています。痛み苦しんだキリストへの同情心を見る者に喚起させる、こうしたタイプの作品は「祈念画」と呼ばれ、フランドルでよく描かれました。この対照的な2作品のように、モードを変えて描き分けられるのは、イタリアと北方、双方の伝統を手にしたルーベンスならではといえるでしょう。

[FIN]

Update:2013.4.1
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ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア

  • 会期
    2013年3月9日(土)〜4月21日(日)
    開催期間中無休
  • 会場
    Bunkamura ザ・ミュージアム
  • 所在地
    東京都渋谷区道玄坂2-24-1
  • Tel
    03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • URL
    http://www.bunkamura.co.jp/museum/
  • 展覧会
    http://rubens2013.jp/
  • 開館時間
    10:00-19:00
    金曜日・土曜日:10:00-21:00
    *入館は各閉館の30分前まで
  • 観覧料
    一般:1,500円
    高校・大学生:1,000円
    小・中学生:700円
  • 巡回展
    北九州市立美術館 本館
    2013年4月28日(日)〜6月16日(日)
    新潟県立近代美術館(予定)
    2013年6月29日(土)〜8月11日(日)

*開催情報は変更となる場合があります。最新の情報は、公式サイト、ハローダイヤルでご確認ください。

 

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