ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア

日本では、『フランダースの犬』の主人公ネロ少年が、ひと目見たいと願った美しい祭壇画を描いた画家として知られるルーベンス(Peter Paul Rubens/1577-1640)。ルーヴル美術館をはじめ、フランスの美術館でも多く所蔵されている17世紀バロックの大画家です。3月9日(土)から4月21日(日)までBunkamura ザ・ミュージアムで開催されている「ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」展では、真筆を中心に、ルーベンス工房の作品、そしてフランドルのほかの画家たちと共同制作した作品など、油彩画・版画・素描、約80点が展覧されています。今回の特集では、展覧会の様子と必見作品の見どころをご紹介します。

ふたつのキーワードでたどるルーベンス展の楽しみ方

今回の展覧会に出品されている約50の油彩画のほとんどは、日本で初めて公開されるものです。内覧会当日に行われたギャラリー・トークで監修者の中村俊春氏が「17世紀の画家の作品を借りてくるのはとてもたいへんでした」と漏らした通り、日本でルーベンスの作品に出会えるのはとても貴重な機会です。本展では、17世紀、ヨーロッパ中に名声をとどろかせたこの大画家が、どのようにしてその揺るぎない画力と地位を築くに至ったのかを、練り込まれたキュレーションでたどることができます。それでは、ふたつのキーワードを軸に、展覧会の様子をレポートしましょう。

▲展覧会場入口では、ルーベンスの自画像がお出迎え。この作品は、これまでルーベンスが描いたオリジナルの自画像を工房の画家が模写した出来の悪い作品とされていた。しかし、本展に先駆けて行われた洗浄により、表面の汚れたニスなどが落とされると、オリジナルと遜色のない質のよい作品であったことが分かった
▲展覧会の理解をより深めてくれる音声ガイドは、タッチペン方式の最新型。シートにペン先をタッチすると作品解説や特別コンテンツをすぐに聞くことができる

Keyword1 イタリア

▲イタリア時代のルーベンスの歩みを分かりやすくたどれる第1章「イタリア美術からの着想」の展示室。正面に見えるのは今回の注目作品のひとつ《ロムルスとレムスの発見》

 ルーベンスが生きた当時、ヨーロッパ美術の中心地はイタリアでした。南ネーデルラント(フランドル/現在のオランダ南部、ベルギー西部、フランス北部にまたがる地域)のアントワープで修業を終えたルーベンスは、23歳になる年の1600年、イタリアに向けて旅立ちました。修業を終えて「親方」となっていたルーベンスは、すぐに北イタリアのマントヴァで宮廷画家となり、翌年にはローマの地を踏みます。すでにイタリア・ルネサンスの三大巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci/1452-1519)、ミケランジェロ(Michelangelo Buonarroti/1475-1564)、ラファエロ(Raffaello Santi/1483-1520)はみな逝去した後でしたが、

▲ペーテル・パウル・ルーベンス
《毛皮をまとった婦人像》(ティツィアーノ作品の模写)1629-1630年頃 油彩・カンヴァス、91.8×68.3cm
ブリズベン、クィーンズランド美術館
Collection: Queensland Art Gallery

ローマには彼らが残した傑作が数多くありました。画集などで自由に作品を見られる現在と違い、実物でしか過去の巨匠たちの美に触れることができなかった時代、ローマは画家にとって、あこがれの地でした。若き日のルーベンスもまた、偉大な先達が創造したイタリアの理想的な美を踏襲しながら、自らの腕を磨いていきます。
 展覧会場でルーベンスの《自画像》に迎えられてすぐの展示室では、ルーベンスがどのようにイタリアの美を吸収していったのか、その過程がよく分かるよう作品が展示されています。また、ヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノ(Tiziano Vecellio/1490頃-1576)の作品を模写した《毛皮をまとった夫人像》からは、すでに大きな名声を獲得していた50代のルーベンスが大画家となってからもたゆまず研鑽に励んでいた画家の意外な一面を知ることができます。

Keyword2 工房

▲ルーベンス工房の絵画制作のあり方を探る、第2章「ルーベンスとアントワープの工房」の展示室

 今回の展覧会を楽しむために外せないキーワードが「工房」です。ルーベンスは1608年、母の死を機に8年間のイタリア滞在を終え、アントワープに戻りました。その腕を認められ、スペイン領ネーデルラント大公の宮廷画家に任命されたルーベンスは、大量の注文をこなすため、大規模な工房を組織します。作品を見る側は、どうしても「工房作」というと軽視しがちですが、一概にそうともいえないようです。ルーベンスが下描きをしたり、構想を練ったりしたものを、一流の腕を持つ工房の画家たちが仕上げた作品、さらにそれにルーベンスが加筆した作品などは、専門家でさえ、ルーベンスの自筆作品か工房作なのか、判別が難しいといいます。

▲ペーテル・パウル・ルーベンス
《眠る二人の子供》
1612-1613年頃 油彩・板、50.5×65.5cm
東京、国立西洋美術館

効率的な生産体制が敷かれたルーベンス工房で働く弟子たちは、徹底的に“ルーベンス風”に描くよう仕込まれたのです。
 そうしたルーベンス工房の制作の様子を物語る作品が、ルーベンス自身が描いた《眠る二人の子供》と次の展示室にある工房作の《聖母子と聖エリサベツ、幼い洗礼者ヨハネ》です。工房作の作品で描かれている聖母子に抱かれた愛らしいキリストの顔は、前出のルーベンス自筆の子どもの寝顔をお手本に、反転して描かれたものだとか。ルーベンスは弟子が参考にできるよう、こうした人物の頭部のバリエーションを多く描いていたのです。本展では、ルーベンスの“見えざる手”として働いた工房の画家たちの作品も、これまでとは違った視点で楽しむことができます。

▲ペーテル・パウル・ルーベンス(工房)
《聖母子と聖エリサベツ、幼い洗礼者ヨハネ》
1615-1618年頃 油彩・カンヴァス、154×119cm
フィレンツェ、パラティーナ美術館
©Gabinetto fotografico della S.S.P.S.A.E e per il Polo Museale della città di Firenze
▲人気のあったルーベンスの作品は版画作品としても多く出回った。今回はルーベンスの原画による版画作品も多数出品されている。ルーベンスは版画家への注文も厳しく、徹底的に質をコントロールし、粗悪品が出回らないようにしたという
Update:2013.4.1
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ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア

  • 会期
    2013年3月9日(土)〜4月21日(日)
    開催期間中無休
  • 会場
    Bunkamura ザ・ミュージアム
  • 所在地
    東京都渋谷区道玄坂2-24-1
  • Tel
    03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • URL
    http://www.bunkamura.co.jp/museum/
  • 展覧会
    http://rubens2013.jp/
  • 開館時間
    10:00-19:00
    金曜日・土曜日:10:00-21:00
    *入館は各閉館の30分前まで
  • 観覧料
    一般:1,500円
    高校・大学生:1,000円
    小・中学生:700円
  • 巡回展
    北九州市立美術館 本館
    2013年4月28日(日)〜6月16日(日)
    新潟県立近代美術館(予定)
    2013年6月29日(土)〜8月11日(日)

*開催情報は変更となる場合があります。最新の情報は、公式サイト、ハローダイヤルでご確認ください。

 

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