南仏カーニュの丘の上、オリーブ畑に囲まれた場所に、ルノワールのかつての自宅兼アトリエがあります。画家が晩年を過ごしたこの家は、現在、「ルノワールの家美術館」として一般公開されています。2007年の特集でもご紹介したこの美術館が、2013年の7月に18ヵ月に及ぶ改装工事を終えて再開館しました。新設された展示スペースや付属施設、新たな展示作品など、新しく生まれ変わったルノワールの家美術館の魅力をMMMが改めてご案内します。
南仏の都市ニースから程近い海沿いの街、カーニュ=シュル=メール。丘の上には約700年の歴史を持つ古城が建ち、その周囲には美しい中世の街並みが広がっています。ルノワール(Pierre-Auguste Renoir/1841-1919)がカーニュに移り住んだのは1903年のこと。健康面に問題を抱えていたルノワールは、温暖な地中海沿いに滞在することを医師に勧められ、現地の知り合いを頼って南仏のカーニュへとやってきました。1907年には自身が好んで何度も描いたことのあるコレットの丘の土地を購入し、オリーブの茂る敷地内に自邸を建設します。そして1919年にこの世を去るまでの晩年の日々を、妻アリーヌと3人の息子、ピエール、ジャン、クロードとともにこのカーニュの家で過ごしたのでした。
ルノワールは自邸内にある大・小2つのアトリエと、庭園に造った簡易なアトリエで、カーニュの自然やカーニュの娘たちを題材に絵筆を取りました。また彫刻家、リシャール・ギノ(Richard Guino/1890-1973)やルイ・モレル(Louis Morel/1898-1974)とコラボレーションをしながら、この地で彫刻作品の制作にも精力的に取り組みます。後年、息子のジャンが述懐しているように、健康状態がひどく悪化していたにもかかわらず、ルノワールはカーニュの家で晩年まで作品制作に力を注いでいたのです。
2012年初頭に始まった今回の改装工事の大きな目的は、ルノワールの住んでいた当時の様子を保存しながら、美術館の利便性を高め、内容の充実を図ることでした。庭園の入り口付近には、新しくエントランスが造られ、チケット売り場やブティック、休憩所が備えられました。斜面に同化するように建てられた建物は、木や石といった自然の素材が使用され、庭園の景観を損ねることのない外観です。
エントランスを抜けオリーブやオレンジの木が生い茂る南仏らしい庭園の遊歩道を進むと、視界へと入ってくるのが、ルノワールが描いた当時のままの農家の建物です。ここは現在も改装中ですが、来年には内部が一般公開され、映画監督であった息子のジャンがこの庭園で撮影した映画、『草上の昼食』(1959年)が上映される予定です。
コレクションが展示されているルノワールの自邸では、今回外壁や内装の修復と同時に、バリアフリーに配慮した工事も行われました。さらに新しい展示室も造られ、以前よりもボリュームのある展示内容で新たに来館者を迎え入れています。
次ページでは、初公開のキッチンをはじめ
リニューアル後の美術館の内部をご紹介します。>>
Update:2013.10.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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