ナンシーのシンボル、スタニスラス広場の北西に位置する凱旋門を抜けカリエール広場へと出ると、その正面奥に見えるのがロレーヌ旧官邸(Palais du Gouvernement)です。ここで2014年の4月13日までふたつの入場無料のアール・ヌーヴォー展が開催中です。両展覧会の共通のテーマは、装飾の世界に斬新なフォルムと独特の美意識をもたらしたアール・ヌーヴォーの重要なモチーフ「自然」。日常風景に生命を与えるかのような躍動的でダイナミックなアール・ヌーヴォーの装飾スタイルは、すべてといっていいほど自然の姿から着想を得たものでした。
ナンシー、ブリュッセル、バルセロナなど、アール・ヌーヴォーで有名なヨーロッパの13都市が提携した組織、レゾー・アール・ヌーヴォー・ネットワーク(Réseau Art Nouveau Network)が主催する「アール・ヌーヴォーの自然」展では、動植物がアール・ヌーヴォーの重要なモチーフになった経緯や社会的背景、またその作品例を豊富な写真や資料、映像を通して紹介しています。
19世紀の日本の開国後、ヨーロッパに普及した日本の版画がアール・ヌーヴォーに直接的な影響を与えたことは広く知られていますが、写真技術や顕微鏡で覗くミクロの世界など、当時のめざましい科学の発達も、革新的なアール・ヌーヴォーのデザインを生み出す追風となったことがよく分かります。
ナンシー派美術館企画の「アンソロジー」展では、ガレやマジョレルをはじめとする作家によるガラス工芸品や家具、陶磁器、グラフィック作品のほか、アール・ヌーヴォーの素材としては珍しい皮製品など、約60点を展示しています。
その大部分は寄贈や新規購入によりナンシー派美術館にここ15年以内に収蔵されたもので、今回初公開の作品も含まれています。
また、展覧会会場のロレーヌ旧官邸は、19世紀以降に軍の司令官の本拠地として機能していた建物。1913年から1914年にかけてこの官邸を利用した軍人フェルディナン・フォッシュ(Ferdinand Foch/1851-1929)は、ナンシー派のデザイナー、マジョレルに自身の仕事部屋の家具を注文しました。展覧会の中盤では、現在もロレーヌ旧官邸に保存されているそれらの家具一式が展示され、ナンシー派美術館所蔵のマジョレル作品と併せて見学することができます。
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Update:2014.3.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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