フランス北東部の都市ナンシーは、19世紀末から20世紀初頭にかけ欧米で隆盛を極めた装飾様式、アール・ヌーヴォーが花開いた街。ガラス工芸で有名なエミール・ガレ(Émile Gallé/1846-1904)やドーム兄弟(Frères Daum: Auguste Daum/1853-1909, Antonin Daum/1864-1930)は、ナンシーで活躍したアール・ヌーヴォーの代表的なアーティストです。今月のMMMの特集では、現在ナンシー市内で開催中のアール・ヌーヴォー展の紹介とともに、ヨーロッパ屈指のアール・ヌーヴォーの街、ナンシーの魅力をお伝えします。
アール・ヌーヴォーは華麗な曲線と動植物のモチーフを大胆に取り入れたデザインで1900年前後にヨーロッパを中心に流行した装飾様式です。ガラス工芸や陶磁器、木工家具といったインテリアから、石や鉄による建築のファサードまで、多様な素材で日常空間をダイナミックに彩り、人々を魅了しました。フランスにおいてパリと並びこの一大ムーブメントの中心的な役割を果たしたのが、フランス北東部の都市ナンシーでした。
ナンシーのあるロレーヌ地方は古くからガラスや陶器など、火を用いた工芸が盛んに行われていた地域です。アール・ヌーヴォーの流行の波が押し寄せた19世紀末、新しいデザインと革新的な技術でナンシーの伝統工芸にもモダンな息吹がもたらされました。そのなかでとりわけ大きな成功を収めたのが、ガラス工芸、陶器、木工家具のデザイナーとして有名なエミール・ガレでした。
アール・ヌーヴォー全盛の時代、このガレを筆頭に、ナンシーを拠点に活動するアーティストからなる芸術グループ「ナンシー派」が形成されます。ガラス工芸のドーム兄弟、高級家具師のルイ・マジョレル(Louis Majorelle/1859-1926)、画家のヴィクトール・プルーヴェ(Victor Prouvé/1858-1943)らがこのグループのメンバーとして名を連ね、ナンシー発の装飾芸術の振興に尽くしました。
ナンシーのアール・ヌーヴォーの立役者である彼らの軌跡は、今なおナンシーの街の随所に残されています。ナンシー派美術館ではガラス、陶磁器、織物、木製の家具など、多様な分野の作品が豊富にコレクションされ、ナンシー美術館ではドーム社の創業当初から現代までの作品を網羅したガラス工芸の常設展示が行われています。さらに、ナンシー市内の商業地区や住宅地を散策すれば、商店や銀行、個人邸宅など、独特の存在感を放つアール・ヌーヴォー建築に出会うことができます。
旧マジョレル邸は歴史的建造物に指定された重要なアール・ヌーヴォー建築のひとつ。現在修復が行われている最中ですが、週末に限り内部の見学が可能です。ナンシーで大輪の花を咲かせたアール・ヌーヴォーは、こうして今も街の至るところで人々にインパクトを与え続けています。
次ページでは、ロレーヌ旧官邸で開催中の
ふたつのアール・ヌーヴォー展をご紹介します。>>
Update:2014.3.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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